五題「夢」其の五
夢で逢えたら
夢の中でなら、きっと素直になれるのに。夢で逢えたなら、逢いたかった、と伝えられるだろうに。そう、夢でなら。
だから、今晩は、あのひとの夢が見られますように──。
願いどおり、夢に伴侶が現れた。優しい笑みを浮かべ、陽子を抱きしめてくれた。陽子は目を閉じて伴侶に身を委ねる。けれど、夢でなら言える、と思った言葉を唇に乗せることはできなかった。
胸が詰まり、涙が溢れた。夢ですら、思うことが言えないなんて。恥ずかしくて、情けなくて、ただ、ぎゅっとしがみついた。
くすり、と笑う声がした。陽子、と名を呼ばれた。涙に濡れた瞳を上げると、楽しげに笑う顔が見えた。いつものように頬を濡らす涙を拭う唇。目を閉じると伴侶は優しい口づけをくれた。夢はどうしてこうも願いどおりに進むのだろう。陽子はそっと呟いた。
「──逢いたかった」
伴侶は陽子をきつく抱きしめ、もう一度口づけをくれた。熱く深い口づけに頭がくらくらする。夢って凄い、ともう一度思った。
「──陽子」
耳に響く心地よい声。まるで、すぐ横にいるみたい。陽子は目を閉じたまま逞しい背に回した手に力を籠める。すると、笑いを噛み殺したような声が耳朶をくすぐった。
「陽子。寝ぼけているだろう」
「──!」
眠気が覚めた目で見ると、伴侶はいつもの如く人の悪い笑みを浮かべている。開きかけた唇がすぐに塞がれて、陽子の言い訳は甘い口づけに呑まれていった。
2010.12.20.
年末進行でストレスが溜まってまいりました。
ストレス昇華の甘めのお話でございます。
無論、朝に推敲すると物凄く恥ずかしいのですが……。
お気に召していただけると嬉しく思います。
2010.12.20. 速世未生 記