「投稿作品」 「祝13周年相棒祭」

宿題提出 ネムさま

2018/09/02(Sun) 01:08 No.9
 お祭り前に、暑さで頭が停止したので未生さんに「ネタ下さい!」とお願いしたところ 「相棒な泰麒と驍宗様」というリクを頂きました。 例によってズレまくり、内容はシリアスですが、やってることは「ポケモン、ゲットだぜ!」 になってしまった…(そして関係ないシュミのおまけ付き --;)
 と、取りあえず提出しま〜す(逃)

黒麒出陣

ネムさま

2018/09/02(Sun) 01:10 No.10
「また心配?」
「あぁ。本当に私は心配ばかりしている」
 そう言ってから、李斎と花影は顔を見合わせ、くすりと笑った。以前、似たような会話をしたことを思い出したからだ。
「でも、あの時は私が花影を慰める立場だったのに」
「仕方ないわ。台輔のことですもの」
 そう言いつつ、花影も小さく溜息を吐く。
「本当に、主上はどういうおつもりで、あんなことをおっしゃったのか」
 二人は半月前の出来事に思いを馳せた。
 その日の朝議も、始めから重苦しい雰囲気だった。行方不明だった王と台輔が帰還してから既に一年。しかしそれ位の年月で復興できるほど、戴の国土が蒙った傷は浅くはなかった。
 朝議も回を重ねるごとに、各府からの報告=訴えが増えるばかりで、対策は少しも進まない。地官が垂州沿岸に今だ出没する妖魔を退治して欲しいと訴えた時も、驍宗は軍の人手不足を理由に、対応を見送る旨を告げた。
「でも ― 本当に何の策も無いのでしょうか」
 皆が驚き向けた視線の先には、鋼色の髪を肩先まで伸ばした少年がいた。
「垂州は他州に比べ、妖魔の被害が一際甚大です。これ以上待てと言うのは、民にとって余りにも酷です」
「国が落ち着けば、自然と妖魔も消える。だからこそ一刻でも早く国力を回復しなければならぬ」
 無表情で答える驍宗に対し、泰麒は思わず口走った。
「でも、民からの信頼を失えば、国は成り立たない…」
 議場は静まり返った。民から王への信頼 ― それはここにいる全員が密かに危惧していることだった。
 凶賊に謀られ国土を未曽有の荒廃に曝した王。それが驍宗への現時点での評価である。そしてこのまま復興が覚束ないならば、民の不信は台輔の失道、即ち王の死も招きかねない。
 主の身を案じる余りに意見した泰麒に対し、しかし驍宗は冷厳と言い放った
「それほど妖魔の出没が気になるのなら、お前が垂州へ行け」
 誰も驍宗の言葉の意味を理解できない。呆然としている一同へ、驍宗は尚も続ける。
「麒麟は妖魔を折伏し、使令にすると言う。丁度良い機会だ。使令を増やしてくるがいい」
 どこからか悲鳴に似た声が上がった。確かに麒麟は妖魔を捕えることが出来る。しかしそれは一対一の場合である。黄海を離れた妖魔は、複数で現れることが多い。一匹を捕える間に、他の妖魔に襲われる確率は高い。使令を複数持つ麒麟ならば、折伏の間、使令に他の妖魔を当らせることが出来るが、泰麒には ―
「傲濫も汕子も連れて行け」
 思わず振り仰いだ泰麒の顔に、驍宗は薄い笑みを向ける。
「放っておけば倒れるような王に、今更刃を向ける者もいないだろう。
 最もお前の方は、傲濫を連れて行けば、妖魔が怯えて近寄って来ぬかも知れぬがな」
 暫しの間、主の顔を見つめていた泰麒は、やがて頭を垂れた。
「ただ今より垂州へ赴き、必ずや彼の地を治めて参ります」
「麒麟の出陣など前代未聞だと、一時は大変な騒ぎでしたわね」
 花影の言葉に李斎は溜息で返す。
 麒麟は慈悲の生き物。相手が妖魔だとしても、血を厭う聖獣が直接戦いに赴くとは尋常の事ではない。大きな期待を寄せる者もいれば、当然反対する者もおり、白圭宮は騒然とした。
「己の人気取りのために、台輔の命を差し出すのか」
 そんな声まで聞こえた。しかし驍宗は何も言わず、泰麒が垂州へ向かう時も見送りもせず、淡々と政務をこなしている。
「大丈夫。無理はしない。でも、たくさん捕まえられたら、李斎に一匹あげるよ」
 そう言って笑う泰麒を見送った李斎は、自分の右腕をそっと掴む。
― この腕があれば、台輔のお供が出来たのに。いや、台輔を垂州へ行かせはしなかった ―
 改めて失ったものの多さに愕然とする。初めは国を荒らした阿選を憎んだ。しかし余りに大きな荒廃を前に、憎悪よりも己の無力を苛む気持ちの方が強くなっていく。あの驍宗さえも、決断を先送りしている事が増えてはいないか。
― 増してや国の聖獣を妖魔退治に差し向けるなど、主上の正気を疑う者もいるのでは ―
 突然立ち上がった李斎に、花影は驚いた。そして何も言わず駆け出した友人を呆気にとられて見送ったが、その切羽詰まった様子に感じるものがあったのか、慌てて後を追いかけた。

 異変は既に起こっていた。
 内殿の奥から駆け出して来た小臣と鉢合わせし、手傷を負った彼を花影に託すと、李斎は更に走った。園林では、十数人の刺客に囲まれた驍宗と大僕の二人だけが奮戦していた。
「主上!」
 突然の加勢に刺客は驚いたが、隻腕の元将軍と見取るや、李斎にも刃を向ける。氾王から直々に贈られた右の義手で2人ほど叩き伏せ、李斎は驍宗の元まで辿り着いた。しかし敵も手強い。延王に並ぶ剣客と謳われる驍宗を相手に怯む気配が無い。
― 絶望で命を捨てているのか ―
 李斎は泣きたいような気持になった。
 旋風が巻き起こったのは、その時だった。青灰、硫黄そして鮮やかな蘇芳の色が、驍宗達の周囲を巡り、気付くと刺客達が薙ぎ倒され呻いていた。そして園林の向こうから大勢の声が聞こえると、風はそちらへ向きを変える。
「止めよ!あれは味方だ」
 驍宗の声に旋風は止み、三体の妖魔が姿を現した。駆けつけた兵士、そして花影を始めとした官吏達は突如現れた妖魔に驚いた。そして矢を番おうとした兵士へ、これにも驍宗は中止を命じ、徐に妖魔の前に立った。
「お前達は蒿里の命により参じたのか」
「是」
 青灰色の巨大な狼が答える。
「我ら三体を同時に捕えると、すぐに主上の元へ行くよう命ぜられました」
 官吏達の間から声が上がる。
「三体同時に!?まさか、そんなことが…」
 しかし驍宗は驚きもせず、妖魔―今は泰麒の使令に向かい尋ねる。
「その後蒿里は如何した」
「傲濫殿へ、残りの五体を囲い込むよう命ぜられていました」
「自分に怪我は無いと、主上へお伝えするよう申し付かっております」
 硫黄色の獅子と蘇芳の鳥が交互に話す。
「私の元には二体いれば良い。一体は蒿里へ私の無事を伝えよ」
「御意」
 獅子が地面に吸い込まれ、狼と鳥も驍宗の足元に消えた。
「主上」
 ようやく動き始めた人々の中で、李斎は尋ねた。
「台輔が使令を連れて行った後、このように謀反が起きると思われなかったのですか」
「今までの私の無能振りならば、いずれは起きただろう」
 李斎の頭に、一気に血が上る。
「そのようなことを!台輔が妖魔を捕えられなかったら、どうするおつもりでしたか!!」
「捕えるまで堪えるまでだ」
 あっさりと返す驍宗に、李斎は声を失った。
「問題の余りの多さに何も出来ずにいた私へ、蒿里は意見をしてくれた。そして私の窮余の策に、命懸けで挑んでいった。ならば私は、蒿里が使令を送ってくれるまで、謀反が起きて殺されかけても、己の力で防ぐ。決して諦めてはならぬのだ」
 そうか、と李斎の肩から力が抜けた。驍宗は投げやりで泰麒に命じたのではない。泰麒の想いに応え、また泰麒も驍宗の信頼に応えようと出掛けて行ったのだ。

 気付くと周囲に人が集まっていた。驍宗は端然と立っている。嘗ての、他を圧倒するような覇気は無い。しかし何かを乗り越えた、静かな自信に満ちている。それは、失ったものを数え呆然としていた自分達、戴の民にとって、今一番欲しているものだった。
 傍らで花影が跪いた。李斎も、他の者もそれに続く。彼らの伏せた目には、驍宗と、その傍らに寄り添う、しなやかに強い、黒い麒麟の姿が、確かに見えていた。

(お ま け)

 垂州から妖魔の姿が消えたので帰還すると、白圭宮へ泰麒からの報せが届いた。届けたのは、燕によく似た使令だった。
 驍宗が泰麒の元へ戻るよう使令に言うと、使令は困ったように首を傾げた。
「あの…主上のお許しがあれば、私は李斎様の元へ行くよう、台輔に言われました」
 驚きの余り、傍らで口をぱくぱくさせている李斎をよそに、驍宗は尋ねた。
「ほぉ。お前の名は」
「鳥衣(うい)と言います」
「飛燕に鳥衣、どちらも燕か」
 そう呟くと、驍宗は愉快そうに言った。
「蒿里は、今後も李斎が心配しないよう、連絡係を付けたいのだろう。分かった、頼むぞ」
 驍宗が言うと、鳥衣はツイと李斎の前まで飛んだ。あまりに自然な動作に、李斎も手を差し伸べると、鳥衣はその左手に顔を摺り寄せた。
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背景画像「「篝火幻燈」さま
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