学生の回想@管理人作品第3弾
2018/10/12(Fri) 13:14 No.116
皆さま、こんにちは〜。いつも祭にご投稿及びレス、拍手をありがとうございます。
本日の北の国、最低気温は12.5℃、最高気温は18.1℃でございます。
気温が下がってまいりましたが、
10月もふたケタになってもストーブを焚かずに済んでおります。
先日台風もやってまいりましたしね……(温帯低気圧にになりましたが/笑)。
さてさて投稿最終日は明日だというのに管理人はまだ第3弾でございます。
絶不調でございますね(苦笑)。それではなんとか仕上げた楽俊をご覧くださいませ。
- 登場人物 楽俊・陽子
- 作品傾向 ほのぼの?
- 文字数 2050文字
学生の回想
2018/10/12(Fri) 13:15 No.117
「文張!」
少し離れた場所から大きな呼び声がする。いつしか通り名として定着した別字を耳に入れ、楽俊は苦笑を浮かべて髭をそよがせた。
楽俊の姓名は張清。文張とは「文章の張」の意だ。ある師に文章を褒められたことが由来だが、純粋に称賛されているわけではない。一等いい成績で大学に入った楽俊への嫉みや揶揄も入っている。即ち「一番で入学して卒業した者はいない」からだ。軽く頭を振ると髭が揺れた。楽俊は笑みを漏らす。それから陽気に話しかける友たちに向き合ったのだった。
用を済ませて自室に戻る途中、半獣風情が、と聞えよがしの悪口を浴びせられた。独りでいるときでよかった、と楽俊は思う。友たちが怒るからだ。楽俊はそこまで気にはしない。生国である巧では、半獣は大学どころか少学にも入れなかった。戸籍に半獣と書かれ、年齢が達しても正丁の資格を貰えないために給田もないし職にも就けないのだ。
雁は凄い。成績さえ達していれば、半獣でも大学に入ることができる。しかも卒業すれば国官にもなれるのだ。楽俊は何度か目の感嘆の溜息をついた。
そういえば、この国の王さまは、王宮で与えられた衣服を着るために人型になった楽俊に、そんなもの脱いでも構わんぞ、と言い放つ豪快な御仁だった。王さまなのに簡素な長袍だったな。くすくす思い出し笑いをする楽俊の胸に浮かぶ者は、もう一人の王。
雨の中、道で倒れていた。拾って連れ帰り、世話をした。海客でも普通に暮らせる雁を目指して共に旅をした彼女は慶国の新王だった。事実を知って気後れする楽俊に、海客だからと差別しなかったのに王だと差別するのか、と言い募った彼女は、楽俊にとって、初めての友、だった。
改めて、彼女との旅を思い出す。手負いの獣のように気が立っていた彼女とは途中で逸れてしまった。再会を願い、渡った雁にて待ち続けたことで、楽俊の前に新たな扉が開いたのだった。
雁州国郷都烏号の埠頭に巧州国阿岸から来た船が着いた。降りてくる数多の乗客を見やり、楽俊は我知らず眼を瞠る。捜し人が、そこにいた。見紛うことなく、見つけることができた。目が、素通りできなかった、
「陽子?」
驚き振り返る友に、楽俊は笑みを浮かべて駆け寄ったのだった。
それからの旅は巧にいた頃よりもずっと楽だった。郷で海客の届け出をした陽子には給付金がある。そして雁では役人に追われることもない。衛士を見ると身を硬くしていた陽子も、しばらくすると顔つきが穏やかになった。
巧に比べてずっと豊かな雁に陽子は驚いていたが、それは楽俊も同じだった。石で綺麗に舗装された道路。窓に玻璃が入った三階建ての建物。そして街を闊歩する人々の中には半獣も珍しくなかった。国が違えばここまで違う。知識として知っていたことをを実感するのは楽俊にとって良い経験だった。
昼は街道を歩き、夜は街で舎館を取った。どの街も巧より大きく、店先には珍しいものが並ぶ。楽俊は好んで店巡りをするのだった。
「もっと華やかな恰好をすればいいのに」
店に並ぶ色鮮やかな襦裙を見て、楽俊は陽子に告げた。綺麗な顔をしているのに袍を着ているせいで少年だと思われてしまうのだ。安全な旅を続けているのだから娘らしい装いをすればいい。そう勧めても陽子は首を横に振る。
「袍は気楽なんだ」
陽子は屈託なく笑った。出会った頃には見られなかった眩しい笑みに、楽俊はしばし言葉を失う。思わずぽりぽりと頬を掻いた。
陽子は女性で楽俊は男性だ。遠回しに言ってもちっとも伝わらない。無論、海客の陽子には毎日たくさん話をしている。こちらの風習についての説明は勿論、陽子の疑問にも答えていた。小さな鼠に見えても楽俊は正丁なのだ、とも。理解、していないかもしれない。
結局今夜も取る房室はひとつ。外の浴場を使えない陽子が湯を使うために、楽俊は房室から出されてしまう。それは別に構わないのだが、年頃の男女としてはよろしくないだろう。襦裙を着てくれれば舎館の者が気を利かせてくれるだろうに。けれど、陽子がそれでも一緒でいいと言い張れば恋仲と思われてしまうかもしれない。それもまた面倒なのだ。
まあ、ひとつの房室であれば、それだけ話す時間も長い。初めてできた友との交流を喜んでいる自分に、楽俊は苦笑を零す。そんな密かな悩みも、延王に出会って玄英宮に招かれてからはなくなってしまったのだった。
懐かしい思い出は、胸をほっこりと温める。大学でも友人はできた。それでも、最初に楽俊を友と認めてくれた陽子の存在は大きい。陽子が慶東国国主景王という文字通り雲の上の存在となった今でも。そんなときだ。
不意に窓がこつんと鳴った。既に暗い外を見ると、宙に人が浮かんでいる。ひっと叫びたがる口を辛うじて押えた。何度やられても慣れない出来事だ。苦笑を浮かべて窓を開ければ人影は三つ。
「楽俊!」
喜色を帯びた声とともに真っ先に飛びこんできたのは、いま思い出していた懐かしい友。
「わあ!」
今度こそ声を漏らした楽俊に、友を連れてきた雁国の偉い方々は人の悪い笑みを見せるのだった。
2018.10.12.
ご感想御礼 未生(管理人)
2018/10/15(Mon) 00:26 No.190
皆さま、意外に難産だった楽俊と陽子主上にご感想をありがとうございました。
文茶さん>
半獣で損な人生を歩んできたであろう楽俊、支えは勉学だっただろうと私も思います。
人との関わり合いが薄かった楽俊の心を動かしたのは陽子主上、
お互いを高め合う用意奸計ですよね〜。
男女間の友情は成立すると思わせてくれる素敵なコンビだと思います。
ネムさん>
おお、ネムさんのリクエストでしたか! ちょっと意外でございます(笑)。
今回原作「月影」下を読み直し、
宿は一部屋との描写に妄想がムラムラと湧き上がったのでした。
楽俊、実は煩悶していたのではないかと(笑)。
そう、陽子主上は裏切られ続けて荒んだ心を楽俊に解かれましたが、
楽俊も聡明ゆえに諦観していたところを前進できるようになったのではないかと思いますね〜。
リクエスターに楽しんでいただけると物凄く嬉しいです!
リクエストとご感想をありがとうございました!
饒筆さん>
おお、楽陽主義者の饒筆さんにお楽しみいただけて嬉しゅうございます!
私もこの二人にはずっと揺るぎなく親友でいてほしゅうございます。
ご同感くださりありがとうございました!