「尚陽小品」 「献上品」 「玄関」

掛 合かけあい

* * *  尚 隆  * * *

「ふぅ」
 小さく息をついて、景王陽子は自分の肩を軽く叩いた。榻に寝そべっていた延王尚隆はその様子を見て微笑した。立ち上がって伴侶の後ろに回り、その細い肩を揉む。
「ああ、いい気持ち」
「──ずいぶん凝ってるな」
「いつも重いものを乗っけてるからね」
 景王陽子は軽くそう言って、くすりと笑った。その、言外に含まれたもの。それをよく知る延王尚隆は、人の悪い笑みを浮かべる。尚隆は伴侶の華奢な肩に覆い被さった。
「──尚隆なおたか
「なんだ」
「──重いよ」
 訝しげに見上げ、不平を言う伴侶に、尚隆は悪戯っぽい笑みを向けた。
「さて、何が重いのだ?」
「──それって、答えなくちゃいけないこと?」
「答えたくないか?」
 意地の悪い笑みを見せる尚隆に、伴侶は苦笑する。その困った顔が見たいのだ、と言ったら伴侶はどのくらい怒るだろう。
 短く息をついて、甘い口づけを寄越す伴侶。唇を離すと、伴侶は尚隆を見上げて困ったように微笑した。
「──あなたの想いが重い、と、言ってほしい?」
「お前は、ほんとうに面白い女だ」

 ──答えずに済ますと思ったのに。

 尚隆は喉の奥で笑う。そして、愛すべき伴侶に熱い口づけを返した。

* * *  陽 子  * * *

「ふぅ」
 小さく息をついて、陽子は自分の肩を軽く叩いた。榻に寝そべっていた尚隆が微笑した。立ち上がって陽子の肩を揉む。陽子は目を閉じた。
「ああ、いい気持ち」
「──ずいぶん凝ってるな」
「いつも重いものを乗っけてるからね」
 それは慶の国。隣国の王たる尚隆にはよく分かるだろう。そう思って言ったのだが、背中に尚隆が笑う気配を感じる。

 ──嫌な予感。また、たちの悪いことを考えている? 

 案の定、尚隆は陽子の背中に覆い被さってきた。
「──尚隆なおたか
「なんだ」
「──重いよ」
 見上げて文句を言うと、尚隆は悪戯っぽい笑みを向ける。

 いったい何を言うつもり? 

 陽子は身構える。
「さて、何が重いのだ?」

 ──ほらきた。全く、何を答えてほしいんだか。

「──それって、答えなくちゃいけないこと?」
「答えたくないか?」
 その意地悪な顔。いつもいつも、尚隆は陽子を困らせて楽しむ。

 ──玩具おもちゃじゃないってば。

 陽子は苦笑する。
 それでも、このひとを愛しいと思う。──全く困ったことに。
 小さく溜息をついて、陽子は尚隆に口づける。いつもは自分からそんなことをしたりしない。

 ──もしかして。それが狙い? 

 陽子は苦笑した。答えないつもりだったけれど。
「──あなたの想いが重い、と、言ってほしい?」
「お前は、ほんとうに面白い女だ」
 尚隆は、くっと笑う。そして口づけを落とす。陽子を蕩かす、甘く熱い口づけを。

 ずるいひと──。

2005.12.28.
 「黎明」に尚隆が出てこなくて、淋しくなって書き流した小品です。 いつも、意地悪する尚隆サイドから書いているので、陽子サイドも一緒に書いてみました。

 ──ほう、そうか。

 で、結局、この二人、どっちが強いんでしょうか?

2006.01.17. 速世未生 記
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
「尚陽小品」 「献上品」 「玄関」