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常世語のお題(尚陽編)

涙の跡のある靠枕まくら

 肌寒さに目を覚ます。腕に抱いて眠ったはずの伴侶の姿はない。尚隆は目を開け、そっと辺りを窺った。残された靠枕が、濡れている。そして、伴侶は気配を消していた。
 名を呼んでも応えはない。涙の跡のある靠枕を撫で、尚隆は夜着を羽織る。牀を降りて窓の外を見ると、露台に紅の髪を靡かせる伴侶がいた。尚隆は小さく息をつく。

 涙を恥じて独りで泣く女王。いったい、何を悩んでいるのか。けれど、今は何も訊くまい。小さいながら毅然とした背を見せる伴侶を、尚隆は静かに見守った。

 やがて、伴侶はそっと牀に戻ってきた。冷えた身体を、尚隆は黙して抱きしめる。そして、瞠目する女王の涙を、微笑んで拭った。少女のように口を尖らせた女王は、それでも淡い笑みを見せ、尚隆に身を委ねた。

2008.07.25.
 前回のオマケ拍手にて尊大な尚隆を書いたせいか、今回はやたら謙虚でございます。 たまにはこんなかの方も如何でしょう……。

(「見守る尚隆――う〜んいいですね〜v」とのご感想をいただきました。 ありがとうございました〜。2008.08.05.追記)

2008.07.25.  速世未生 記
(常世語のお題(尚陽編)「な」)
背景画像「篝火幻燈」さま
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