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常世語のお題(尚陽編)

露に濡れた箭楼みはりば

 まだ暗い、未明の拓峰の街。街の東にある舎館をそっと出て、尚隆は六太とともに郷城に向かった。これからどうするの、と訊ねた陽子に答えを示すために。
 舎館から最も近い青龍門に近づいたとき、六太が小さく声を上げた。
「尚隆、あれ」
 門上の朝露に濡れた箭楼に立つ、華奢な人影。昇りつつある暁の太陽の如き紅の髪を、早春の風に靡かせた若き女王が、端然と東の空を眺めていた。
「──慶に昇る、暁の太陽だな」
「ああ、長き黎明が、ついに終わる」
 隣国の騒乱を見守り続けた雁国主従は、自ら内乱を平定した景王陽子を眩しげに見つめ、感嘆の溜息をついたのだった。

2007.07.17.
 拍手御礼のお話をあちこち探していたら、こんなものが出てまいりました。 ──実は書いたことすら忘れておりました。
 長編「黎明」第23回第67章の尚隆視点でございます。 またもや長編の隙間を埋めるお話でごめんなさい〜。

 (「別の人物からの視点を読むと話しに深みがますので隙間を埋める話しって大好き♪」 とのご感想をいただきました。──ほっ。ありがとうございました〜。09.25.追記)

2007.09.18.  速世未生 記
(常世語のお題(尚陽編)「つ」)
背景画像「篝火幻燈」さま
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