「尚陽小品」 「玄関」

花 実

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 口づけを交わす。抱きあった肩越しに見える、庭院なかにわの花。
 匂い立つその花は、やがて実をつける。──小さな溜息をつく。
 いくら身体を重ねても、私は、このひとの子供を産むことはできないんだ──と。

 二つ目の溜息を聞きとがめたひとが、目で問う。
 苦笑を浮かべ、首を振る。
 いくら同じ胎果でも、男のひとには、言っても分からないだろう。

 私は、あなたの子を産めないんだね、なんて。

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 細い身体を抱きしめて、その朱唇に口づけを落とす。
 小さな溜息をつく伴侶の視線の先に、咲き誇る花。

 腕の中の花は、咲き初めた頃の美しい姿を永遠に保ち、散ることも、実を結ぶこともない。
 そして気づく。俺は惚れた女に子供を産ませられないのだ、と。

 蓬莱にいたときさいが産んだ子供は、己の子ではなかった。
 ──俺の血を引いた子を、この女が産むことはないのだ、と思うと、少し切なかった。
 こちらにきて、もう五百余年も経つというのに。

 伴侶が、もうひとつ溜息をつき、我に返った。
 己の物思いがおかしかった。
 いくら胎果といっても、若い伴侶にそんなことを言うわけにいかないだろう。

 お前は、俺の子を産めないんだな、とは。

 溜息のわけを目で問うた。
 伴侶は寂しげな微笑を浮かべ、そっと首を振った。

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 どちらともなく、唇に笑みを浮かべた。目と目を見交わす。
 互いがいれば、それでいい。
 そしてまた、甘く長い口づけを交わす──。

2005.07.09.
 尚陽──のつもりです。 固有名詞はないけれど、お解りいただけるのではないか、と。
 女は、若く健康なときは、いつでも子供を産める、と心のどこかで考えているような気がします。 そして、産めない現実をつきつけられたとき、こんなふうに 思うのでないか……。 それは16歳の陽子でも 同じではないだろうか。 「風の万里 黎明の空」を読んだ時に、そう感じました。
 そして、お互いに口に出せない想いを抱いているけれど、実は同じことを考えている……。 女と男は、全てを分かち合えないからこそ惹かれあうのでは。 なんて、所詮、私の妄想なのですが。

2005.08.08. 速世未生 記
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
「尚陽小品」 「玄関」