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常世語のお題(尚陽編)

離宮のある 凌雲山りょううんざん

「──見せたいものがある」

 そう言った伴侶が陽子を連れていったのは、離宮のある凌雲山だった。

 視察と銘打って、伴侶は陽子を度々連れ出した。しかし、それらはいつも国主の秘かな隠れ家で、公に王のものであるところの禁苑とは縁遠かった。それだけに、この凌雲山は延王尚隆にとって特別なものなのだろう、と察せられた。
 誰もいない門を抜けて中へ入る。王の離宮と言うにはあまりにもささやかなその堂宇。

 ここにはいったい何があるのだろう。見せたいものとは何だろう。

 陽子は黙したままの伴侶の背をただ見つめる。

 話したくなるまで待とう。

 未だ口を開かぬ伴侶に寄り添い、陽子は静かに微笑した。

2010.02.08.
 久しぶりの「常世語のお題(尚陽編)」でございます。 長編「滄海」余話となりました。
 妄想はすぐ連鎖する……というか、連鎖妄想しかできない管理人でございます。 どうぞお許しくださいませ〜。

2010.02.08.  速世未生 記
(常世語のお題(尚陽編)「り」)
背景画像「篝火幻燈」さま
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