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常世語のお題

粗末な釿婆子おんじゃく


「炭を買いにお行き」
 冬の無聊を慰める朱旌たびげいにんが来るその日に、沍姆は紺青の髪の娘に冷たく言いつけた。紫紺の瞳に反抗的な色を浮かべた娘は、それでも里の閭胥の言に従った。
 さり気なく卓子に置かれた粗末な釿婆子に目もくれずに、娘は出て行く。その背を沍姆は黙って見送った。

「──お偉い公主さまには、こんなものは必要ないのだろうよ」

 寒い北国を旅するときに必須である、懐を温める釿婆子を手にし、沍姆は小さく呟いた。

2007.07.10.
 「風の万里〜」にて、膝まである雪をかきわけて炭を買いに行かされた祥瓊。 言いつけた沍姆はどんな気持ちだったのだろう、と思っておりました。 閭胥である彼女は、どれほどの葛藤を抱いて公主を見つめていたのでしょうね……。

2007.07.19.  速世未生 記
(常世語のお題「そ」)

背景画像「篝火幻燈」さま
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