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常世語のお題(尚陽編)

粗末な釿婆子おんじゃく

「──さすがに寒いね」
 白い息を吐きながら伴侶が呟く。尚隆は微笑して粗末な釿婆子を伴侶に手渡した。伴侶は不思議そうに小首を傾げる。
「北国の旅には必須の釿婆子だ」
「──ずいぶん古びてるね」
「年季が入っているからな」
 ふらりと市井に出向くとき、身分を示すようなものを持って歩くわけにはいかない。そう説明すると、伴侶は、温かいね、と言ってにっこりと鮮やかな笑みを見せた。庶民の知恵も莫迦にはできないだろう、と返すと、伴侶は首を振る。尚隆は片眉を上げた。

「──温かいのは、釿婆子だけじゃないってこと」

 伴侶は悪戯っぽく返し、尚隆の腕に己の腕を絡めた。

2007.09.18.
 中編「雪明」にて冬道を歩く二人でございます。 北の国は一足早くあったかいものが恋しい季節になってしまいました。 猛暑に耐えている方々、暑苦しくてごめんなさいね〜。

 (案の定「暑苦しいんだよー! バカヤロー(リフレイン、リフレイン…)!!」 とのご感想を(苦笑)。確かに熱帯夜にこのお話の連続表示は暑苦しいですね〜。恐縮です)

2007.09.18.  速世未生 記
(常世語のお題(尚陽編)「そ」)
背景画像「篝火幻燈」さま
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