「目次」 「玄関」

常世語のお題

離宮のある凌雲山

「──梨耀」
 いつもの如く執務室に入った愛妾を、主は機嫌のよい声で呼ぶ。常とは違う様子に、梨耀は足を止める。

「疲れているようだな、静養してはどうだ」

「──主上、私は疲れてなど」
「琶山がよい。お前はあの離宮を気に入っていたろう?」
 笑みを見せつつも主の目は冷たい。梨耀は唇を噛み、深く頭を下げて拱手した。

「──お心のままに」

 才気煥発な愛妾が離宮のある凌雲山に移ってから、王朝の瓦解は急速に進んだのだった。

2008.02.08.
 梨耀はどんな想いで主に諫言し、どんな想いで王宮を去ったのでしょう。 そして……どんな想いで主の末声を聞いたのでしょう?
 想像すると、胸が痛みます……。

2008.02.08.  速世未生 記
(常世語のお題「り」)
背景画像「篝火幻燈」さま
「目次」 「玄関」