延王の旅話@管理人作品第2弾
2018/09/21(Fri) 22:33 No.58
皆さま、こんばんは〜。いつも祭にご投稿及びレス、拍手をありがとうございます。
本日の北の国、最低気温は11.5℃、最高気温は24.5℃でございました。
だんだん1日の中の気温差が激しくなってまいりました。
木々の緑も色褪せてきております。秋、でございますね〜。
揺れることも少なくなりました。取り敢えず、
ガスが止まっても大丈夫なようにカセットコンロを新調いたしました(笑)。
さて、管理人は9月も20日を過ぎて漸く第2弾を仕上げました。
またしても旧作の別視点ではございますが、リハビリですのでご寛恕くださいませ。
- 登場人物 尚隆・利広
- 作品傾向 シリアス
- 文字数 1493文字
延王の旅話
2018/09/21(Fri) 22:41 No.59
南国には一夜限り開く優艶な花があるという。旅先にてそんな噂を聞きつけて興を覚えた。折しも今いる場所は巧、少し足を延ばせばよい。そうして延王尚隆は奏へやってきた。
南の大国、奏南国を訪れるのは久しぶりだ。奏は最長命国であり、今もなお隆盛を極めている。高岫の果てまで整えられた国土は、南国ならではの大らかな気質も相俟ってゆったり過ごすことができるお国柄だ。
そんな奏国の名所のひとつは芳しい香りに満たされていた。冴え冴えとした月の光を存分に浴びた花は宵闇に白く浮かび上がり、重たげな頭を擡げ、ゆっくりと蕾を解いていく。しかし、そこには誇らしげにほころびる美しい花よりも尚隆の眼を惹くものがいた。
ひとつ、またひとつ。次々に開く匂やかに大きな花を愛でる古馴染みは風流な貴公子に見えなくもない。尚隆は笑い含みに声をかけた。
「――風来坊が自国にいるとはな」
奏の太子、卓郎君利広は嫌そうに顔を蹙めて振り返った。尚隆を認めた利広は深い溜息をつく。
「奏で風漢に会いたくはなかったな」
期待どおりの答えに、尚隆は笑みを深める。同類の風来坊に遭遇するのは軋みかけた国の首都。ここ奏南国は今も栄える最長命国なのだから、会う道理もない。恐らく自国で見つけてしまったならば、尚隆とて同様の反応をしたことだろう。
「奏はついでだ。珍しい花があると聞いたからな。安心しろ」
してやったりと笑声を上げると、利広は得心がいったというように頷いた。
「どうだった?」
「――まあ保ちそうだ」
短い問いかけは、今回の尚隆の行き先が最初の節目を迎えた巧州国であると気づいたからだろう。最長命国を支える一柱である太子はさすがに慧眼だ。己も簡潔に答えた尚隆は利広を促した。
「お前の方が詳しいだろう」
巧は奏の隣国だ。現在の塙王は地方の衛士出身で、海客や半獣の弾圧などやや厳しい統治をするという。尚隆が持つそんな情報など、利広はとっくに把握済みだろう。はたして何とも言えない笑みを浮かべた利広は、小さく息をついて頷いた。そのまま芳醇な香りを放ちつつ次々に咲き初める艶やかな花へと眼を移す。
「――天から見れば、人の国など、この花のようなものなのかもしれないね」
「さすがだな。奏の御仁は言うことが違う」
隣国を一夜限りで散る花に例えるとは。
延王尚隆は卓郎君利広の感傷を笑い飛ばした。しかし、永き時を生き延びて諸国の盛衰を見届け続けている大国の太子を侮っているわけではない。利広は、巧は長く続く国ではない、と予想している。そしてその意見は尚隆の見解と一致する。厳しい王に民は尽くさない。民に見放されれば王はすぐに道を踏み外すだろう。
「――美しいけれど、儚いね」
誇らかに花開いた月下美人に手を伸ばし、利広は嘆息した。これほど大きく見事な花が、朝には萎れて散ってしまうのだ。感傷的になる気持ちは分からなくもない。しかし、だ。
「一夜で散ると分かっているから儚く思えるのだろう。この図体では儚さとは程遠い」
尚隆は己も花を見つめて笑う。同じく月下美人に見入る利広は黙して頷いた。
強い香りも大きな花びらも誇り高き貴婦人のように存在を誇示している。一夜で散ると知らなければ、儚い、などという言葉は浮かびもしないだろう。それほどまでに印象的な花だ。
「――それに、散らぬ花などどこにもない」
一夜で散る花は少ないが、永遠に咲き続ける花などない。それは王が己の心身に刻むことだ。尚隆は優に四百年を超えた己が国を思う。そして、五百年を超えてなお栄えるこの南国を支える太子を見やった。
同じ思いを抱えるふたりの風来坊は、誇らかに花開いた月下美人が萎れて散りゆく様を黙して見届けるのだった。
2018.09.21.
後書き
2018/09/21(Fri) 22:43 No.60
「延王の旅話」をお送りいたしました。
こちらは「帰山で十題」其の四「月下美人」の尚隆視点になります。
相棒といえば帰山コンビ! アクション物なんかいいな〜と思いつつ、
自分の技量を弁えろ! という感じでございました。
そんなわけで、一夜限りの花に国を重ねる帰山のお二人を書いてみました。
お楽しみいただけると幸いでございます。
皆さまの素敵な「相棒な二人」作品をお待ち申し上げておりますね!
2018.09.21. 速世未生 記
ご感想御礼 未生(管理人)
2018/09/30(Sun) 01:24 No.88
皆さま、拙作にご感想をありがとうございました。
自作へのレスを忘れがちで申し訳なく……。
饒筆さん>
腐れ縁故にツーカーですよね!
はい、描写は致しませんでしたがきっと静かに酒盛りをしているに違いございません。
文茶さん>
「真実の時」、素敵な花言葉があったのでございますね!
近くによると気配で斬られそうな予感……(笑)。
きっと遠くで見るのがよいのでございましょう。
そして背中合わせで剣を構えるお二方! 見たい!
見たいです文茶さん(縋るような目/笑)!
ネムさん>
私も相棒というとこのお二方がすぐに浮かびました。
描くのは非常に骨が折れるのでございますが(苦笑)。
アクション! 見たいですネムさん(縋るような目/笑)!
ご感想御礼 未生(管理人)
2018/10/14(Sun) 23:45 No.180
由都里さん、拙作にご感想をありがとうございました。
定番帰山コンビをお楽しみいただけて嬉しく思います。
「お花きれい」を描いたのは「帰山で十題」を募集した際に
「月下美人」という御題をいただいたからなのですが、
花には縁がなさそうなこのお二人も「一夜限りで散る花」には興味を示すかも、
と思った次第でございます。
為政者ゆえに花に国を重ねる。そんな妄想を膨らませたのでございました。
優雅とのお褒めの言葉、ありがとうございました!
長文レスも歓迎でございますよ(笑)。