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常世語のお題(尚陽編)

軒下の戈剣(ぶき)

「──あれ」
 不意に伴侶が声を上げた。珍しいものでも見つけたか、と尚隆は辺りを見回したが、目につくものはなかった。
「どうした?」

「──雁では、軒下に戈剣を置くものなの?」

 伴侶は少し顔を蹙めてそう訊ねる。戈剣などどこにあるのだろう。尚隆は不思議に思う。目に入るものは普通の民家だけだ。
「ほら、あれ」
 伴侶は民家の軒下を指差す。尚隆は思わず吹き出した。北国の住人には見慣れたものがそこにあったのだ。

「──陽子、あれは除雪道具だ」

 伴侶は目を丸くし、すぐに頬を朱に染めた。尚隆は足早に立ち去ろうとする伴侶を後ろから抱きしめた。

2011.11.08.
 本日立冬、初雪予報が出ました。 初雪が遅いといきなり積もるので、除雪用具をひとつ出しました。
 そんなわけでお題を書き流してみました〜。 お楽しみいただけると嬉しく思います。

2011.11.08.  速世未生 記
(常世語のお題(尚陽編)「の」)
背景画像「篝火幻燈」さま
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