「黎明余話」 「玄関」

冬 至

 郊祀──。

 冬至の日、王は自ら天に鎮護の祈りを捧げる。

 ──国に安寧を。

 今日、このとき、在位する全ての王がそう祈願する。正装し、飾り立てられた王こそが天に捧げられた贄。

 ──国に安寧を。

 王は等しく祈念する。この祈りは、天に届いているのだろうか。天は我らを慈しんでくれているのだろうか。

 ──国に安寧を。

 天に思いを馳せながら、今年もそう祈る。天命に縛られしこの身を捧げて。

 ──国に安寧を。

* * *    * * *

 己の伴侶も、初めての祈りを捧げているのだろうか。波乱に満ち、荒れた国に遣わされた若き女王も。

 郊祀を終えた延王尚隆は、己の伴侶が治めし東の方角を見やる。妖魔が跋扈し、荒廃する隣国、慶。正しき王を迎え、やっと天災がおさまった。

 登極したばかりの新王の前には問題が山積みだ。伴侶のためにできる手助けは限られている。せめて祈りを送ろう。


 景王陽子、お前の国に、安寧を──。

2005.12.20.
 「黎明」と平行して書いていた小品です。 冬至が近いので引っ張り出してきました。
 実は「5000打記念」にしようかと思っていました。 でも、記念にするにはちと暗いかな〜と思い、お蔵入りしていたものです。

2005.12.20. 速世未生 記
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
「黎明余話」 「玄関」