「管理人作品」 「祝11周年黄昏祭」

奏国茶会@管理人作品第8弾

2016/10/09(Sun) 22:39 No.307
 本日の北の国、最低気温は9.9℃、最高気温は16.7℃でございました。 祭開始日には暑い暑いと申しておりましたが、 やはり終わりの頃にはきちんと秋になっております。

 さて、管理人、漸く最後の作品を仕上げました。 結構ぎりぎりになってしまって申し訳もございません〜。 コメディタッチ小品、よろしければご覧くださいませ。

奏国茶会

2016/10/09(Sun) 22:40 No.308
 延王尚隆の依頼を聞き、検討する会議が終了した。賓客が引き上げ、片付けを終えた文姫は母明嬉とともに居間で休憩を取っていた。
「──呆れたね、まったく、油断も隙もありゃしない」
「母さま、どうなさったの? ──ああ、兄さまのことね」
 茶杯を置いた明嬉が深い溜息をつく。少し首を傾げた文姫だが、すぐにその理由に思い至った。
「そうさ。あの子ったら、いつの間に延王と誼を持ったのやら」
 明嬉はまたも嘆息する。文姫は軽く笑った。延王とは面識がないはずの風来坊の兄利広だが、受け答えがどう見ても初対面ではなかった。けれど、強かな兄は訊いてものらりくらりと躱すだけだろう。
「兄さまのことですもの、旅の間にちょっとね、とか言うだけよ。きっと、後で延王と酒盛りでもするのでしょうよ」
「旅の話がどうとか言っていたから、そうかもしれないね」
「後で何を話したか、探りを入れてみようかしら。それより、母さま」
 文姫はにこりと悪戯っぽい笑みを見せる。
「延王は景王をお連れくださらなかったのですもの。景台輔に景王のお話をお聞きしましょうよ」
「そうだねえ」
「そうしましょうよ。だって、内乱もご自分で平定なさった武断の女王が、御自らお茶を淹れるなんて……」
「文姫と気が合いそうなお嬢さんかもしれないね」
 身を乗り出し、目を煌かせて提案する文姫に、明嬉も楽しげに同意する。それから二人はささやかな茶会の準備をした。盛装していた衣服を簡素なものに改め、掌客殿に下がった景麒に使いを出す。そして文姫は後宮の入口の門にて景麒を待った。

 やがて、女官に案内された景麒が姿を見せた。文姫は平伏する女官を労い、景麒に拱手する。
「お呼び立て失礼いたしました」
 目礼を返す景麒を先導し、文姫は歩き出す。景麒は延王がいないことを不思議に思っているようだった。少し不安げな景麒に、文姫は振り返って笑みを送る。
「茶会には景台輔のみお誘いしました。延王は酒席の方がお好みでしょうから」
 景麒は僅かに眼を瞠り、納得したように首肯する。房室に着くと、明嬉が笑みを湛えて賓客を迎え入れた。
「ようこそいらせられました」
「お招きありがとうございます」
「お楽になさってくださいね」
 畏まって礼を取る景麒に、文姫は自ら茶を淹れて差し出した。景麒は驚いたように小さく息をつく。そういえば、先程の会議でも景麒は茶を淹れて差し出した明嬉に驚いていた。文姫は微笑する。
「景王も御自らお茶を淹れてくださるのですよね」
「我が家だけのことかと思っておりましたので、嬉しいですわ」
 景麒は視線を泳がせ、困ったように俯く。文姫はにっこりと笑み、眼を輝かせた。
「伏礼を廃し、自ら内乱を平定した武断の女王、とのお噂をお聞きしました。そんな方が自らお茶を淹れられるのですか?」
「――主上は胎果ですので」
「延王も胎果ですけれど」
「延王とは時代が違うそうです」
「どんなふうに違うのかしら?」
「現代の蓬莱には王はいないそうです」
 景麒は訥々と答えを返すのみで、なかなか話が進まない。文姫は笑顔のまま思案する。ちらりと見ると、明嬉は吹き出すのを堪えているようだった。

「景台輔は景王の淹れたお茶を飲んだことがございますか?」
「はい」
 文姫の問いに、景麒は僅かに唇を緩める。やはり麒麟なのだ。文姫は続けて問うた。
「景王のお茶は美味しいですか?」
「はい、とても」
 少し口数が増えてきた。文姫は身を乗り出す。
「どんなときに淹れてくださるのですか?」
「春の観桜の宴のとき、などでしょうか」
「まあ、私もいただきたいものですわ」
「国に帰りましたら、主上に申し伝えます」
 そう言って景麒は微笑した。文姫は満面に笑みを浮かべる。
「是非! 私がお会いしたいと申していたことをお伝えくださいね」

「はい。私も是非公主を主上にご紹介したいものです」

 景麒は力強くそう答えた。文姫は笑みを浮かべたまま小首を傾げる。
「まあ、光栄ですわ。でも、何故?」

「公主は盛装して優雅に茶を淹れられますね。我が主上は堅苦しい服装を嫌がりますので」

 それから景麒はぽつりぽつりと主のことを語り出した。蓬莱育ちの景王は、王族が普通に纏う襦裙が苦手で、常に官服を着用していること。襦裙を着せようと側近が四苦八苦していること。身分を気にせず気軽に街へ降りてしまうこと。訥々と語る景麒から話を引き出すために、文姫は次々と質問を繰り出し、明嬉は茶を入れ替え続けなければならなかった。

 存分に聞き出した後、文姫は賓客を送り出す。戻ってきた文姫を見て、明嬉がとうとう吹き出した。
「有益な時間だったね」
「こんなに苦労したのは久しぶりだわ」
 笑い続ける母に、文姫は溜息で応える。しかし、苦労しただけの収穫はあったと思う。

「是非お会いしたいものだわ」

 文姫はまだ見ぬ景王に想いを馳せながら拳を握りしめたのだった。

2016.10.09.

後書き

2016/10/09(Sun) 22:49 No.309
 「奏国茶会」をお送りいたしました。リクエストは全て昇華できました。万歳!  間に合わなかったらどうしようと震えておりましたので解放感に満ち溢れております。
 実はこのお話、景麒視点で書き始めたのですが、収束する兆しが全く見えず、 先程文姫視点で書き直しました。 文姫ちゃんも非常に苦労いたしましたね〜。お疲れさまでございました!  それでも楽しんで書きましたので、皆さまにもお楽しみいただけると嬉しゅうございます。 リクエストありがとうございました!

 さあ、投稿終了時刻まであと1時間と少し。 あなたの駆け込み投稿をお待ち申し上げておりますよ〜。

2016.10.09. 速世未生 記

それは愚痴なのかノロケなのか(笑) 饒筆さま

2016/10/10(Mon) 17:56 No.330
 ああっ、海千山千の女性陣に挟み撃ちにされて景麒大丈夫?  ……と思ったら、案の定の通常運転で、逆に文姫さま明嬉さまがご苦労なさったという……
 景麒ったらもぉ〜(笑)  しかも、訥々と語る内容が愚痴なのかノロケなのか、 判然としないあたりがまた可笑しいですね。 一生懸命お世話して聞いた話が「結局ノロケかよ〜」だと余計にグッタリするかも (あはは!)
 ある意味最強な景麒、面白かったです。 ありがとうございます〜&ラストスパートお疲れ様です!

ありがとうございます! 文茶さま

2016/10/10(Mon) 21:57 No.341
 お待ちしておりました、愉快なお茶会in奏国!
 景麒がまんまで可笑しいです〜(笑)。しっかり! と声掛けしたくなるような場面ですね。 景麒の表情は10倍増しで読まないといけないから大変(笑)。
文姫さんも苦労した甲斐があり、陽子主上の情報をゲット!(拍手!) 二人が会った暁にはこの時の話で盛り上がりそうですね〜(笑)。
 とっても楽しく読ませていただきました。 リクエストにお応えいただきありがとうございました!

お疲れ様でした! ネムさま

2016/10/10(Mon) 22:25 No.345
 タイトルは管理人様と、そして文姫ちゃんへ(笑)
 お茶会の様子、楽しく拝見させて頂きました。文公主を手こずらせるとは、さすが景麒。 でも二度目に微笑んだのは、大事な主に紹介してもいいと思えるだけの好意を、 文姫ちゃんに感じたからではなかろうかと、個人的には思ったのですが。

 管理人様、一か月間に渡るお祭り、楽しく遊ばせて頂きました。 こちらで御礼を述べさせて頂きます。本当にお疲れ様でした (気持ちだけでも、お茶を差し上げたいです。御酒の方が良いなら、そちらで ^^)

ご感想御礼 未生(管理人)

2016/10/11(Tue) 00:55 No.378
饒筆さん>
 ほんとに景麒ったらもぉ〜でございました。 このお話、最初は景麒視点だったのですが、全然収拾がつきませんでした(苦笑)。 文姫ちゃん、かなり苦労されたようでしたが、苦労した甲斐はあったかと(笑)。
 饒筆さんに笑っていただけてよかった!

文茶さん>
 大変お待たせいたしました(伏礼)。 このお話、10年くらい前から書く書くと言って書いていなかったのですが、 理由を理解いたしました(苦笑)。書く機会をいただけてよかったと思います。 笑っていただけてよかった! リクエストありがとうございました〜。

ネムさん>
 文姫と管理人を労ってくださりありがとうございます〜。ほんと手こずりましたから!  豪奢な襦裙で軽やかに動き回る文姫は景麒の心を捉えたのだと思います。
 こちらこそ、1ヶ月余りお付き合いくださりありがとうございました。 有難くお茶をいただきます。ぐいー!
背景画像「NOION」さま
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