「目次」
「玄関」
常世語のお題(尚陽編)
小さな
野木
(
やぼく
)
「──懐かしいな」
小さな野木を見やり、伴侶は嬉しげに目を細めた。どうした、と問えば、ぽつりぽつりと昔語りを始める。
「こちらに来たばかりの頃、よくこういう木の下で夜を明かした」
塙王の放った妖魔に襲われ、逃げ惑いながらも常世のことを少しずつ学んでいったのだ、と伴侶は眩しい笑みを見せる。遠大な距離と時間を超えて雁に現れた娘は、辛い過去をも屈託なく語る。
「──お前が無事でよかった」
お前に会えてよかった。
華奢な身体を腕の中に収めて呟いた。昔のことだよ、と笑いながらも、伴侶は優しく尚隆の背に手を回した。この温もりに癒されているのは己のほうだと尚隆は知っていた。
2007.06.12.
「月の影〜」で体験した辛いことを笑って話せる──そんな陽子主上が、私は好きなのです。 そして、出会えた奇跡を思う尚隆も、私の「萌え」ツボでございます。
2007.06.23. 速世未生 記
(常世語のお題(尚陽編)「ち」)
背景画像「篝火幻燈」さま
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