「管理人作品」 「祝11周年黄昏祭」

慶国主従@管理人作品第5弾

2016/10/06(Thu) 23:54 No.270
 皆さま、こんばんは。いつも祭にレス及び拍手をありがとうございます。

 本日の北の国、朝にはひとケタだった気温が16.3℃まで上がってからどんどん下がり続け、 8.9℃ととうとうひとケタでございます。山には雪が降るかもしれませんねぇ。

 さて、ラストスパート中の管理人、短いものをひとつ仕上げましたので出してしまいます。 よろしければご覧くださいませ〜。

慶国主従

2016/10/06(Thu) 23:57 No.271
「景麒には字はないの?」
「ございません」
 氾麟の無邪気な問いかけに、景麒は即答した。胸の痛みを隠しながら。

(ふたりのときに呼ぶ名よ。わたくしだけがそう呼ぶの)
 前の主はそう言って楽しそうに景麒の耳許に唇を寄せた。小さな声で呼ばれた字は景麒の胸を温めた。
 前の主とは、結局六年しか共にいられなかった。慶に女はいらない、と言い放った前の主は、病み衰えた腕を景麒に伸ばした。
(景麒。わたくしの景麒……)
 そう言って景麒を側まで呼び寄せた前の主は、悲しい声で字を呼んだ。その執着は景麒の胸を焼き、やがて失道の病を齎した。そして、前の主は蓬山へ昇ったのだ。

 どうすればよかったのだろう。

 今尚その想いが胸を穿つときがある。今更どうにもできないと分かっているはずなのに。そんなとき。
「景麒!」
 闊達な声が景麒を呼ぶ。その御名の如く陽光の王気を纏う今の主の声。景麒は唇を僅かに緩めて軽く頭を下げる。主は景麒を見上げ、小首を傾げて訊ねた。

「氾台輔に言われたことを気にしているのか?」

 主の言葉は常に率直で明快だ。景麒は答えに窮し、心ならずも押し黙る。そんな景麒に、主は軽やかな笑みを向けた。
「氾台輔はいっぱい景王を知っていると言っていたな。私の名前を訊いたからには、覚えてくれる気があるということだろう」
 景麒は黙して頷く。氾麟は明らかに主に興味を持っていた。そして、と続け、主は勁い眼を向ける。

「景麒、私にとって景麒はお前ひとりだ」

 分かっているとは思うけど、と主は鮮やかに笑った。景麒は眼を瞠る。

「お前だけが私の麒麟だ」

 黙して動きを止めた景麒に、主は重ねて告げる。その勁く慈愛に満ちた瞳。前の主を忘れる必要はない、と言われたような気がする。景麒は何も言えぬまま、己の半身に深く頭を下げた。

2016.10.06.

後書き

2016/10/07(Fri) 00:05 No.272
 小品「慶国主従」をお届けいたしました。これ、初筆が7月でございました。 誕生日になんでこんなものを書き始めたのでしょう(苦笑)。謎でございます。

 景麒にとって陽子主上は二人目の王。けれど、王には麒麟はただ一人。 少し、切ないな、と思いつつ仕上げました。お楽しみいただけると嬉しゅうございます。

 さて、祭もあと3日でございますね! 皆さま、悔いなきように踊り抜いてくださいね。 そこのあなた、管理人とともに最後まで足掻きましょう(笑)。 素敵な黄昏作品をまだまだお待ち申し上げております。

 後程レスしに戻ってまいりますね。

2016.10.06. 速世未生 記

景麒…!  アサギさま

2016/10/07(Fri) 19:48 No.275
 前回に引き続き、未生さんの作品はちょうど自分が描いてる妄想と合致するんですよね…!  いい刺激になります!
 景麒の中にはどんな形にしろ、予王がずっと居るんですよね、ですよね。 氾麟の投げかけの答えの影に、そんな思い出があると萌えます…。
 でも今は陽子が王で、陽子もまっすぐ景麒を見ているのが慶主従らしくて、 そんな作品に仕上げる未生さんの物語が好きです。
 有難うございます、いつもイイ刺激をもらっています(二度目)。

 延氾対決を読んだ後に、妄想がほぼ一気に仕上がったので、 やっぱり人様の作品を楽しむことが大事だなーと思いましたw
 祭も残り少ないでしょうが、無理せず運営してください…!

2人の違いが興味深いです 由都里さま

2016/10/07(Fri) 21:38 No.276
 とても面白く読ませて頂きました!
 予王も陽子さんも景麒を唯一と思っているところまでは同じなのに、 その先の思考回路が見事別れましたね…。 宰輔を気安く呼べる者は、たった一人しかいない。 だからこそ字を付けるのか、ありのままでよしとするか…。 あーやられた! という感じです。
 そしてまだ他にも作品をお書きになっているようで…。 ラストスパート、頑張ってください!

ご感想御礼 未生(管理人)

2016/10/08(Sat) 00:52 No.280
 皆さま、拙作にご感想をありがとうございます〜。

アサギさん>
 わあ、今回も合致でございますか! 光栄でございます〜。シンクロ具合に萌えますね。
 麒麟にとって最初の王は特別なのだと六太が言っておりましたよね。 たった6年、されど6年。こんなエピソードがあったりして……との妄想でございました。 お楽しみいただけて嬉しゅうございます!
 そして仕上がった妄想が俄然気になっておりますよ〜。
 労いのお言葉もありがとうございました。 長期休み終了間際のお子さまのようですね、私(苦笑)。

由都里さん>
 はい、ただ一人の麒麟だからこそ字を下賜した予王と、 ただ一人の麒麟だからこそ敢えて号で呼び続ける陽子主上。 どちらもありでは、と思ったのでございます。 お楽しみくださりありがとうございました!
 ラスト2日頑張ります〜。

真名 ネムさま

2016/10/08(Sat) 23:46 No.287
 予王が景麒に字を付けていたという設定は、何だかホッとさせられます。 「私の麒麟はお前一人」と言い切る陽子は本当に、漢前!です ^^v
 名前はその人の本質なので、滅多なことでは知られてはいけないから、真実の名=真名と、 呼び名=仮名に分けられていたと言いますが、 景麒にとってはどちらも「真名」なのだなぁと思えます。
 短いけれど、素敵なお話でした ^^

未亡人のメランコリー 饒筆さま

2016/10/08(Sat) 23:54 No.288
 氾麟はきっと初めての御主人と三百年お付き合いできているのでしょうね……
 延麒、氾麟、廉麟ら「初恋の人(王)と添い遂げている」幸せ者と、 「かつての半身を見送った」未亡人(笑)景麒とでは、 同じ麒麟でもずいぶん感覚が違うんだろうなあと思います。
 陽子さんにオンリーワンって言われて良かったね、景麒くん。
 でも、景麒の内心は六太くんが言うような「難しい」ってだけではないんじゃないかな?  とも思いますよ。 辛い過去があったから、受け入れるのに紆余曲折があったから、 余計に今の主が好きになることだってあるでしょうし。
 少なくとも黄昏の終盤、襲われた陽子さんがしれっとしていたことにややキレかけた景麒が 可愛すぎて、このまま新刊ではツンデレ的にラブラブになっているんじゃないかと あらぬ期待を抱いております(あはは)
 やや切なくも心温まる主従の一コマをありがとうございます。

降参! 瑠璃さま

2016/10/09(Sun) 14:19 No.300
 これはやられますわ(笑)。
 真っ直ぐと見られて、こんな台詞言われたらもうころりと転んじゃうでしょう。 さすが陽子さんです。
 それでもきっと景麒の表情筋が活発になることはないんでしょうけど(笑)。

ご感想御礼 未生(管理人)

2016/10/11(Tue) 00:19 No.375
ネムさん>
 景麒にとってはどちらも「真名」……沁みました。ありがとうございます。
 もう少し書きこみたかったのですが、景麒がこれ以上語ってくださいませんでした(苦笑)。

饒筆さん>
 そうですね、他のお三方は「初恋の人と添い遂げている」感ございますね。 未亡人のメランコリー、ぷっと吹き出しましたが、言い得て妙でございます。 陽子主上には未亡人を優しく包む夫でいてほしゅうございます……(何かが違う/苦笑)。

瑠璃さん>
 最後の一文にお腹が捩れました(笑)。 そうそう、景麒の表情筋はきっとこのままでございましょう!
背景画像「NOION」さま
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