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五題「夢」其の二

夢よりも

 今宵もまた、夢を見る。温かな腕を枕に、心地よく眠る夢を。目覚めると、暗い牀に独り横たわっていた。今見たものを思い出し、そして、深い溜息をつく。虫のよい夢を見た、と。

 淋しくて、眠れない。

 起き上がり、膝を抱えた。独りの夜は、どうしてこんなに長いのだろう。そんなとき。

 かたりと微かな音がした。そして、潮風に揺れる帷を開けて滑り込む大きな影──。

「──夢の続き……?」
「──夢のほうがよかったか?」

 思わず漏れた呟きに、笑い含みの答えが返ってきた。耳許で意地悪な問いかけをするひと。薄闇の中、陽子は苦笑を浮かべつつ首を横に振る。

 夢よりも、現のあなたがいい。

 けれど、その一言は口に出さず、胸の中に留めた。

2008.12.22.
 そして長い夜はあっという間に過ぎ去りました……なんておちゃらけてはいけないですね。
 推敲したら、妙に気恥ずかしくなりました。

2008.12.22.  速世未生 記
(拍手其の二百五十三)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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