「管理人作品」 「祝11周年黄昏祭」

蓬莱惨禍@管理人作品第6弾

2016/10/08(Sat) 00:26 No.277
 皆さま、こんばんは〜。いつも祭にレス及び拍手をありがとうございます。

 本日の北の国、最低気温は8.6℃、最高気温は14.7℃でございました。 北の果ての稚内では初雪が降ったそうでございます。 私もとうとうストーブを初点火いたしました。

 さて、日付は越してしまいましたが、ひとつ仕上げたものを出してしまいますね。 よろしければご覧くださいませ。

蓬莱惨禍

2016/10/08(Sat) 00:32 No.278
 泰麒捜索は大詰めを迎えていた。遂に泰麒本人が見つかり、延王尚隆が蓬莱に赴いて連れ帰ったのだ。
 こちらとあちらは元来交わってはいけないもの、王が渡ると大きな厄災が起こる。そうと分かっていての所業だった。蓬莱に大いなる兇を置き去りにするわけにはいかないのだ。もし、泰麒があちらで命を落とせば、使令は解き放たれる。身罷った麒麟の身を、契約の報酬として喰らった饕餮が何をするかなど、想像するのも恐ろしいことであった。

 はたして、戻ってきた泰麒は、麒麟が傍にも寄れないような穢瘁に塗れていた。故に、速やかに蓬山へと連れて行くことになったのだ。戻ったばかりの延王尚隆が、景王陽子と顔を見合わせて頷いた。そこへ割って入ったのは李斎。共に蓬山へ行くという李斎の主張を容れた面々は、李斎の旅支度が調うまで休息を取ることとなった。
 六太は帰還後すぐに蓬山へと旅立つこととなる主を労おうとした。しかし。

「――街が波に呑まれた」

 蓬莱から戻った胎果の王は、一言呟いてその場を去っていく。聞いた六太は声もなく、半身の広い背を見送るのみだった。

 胸を抉る痛みには憶えがあった。遥か昔、一人の命を惜しみ、他の者たちを亡くした。無論、あの時と状況は違う。しかし、忘れ得ぬ痛みを再び抱き、六太は俯いた。

 尚隆と陽子は李斎とともに意識の戻らぬ泰麒を連れて蓬山へ向かった。六太も他の麒麟も、ただそれを見送ることしかできなかった。

 蘭雪堂に残された六太は物思う。治癒が叶うようなら手を貸そう、と玄君は明言した。あれだけの怨嗟を身に受けて、治癒が叶うのか。叶わなければ、泰麒はいったいどうなるのか。そこまで考えて、六太は首を横に振る。

 待つ時間とは、こんなにも長いものなのか。こんなにも心を弱くさせるものなのか。

 泰麒を探して蓬莱を駆け回っていたときには思いもよらないことだ。六太は初めて待つことしかできなかった王たちに心を馳せた。

 蘭雪堂には六太と廉麟しか残っていない。景麒は溜まった執務を片付けに行き、氾王と氾麟は淹久閣へと退っていった。待つ以外にできることはないか。六太は思案する。そして、すべきことを思いついた。
「――廉麟」
 ぼんやりと榻に坐している廉麟に声をかける。はっと顔を上げた廉麟は、はい、と力なく答えた。

「蓬莱へ渡してくれないか」

 廉麟は小首を傾げる。六太はゆっくりと、噛みしめるように言葉を発した。

「街が波に呑まれた、と……尚隆が言っていた。見ておきたいんだ」

 聞いた廉麟は大きく眼を見開く。最後まであちらとこちらを行き来し続けた廉麟は、沈痛な貌をして頷いた。

 己の眼で見た蓬莱の惨禍は凄まじいものだった。六太は呆然と立ち尽くす。これが、王が渡ったために起きた厄災。これが、胎果の王が飲み下したもの。ただ一言のみを伝えた主の苦吟を思い、六太は静かに涙した。そして。
 六太は蓬莱へ渡ることを禁じられたもう一人の胎果の王に想いを馳せる。少し前までここに住んでいた、景王陽子。蝕を起こしても帰りたいと訴えていた、胎果の娘。

 陽子は、未だ望郷を胸に抱いているのだろうか。

 六太は顔を上げた。泰麒捜索に奔走したことを悔いてはいない。しかし、それが齎した様々なことを、それぞれの想いを、しっかりと受け止めよう。そして、いつかこの惨禍を陽子に伝えよう。そんな決意を胸に、六太は蓬莱を後にした。

2016.10.07.

後書き

2016/10/08(Sat) 00:40 No.279
 小品「蓬莱惨禍」をお送りいたしました。 以前ワンライで書いた御題其の二百十二「罪の残滓」の前段階のお話でございます。 読んでなくても解るとは思いますが、ご参考までに。

 泰麒捜索に奔走した六太ですが、やはり麒麟ですので、 こんなことを思ったりもするのでは……との妄想でございました。

 さて、残り2日でございます。管理人、リク物2本頑張ります!  皆さまの駆け込み投稿をお待ち申し上げておりますよ〜。

 後程レスしに戻ってまいりますね。

2016.10.07. 速世未生 記

強いから ネムさま

2016/10/08(Sat) 21:56 No.286
 何だか「東の海神」で尚隆が「百で済ます」と笑ったことを思い出しました。 被害を最小限で済ますためと言っても、被害に会う人の命は一つしか無いんですよね。 尚隆は両方分かって行動する強さがある、だから見ていて切ないのでしょうか。 そしてそんな主を見つめる六太も。
 心がしんとするお話でした。読ませて頂き、ありがとうございます。

沁みますね 饒筆さま

2016/10/09(Sun) 00:04 No.289
 ああ……天災が続く昨今、胸に沁みるお話ですね。
 常世の戴を救うため(ひいては雁の利益のため)に、郷里・蓬莱の民を失わせる―― 延が「俺が行く」と決めたのはその犠牲の責任も背負うためだったのだろうと思うと、 今更ながら泣けますね。
 これだけの犠牲を払ったのだから、戴はぜひぜひ救われて欲しい!(切望)
 あえての切り口、しばし深い余韻浸りました。ありがとうございます。

背負うもの 瑠璃さま

2016/10/09(Sun) 14:11 No.299
 王も麒麟も、蝕を起こして王が渡れば何が起きるかわかっていても この手段を取るしかなかった。
 皆それに臨む覚悟はしていたのだろうけど、これから背負っていく想いを思うと、 胸を衝かれますね。
 それぞれの強さを感じるお話でした。ありがとうございます!

自分の責務 senjuさま

2016/10/09(Sun) 21:22 No.306
 うーん、さすが長男(笑。
 きっと彼らはこうやってずっと一緒に責任を負ってきたんでしょうね。
 目を耳を閉ざして「知らないこと」にしない彼だから、 殿も500年の背中を預けられたのかしら。と。
 見てきたなんて六太はきっと言わないし、殿も知って知らぬ振りで。

 この後幾晩もうなされるだろうと思うと不憫で、子守唄の一つも聴かせてあげたくなります。 けなげな六太が愛しいです。

ご感想御礼 未生(管理人)

2016/10/11(Tue) 00:34 No.376
ネムさん>
 玉座は血で贖うもの。かの方はそう言いつつ喪われた命を悼むのだと思っております。 切なさを汲んでくださりありがとうございました。

饒筆さん>
 「黄昏」では泰麒帰還のために皆奔走しておりましたが、「魔性の子」の最後に立ち返ると、 物凄い被害がさらりと記述されておりまして……。少し泣けました。
 ほんと、戴がきちんと救われることを願って已みません……。

瑠璃さん>
 被害が出ることを「解っている」のと「実際に見る」のではやはり衝撃が違うかと……。 おっしゃるとおり、こういうものを背負っていくのが施政者なのかなと思います……。

senjuさん>
 はい、六太は陽子主上には伝えても、きっとかの方には言わないと思います。 主と同じものを背負おうとする健気な六太にどうぞ子守唄を歌ってあげてくださいませ。
背景画像「NOION」さま
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