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常世語のお題(尚陽編)

怜悧な冢宰

「主上」
「──来るな、浩瀚!」
 陽子が慌てて手で隠した書簡を、冢宰浩瀚は難なく取上げた。手を伸ばす陽子をやり過ごし、ざっと中を検めて、浩瀚はくすりと笑いを零す。
「主上、執務中に恋文を書くのはお止めくださいね」
「なんで分かるんだ……」
 陽子にしか読めないはずの横文字を前に、浩瀚は察しの良過ぎる言を述べた。陽子は思わず本音を漏らす。怜悧な冢宰はにっこりと爽やかな笑みを見せた。
「主上が自ら仰るからでございますよ」
「──お前は相変わらず底意地が悪い」
「これはこれは失礼仕りました」
 主の苦言に、冢宰は嫌味なくらい恭しく拱手した。

2007.06.12.
 拙宅の浩瀚はいつもこんな感じかもしれません(苦笑)。 さてさて、今回陽子主上が書き流した横文字は何でしょうね? そんな妄想もまた楽しいです。

2007.06.23.  速世未生 記
(常世語のお題(尚陽編)「れ」)
背景画像「篝火幻燈」さま
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