月夜の邂逅@管理人作品第7弾
2015/10/09(Fri) 20:47 No.106
皆さま、こんばんは〜。いつも祭にレス及び拍手をありがとうございます。
本日の北の国、最低気温は10.9℃、最高気温は14.3℃、
最大瞬間風速は23mでございました。
台風崩れの低気圧は午前中暴れておりましたが、午後には大人しくなりました。
ほっと安堵でございます。灯油タンクの元栓も開けてまいりました。
雪虫もわんわん飛んでるそうですが、冬将軍、いつでも来い!
の状態でございます(笑)。
気づけば10月も9日、手の遅い管理人は焦りの色が濃くなってまりました。
3本ばかり並行しておりますが、どれも纏まらず、ちょっと寄り道でございます。
自己連鎖で申し訳もございません。
拙作#86「花娘」にいただいたネムさんの#90のコメントより
妄想いたしました小品をご覧くださいませ。
- 登場人物 利広・風漢
- 作品傾向 シリアス
- 文字数 1055文字
「帰山で十題」其の六「花娘」おまけ
月夜の邂逅
2015/10/09(Fri) 20:50 No.107
「やっぱりここにいたね」
月夜に映える完成間近の離宮。碧霄の妓楼で束の間顔を合わせた風来坊を霄山で見つけ、利広は声をかける。綺麗に整えられた園林の一角にある路亭の石段に坐っていた男は、振り向きもしなかった。
「――やはり来たか」
「さすがに手ぶらじゃないよ」
嫌そうに応えを返す風漢に、利広は持参した酒を差し出す。風漢は己の酒杯でそれを受けた。利広は酒杯を掲げる風漢の視線を追う。大きな松の根元には、小さな石が載せられた塚がひとつあった。
霄山には大昔の罪人の墓があるのだ、と花娘は教えてくれた。講談で有名な大逆を起こした元伯。そんなものしかない禁苑を何故整備するのか、と花娘は不思議がっていたが、お蔭で人が増えたからいい、と眩しい笑みを見せた。風漢の隣に腰かけて、利広は静かに問う。
「――大逆を起こした悪党の墓だそうだね」
「巷間に膾炙するとはそういうことだ」
風漢は淡々とそう言って酒を飲む。利広はその横顔を見つめて問いを重ねた。
「墓を作るくらい親密だったんだ」
「――斡由は良い官吏を残してくれたからな」
思わぬ答えに、利広は軽く眼を瞠る。そして、感想とも質問とも聞こえる呟きを漏らした。
「大逆を起こした罪人が残した官吏を登用したのかい」
「有能な人材を喪うのは勿体なかろう?」
雁には人がいなかったのだから、と続け、風漢は唇を歪める。確かに、当時の雁は酷い状態だった。国を崩壊せしめた王が登遐した後、宰輔が王を探し出せずに斃れてしまったのだ。一度滅んだ、とまで言われた雁を立ち直らせたのが目の前にいる男だった。利広は小さく嘆息する。いつ寝首を掻かれても不思議のない状態を自ら作るとは。
「――支離滅裂だね」
「天意を試したい奴は、直接王と打ち合えばよい」
利広は思わず隣に坐る男を凝視する。傲然と言い放つこの男は、まさしく王の貌をしていた。
天意があれば負けることはない。逆臣を御せぬようでは王たる資格がない。
それは、己に挑んで斃れた者を悼んでいるようにも聞こえ、利広は苦笑した。そんなことを訊ねても、素直に答える御仁ではないと知っている。だから、利広は別のことを問うた。
「ねえ、何故、今ここを整備させたの?」
「国庫に余裕ができたからだ」
淀みない答え。利広は笑声を上げた。そして、ゆっくりと立ち上がる。
「邪魔したね。酒は置いていくよ」
三百年という大きな山を越えたばかりであろう王は、一度も利広を見ぬままに片手を挙げる。利広は月が照らすその大きな背を一瞥し、静かにその場を去った。
2015.10.09.
後書き
2015/10/09(Fri) 20:59 No.108
「帰山で十題」其の六「花娘」おまけ「月夜の邂逅」をお送りいたしました。
詰まるとつい寄り道してしまう(苦笑)。
それでも二人の問答を書くのは楽しゅうございました。
ネムさん、妄想を誘うご感想をありがとうございました。
皆さまの素敵な帰山、まだまだお待ち申し上げておりますよ!
2015.10.09. 速世未生 記
節目 ネムさま
2015/10/11(Sun) 11:43 No.109
台風並みの大風、大変でしたね。
以前そちらには梅雨と台風は行かないかと思っていました。
とにかく早く去ってくれて良かったです。
「天意を試したい奴は」の台詞、300年の節目で言われると、
元州の乱の時とは違った決意を感じられますね。
即位20年頃だと、まだ天に挑むような気分がありそうですが、
300年だともう腹を括ったみたいな…。
禁苑を整えたのも、本当に「国庫に余裕が出来た」からなのでしょうね。うん、納得。
何という事の無い質問に、素晴らしい答えを下さり、ありがとうございました。
ご感想御礼 未生(管理人)
2015/10/12(Mon) 17:54 No.110
拙作にご感想をありがとうございました。浮上が遅れて申し訳なく。
ネムさん>
最近の北の国は蝦夷梅雨があったり台風が来たり、どうしちゃったんでしょうね〜。
先月に続いての倒木騒ぎ、もうおしまいにしてほしいものでございます。
労いのお言葉をありがとうございました。
書き終えて、300年、なんだな〜と思いました(意味不明)。
気持にも国庫にも余裕ができた頃なのでしょうね。
おまけ話をご覧くださりありがとうございました。
山の越え方 饒筆さま
2015/10/14(Wed) 01:06 No.119
100年の山はなんとなくその悩みも想像できるだけに越え方もわかる気がするんですが、
本当に300年の山ってどうやって越えるんでしょうね〜?
このお話を拝読すると、尚隆氏は来し方行く末を
じっくり振り返って熟考なさったのかしら。
凄いなー! 宗王延王そしてリアル山越え中の氾王さまたちに
インタビューしてみたいですね。
それぞれおっしゃることが全然違うんでしょうね(笑)
そして斡由が残した臣といえば白沢さんですよね!
私、あの御仁の一本気な忠義が清々しくてファンなんです。
表立っては出て来られませんが、
尚隆氏がふらふら外出できる理由のひとつは
白沢冢宰ががっつり朝を守ってくれているからだと思いますよ。
すごい安心感ありそうですもん……
まあそれが良いのか悪いのかは置いといて(くつくつ)
妄想が広がる深イイお話をありがとうございました。
ご感想御礼 未生(管理人)
2015/10/14(Wed) 12:29 No.125
饒筆さん>
300年の山って超えた王が少ないから、千差万別な答えが返ってくるのでしょうね。
皆さまそれぞれ個性的ですしね(苦笑)。
かの方は碁石を数えるのが阿保らしくなって止めた方ですが、
そこに至るまでには色々あったのだろうな……と妄想いたしました。
勿論ご本人は語ってくださらなかったので利広に語っていただきました(苦笑)。
白沢、いいですよね〜。
名前もイイのですが、「少しでも道を正す気があるなら、卿伯を捕えなさい」
にはシビレまいた!
かの方は、白沢を従える男、という意味でも斡由に注目したのではないかと。
そんな白沢が冢宰なのだから安心して出かけられるのでしょう(笑)。
いつもながら妄想を誘うご感想をありがとうございました。