花 実
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口づけを交わす。抱きあった肩越しに見える、庭院の花。
匂い立つその花は、やがて実をつける。──小さな溜息をつく。
いくら身体を重ねても、私は、このひとの子供を産むことはできないんだ──と。
二つ目の溜息を聞きとがめたひとが、目で問う。
苦笑を浮かべ、首を振る。
いくら同じ胎果でも、男のひとには、言っても分からないだろう。
私は、あなたの子を産めないんだね、なんて。
* * * * * *
細い身体を抱きしめて、その朱唇に口づけを落とす。
小さな溜息をつく伴侶の視線の先に、咲き誇る花。
腕の中の花は、咲き初めた頃の美しい姿を永遠に保ち、散ることも、実を結ぶこともない。
そして気づく。俺は惚れた女に子供を産ませられないのだ、と。
蓬莱にいたとき妻が産んだ子供は、己の子ではなかった。
──俺の血を引いた子を、この女が産むことはないのだ、と思うと、少し切なかった。
こちらにきて、もう五百余年も経つというのに。
伴侶が、もうひとつ溜息をつき、我に返った。
己の物思いがおかしかった。
いくら胎果といっても、若い伴侶にそんなことを言うわけにいかないだろう。
お前は、俺の子を産めないんだな、とは。
溜息のわけを目で問うた。
伴侶は寂しげな微笑を浮かべ、そっと首を振った。
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どちらともなく、唇に笑みを浮かべた。目と目を見交わす。
互いがいれば、それでいい。
そしてまた、甘く長い口づけを交わす──。
2005.07.09.
尚陽──のつもりです。
固有名詞はないけれど、お解りいただけるのではないか、と。
女は、若く健康なときは、いつでも子供を産める、と心のどこかで考えているような気がします。
そして、産めない現実をつきつけられたとき、こんなふうに 思うのでないか……。
それは16歳の陽子でも 同じではないだろうか。
「風の万里 黎明の空」を読んだ時に、そう感じました。
そして、お互いに口に出せない想いを抱いているけれど、実は同じことを考えている……。
女と男は、全てを分かち合えないからこそ惹かれあうのでは。
なんて、所詮、私の妄想なのですが。
2005.08.08. 速世未生 記