「投稿作品」 「祝12周年十二祭」

氾王バージョンです 饒筆さま

2017/09/11(Mon) 23:19 No.26
 こんばんは〜再びお邪魔します。
 先日の少年延王さまと対になる、少年氾王さまをお持ちしました。

 なにしろ氾王君は、三百年も連れ添った麟を今でも姫扱い& 傷心の夜には寝かしつけてくれるスーパーダーリンなので、 きっとお小さくなられてもイケメンなのだろうと思います。
 ただ、氾王君については情報が少なすぎるので、 その過去やモブ従者などは全て捏造ですのでご注意ください。すみません。

御題其の二「小さくなった半身」

『○○○の王さま <範国ver>

饒筆さま

2017/09/11(Mon) 23:24 No.27
 いくら目を凝らしても見透かせぬ闇の中。どろりと湿った風を払い除けるように、梨雪は白い手を伸ばす。
 どこ?ねえ、どこなの……?
 こちらを威嚇する獣の唸り声。あの子はうずくまっている。
 怖い。
 おどろおどろしい夢の中で、梨雪はぎゅっと我が身を抱いた。
 紅い一対の眼がこちらを睨んでいる。傍に行ってあげなくてはならないのに、ここからもう一歩も進めない。どうして?どうして、私はまた――
 王気が、揺らいだ。
 本物の恐怖が心臓を締め上げる。
――!!!!!
 梨雪は悲鳴をあげて跳ね起きた。
「主上ッ!」
 繊指で薄絹の裾を掴み、寝台からひらりと跳び降りて、さらけ出た優美な脚を駆り疾風のごとく走り出す。
 夜はすっきりと明け、辺りは清々しい明るさと日常の忙しなさに満ちている。
 折り悪く、行く手から甲高い悲鳴が聞こえた。
 梨雪は小さな歯をくいしばった。
――あそこは主上の寝所だわ!ああ、どうして昨夜はご一緒しなかったの?!
 怯え、逸る心を抑えて、開け放たれた戸口をくぐる。
 そこで、梨雪が見たものは――
「しゅ、主上……?」
 刺繍を凝らした天蓋から幾重にも垂れる白紗の中。ゆっくりと身を起こし、こちらを振り返る、一人の少年だった。


「人払いを!」
 毅然とした梨雪の厳命に、参集した侍官たちは粛々と下がる。
 再び静寂を取り戻した寝所に、今度は少年の小さな驚嘆が響いた。
「台輔……?!」
 台輔?!
 梨雪はつぶらな瞳をさらに丸くする。
 だが、次の瞬間には躊躇うことなく白紗の滝をかき分け、ふわりと寝台へ飛び乗った。そして、ただ茫然と座す少年の御前へ膝立ちで傍寄り、柔らかな手を彼の頬へそうっと差し伸べる。
「主上……?どうして、このようなお姿に……?」
 恐る恐る主にかけた言葉は、思ったより激しく震えていた。
 年の頃は梨雪と同じだろうか。見目麗しい少年はひとつ瞬いて、梨雪の十指が自分の頬を包むのを受け容れる。
 仄かに煌めく銀の髪がかかる繊細な美貌は中性的で、楚々と咲く花のように儚げだ。しかし、それに似合わぬ沈着な表情と時折閃く鋭い眼光はまさしく主・藍滌のものに相違なかった。
 いつもと同じ、芳しい王気もひしひしと感じる。
 なのに、その少年は、梨雪の知る主では無かった。
「……僕は、夢を、みているのでしょうか……?」
 茫然とした呟きに、ひやり。梨雪の背筋が冷える。
 それから少年はおもむろに座り直し、梨雪に向かって平伏しようとした。梨雪は心の蔵に刺されたような痛みを覚える。
「い、いけません主上!お顔をあげてくださいまし!」
「いいえ、そんな!畏れ多い……台輔の御前に侍る栄誉に浴したのならば、どうしてもお願いしたい儀があるのです」
 かるくせめぎ合ううちに、艶やかな夜着が少年の瑞々しい肌を撫でるように滑り落ちた。
 痩せた胸に利き手を当て、少年は文字通り懸命に訴える。
「台輔――どうか父の汚名を雪いでください!」
 梨雪は驚きの余り、声も出せない。
「父に謀反の意志などございませんでした!騙されたのです。故意に誤った指令を与えられ、鵜呑みにしただけで――本当です!調べ直せばわかります。どうかお裁きをもう一度やり直してください!!」
 少年の強く真摯な眼差しが、まっすぐに梨雪を射抜く。
 淡紫の瞳が潤み、みるみる大粒の涙を溜めた。
「主上……ひどいわ、何もかも忘れておしまいなの?わたくしのことも、あの雨の日にお迎えにあがったことも、ずっとお供した年月も」
 涙はあとからあとから湧き、溢れて白磁の頬を伝う。
 少年は音をたてて息を呑んだ。
 寝所の隅に控えていた古参の小臣が、見かねたように進み出る。
「藍滌さま」
 瀟洒で洗練された寝所にはおよそ似つかわしくない、左目を黒い布で隠した歴戦の古兵だ。そのやや枯れた低い声に、少年は弾かれたように顔をあげた。
「馬承!!」
「私のことは憶えておいでですか」
「当り前だ。僕は命の恩人を忘れたりしない」
「では、馬承めの話をお聞きください」
 武骨な小臣は訥々と語り出した。
「藍滌さまは昨夜お休みになるまで、御年三百有余年の氾王君でございました。ですが、今朝はなぜか、十二、三の時分にお戻りになっておられるご様子です」
「……ええっ……?」
 にわかには信じがたい話に、少年は言葉を詰まらせる。
「……僕が、氾王?」
「そうですわ!主上に間違いございませんっ」
 梨雪は涙ながらに少年の手を取り、その甲に縋る。
「ああ!たった一夜だけと、御前を離れたわたくしがいけませんでした」
 次いで梨雪は悲愴な決意を籠めて面をあげ、キッとまなじりを吊り上げた。
「ご安心くださいませ、主上。わたくしがなんとかいたします――ですから、御身の安全を確保するまではこちらに――」
 ところが、
「いいえ」
 少年は梨雪の申し出をキッパリと遮った。
 落ち着くために大きな息を吐いてから、彼は努めて冷静に話し始める。
「真実、僕が王ならば、僕に課せられる難題や辛苦は天から与えられたものです。だから僕が自分の力で乗り越えなければならない――そうでしょう?」
 柔らかな声が発する静かな問いには、外見からは想像もつかぬ強い意志が宿っていた。
「そ、それはそうですけれど……」(おろおろ)
 思いがけぬ返答に狼狽する梨雪の繊手に、白魚のような手が重なった。
「だから、泣かないでください台輔」
 少年は優しく微笑んで梨雪の瞳を覗き込む。
「――あなたの涙は僕の胸を締め付ける。僕まで切なくなってしまいます」
 ね? 少年は梨雪に顔を寄せたまま、ニコリと小首を傾げる。
 涙に濡れた梨雪の頬がほんのり色づいた。
「何も憶えていないのだから『大丈夫』とは言えませんが、全力を尽くします。あなたの『主上』である所以を証明してみせますから――どうか微笑んで。僕を援けてください」
 少年は梨雪の手をそっと握りしめ、大切に持ち上げて口づけを落とす。
 流れる銀の髪の陰で、理知的な眼差しがやや照れを含んで煌めいた。自分でやっておきながら少々気障すぎたと、ふわりと笑ってごまかす少年の笑顔が、梨雪には初々しく映ってますます愛しい。
「台輔、御名はありますか?」
「梨雪、梨に雪です……主上がつけてくださいましたのよ?」
「そうですか――道理で、とても麗しい字(あざな)ですね」
 少年は笑みを収め、しなやかな背をすっと伸ばした。
「では」
 二人の最も親しい臣下たちを順に見つめる。
「梨雪。馬承。ともかく僕に、これまでの経緯と今の状況を詳しく教えてくれないか」
 そこから為すべきことを順に考えよう。
 口調を改め、王たるべく振る舞い始めた横顔が、まだ幼いながらも頼もしい。
 それでやっと、梨雪の胸に喜びが湧いてきた。
「ああ主上!やっぱり主上は素敵♪」(大好き!)
 いつものようにしな垂れかかり、ぎゅっと御身を抱きしめる。
 いつもなら懐深く包んでくださる主の腕が、あわあわ迷って開いた。
「……あら?どうなさいましたの?」
 少年に戻った主は真っ赤になった顔を背ける。
「り、梨雪……その……いくら臣従の契約を結んだ仲とはいえ、僕は今何も身に付けていないのだから、薄絹一枚で抱き合うのはちょっと……い、いけないのではないかと……思わないか」(しどろもどろ)
「まあ!主上がそんなことをおっしゃるなんてっ!」(なんだか新鮮ですわ!!・きゅ〜ん)                                                    

 結局。
 原因および諸事情が判明して元にお戻りになる頃には、主従仲はますますラブラブになっておられたそうでございます。(犬も喰わねえ・笑)


<やはりイケメンが過ぎました(吐血)・了>
感想ログ

背景画像「素材屋 flower&clover」さま
「投稿作品」 「祝12周年十二祭」