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常世語のお題(尚陽編)

焼け残った里木りぼく

 荒れ果てた己の国を初めて見た景王陽子は声なく立ち尽くした。崩れかけた隔壁。壊された家の残骸。瓦礫ばかりの無残な無人の里──。
 何もかもが焼け焦げ、くすんだこの里で、色を残すもの。女王は黙して焼け残った里木を見つめた。里人に見捨てられ、丸裸のままの白い樹を。
 女王は拳を白くなるほど握りしめる。延王尚隆は、その震える細い肩にそっと手を置き、低く囁いた。
「……二度と喪われぬよう、お前が、その手で守れ」
 若き女王は無言で小さく頷く。が、尚隆の手の下で、華奢な肩はずっと震えたままだった。尚隆は肩に置く手に力を籠めた。

 ──受け入れろ。そして、乗り越えろ。お前になら、それができる。

2008.05.20.
 久しぶりの拍手更新、そして久しぶりの「常世語のお題(尚陽編)」でございます。 それなのに、ちっとも甘くないですね。
 時代的には「月影」の頃のお話でございます。 焼け出された里にぽつんと残る里木を見たらこんなふうに思うのでは、との妄想でございました。

2008.05.26.  速世未生 記
(常世語のお題(尚陽編)「や」)
背景画像「篝火幻燈」さま
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