白 闇
青く澄んだ高い空が、次第に募る寒さとともに色を失っていく。仰ぎ見る蒼穹が、薄く鋭く、透明にさえ見える酷薄な青に変わったとき、訪れる白き使者。
「来た──」
淡い陽光に照らされ、白く輝く一片の雪。微風に舞い踊り、緩やかに地上に辿りつく、今年初めての雪。
見慣れぬ者ならば、その美しさにしばし言葉を失うであろう。しかしこの国には、そんな余裕がある者は誰もいない。
人々は、静かに降り来たる雪を見上げ、足を速める。遂に冬の使者が到着したのだ。優しく儚げに見える白き使者は、突如として牙を剥く。吹き荒ぶ風に乗り、凍てつく大地を瞬く間に覆いつくす。人々はその冷たい手に抱かれ、なす術もなく眠りにつく。
冬に追いつかれる前に、食料を、燃料を──。凍えた大地を掘り返し、草の根を探す。葉の落ちた木々の枝にしがみつく木の実を採る。
燃料となる荊柏の実は、足りるのだろうか。今年の冬を、越せるのだろうか。長く厳しいこの冬を。人々は重く口を閉ざす。
──王は、宰輔は、いったい今、何処にいるのだろう。天地を鎮める王がいない国。天候は荒れ狂い、妖魔が跋扈するこの国。
祠廟に荊柏の実を供え、人々は黙して祈る。我らにこの鴻慈を残してくださった王が、ご無事に戻りますように。天よ、我らをお救いください。──偽王を倒してください。このままでは、この国は、本当に滅んでしまう……。
* * * * * *
「──国が滅びる、だと」
簒奪した玉座に腰を下ろした男は、口許を歪めて皮肉に嗤う。
「──滅びてしまえばいい」
国など、亡くなってしまえ。民など、死に絶えてしまえ。滅びゆく国を掌に載せ、男は呟く。
「天が本当にあるならば」
男は己の掌を見つめ、昏く嗤う。
「──俺を罰してみるがいい」
2006.11.13.
昨日、とうとう初雪が降りました。めでたく冬に突入でございます。
物思う秋が終わってほっといたしました。
この「白闇」は、昨冬に書き始め、出し損ねたものでございます。
多少改稿しましたが、相変わらず散文くさい代物ですね。
題名は漢字で決めました。読み方は……今回決めておりません。
お好きな音でお読みくださいませ。
2006.11.13. 速世未生 記