(開催期間 2020.09.01.~10.05.)
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大遅刻
user.png ネム time.png 2020/10/03(Sat) 02:35 No.65

 本当に、本当に!遅くなりました。
 ネタはひと月以上前からあったので楽勝~と思っていたら、白銀ネタだったので原作を読み返している内に時間が……試験前日に範囲が間違っていたという気分を味わいました ウッウッ。 管理人様、お祭り延長、本当にありがとうございます~ mTTm
 
 ちなみに副題は「泓宏くんの災難」です。

登場人物:尚隆、泓宏、岨康の街の皆さん
作品傾向:コメディ & シリアス
文字数: 3557文字

 

さぁ一緒に飛びつきましょう!
user_com.png ネム time.png 2020/10/03(Sat) 02:38 No.66

― 500年の握手会 ―

 女達の笑い声が周囲の山肌へ響くように聞こえてくる。冬の間は街に覆いかぶさるようにも見えた凌雲山も、今は春近い澄んだ空へ向かって伸びている。
 しかし、そうした早春の風景を味わうことなく泓宏は、雪解け水と残雪を跳ねらかしながら走り、叫んだ。
「まったく!どこに雲隠れしてたんですか、えん…ん…と、邦将軍!!」
 すると女達の間から頭一つ顔を出していた男が軽く手を挙げた。
「何を慌てている。昨日言っただろう。李斎から聞いた朽桟の家族に会いに行くと」
「昨日は、でしょう。さっき安福から戻ってきたら、貴方がまだ帰らないと聞いて探したんですよ」
「話をしていたら結局夜が明けてしまった。好い女だな、女房も娘達も」
 声にならない悲鳴を上げながら泓宏は、この雁軍の将軍―実は延王・尚隆の世話を申し付けた主と泰王に、心中恨み言を奏上した。


 阿選の乱により国土を大きく荒らされた戴は、現在も他国からの支援を受けながら国の再建に勤しんでいる。特に、大陸の北の大国・雁からの支援は大きく、王と台輔自ら幾度も来朝してきた。
 今回も、特に偽朝との戦いが激しかった文州の様子を見たいということで、泓宏が案内役として付き添うことになったのだが…
― 前から王にしては気軽に行動する方だとは思っていたが … 自由が過ぎないか? ―
 お忍びなので雁の武官の格好はしているが、街中では気軽に人の輪へ入って話を聞き、鉱山では坑道の奥まで入った挙句、坑夫に掘り方を教わっている。飲むと陽気な酒で周囲に人が寄ってくるので、傍にいる泓宏は気が気ではない。元々行動的な主に仕えていたせいか(だから選ばれた?)進言も遠慮のないものとなるのに時間はかからず、今や尚隆をして
「まるで玄英宮にいるみたいだ…」
と言わしめるほどとなった。
「貴方の女性への関心度は分かりますが、彼女達はですね…」
「3人も夫を亡くしたのに、夫の遺志を継いで仲間の家族まで面倒を見ている。残された息子も娘達も母親を支えている。朽桟という男の人柄が偲ばれる」
 思わぬ深い口調に、泓宏は言葉を詰まらせた。共に戦ったのは僅かな間だったが、朽桟の為人は知っている。
「そうですよ。その大切な仲間の家族に何かあったら、李斎様は王様だって相手になります」
 湿りがちな声を奮い立たせ憎まれ口を言う泓宏へ、尚隆はあっさり返した。
「知っている。蓬山でも泰麒を助けるため、西王母とやり合ったからな」


 尚隆はそのまま、次蟾の声を聞いたような状態の泓宏を従え、岨康の街を歩いた。一度廃れかけた街だが、朽桟達が早々に拠点を移したため先の乱に巻き込まれることも無く、石林観の廟があることから天三道の援助も受け、今はあちこちから槌音や物売りの声が聞こえてくる。だが尚隆はふいっと薄暗い路地へと足を踏み入れた。
 いまだ道の真ん中は踏み固められた雪に覆われ、妙に傾いだ屋根から落ちる水音が耳に付く。窓も戸も閉め切った隧道のような道がようやく途切れる所で、何やら言い争う声が聞こえてきた。尚隆は背後の泓宏を手で止め、先に一歩踏み出した。
 腕の中に飛ばされてきたのは十かそこらの子供だった。
「何をしている…と一応問うのが礼儀かな」
 身構えた土匪らしき男達は、尚隆の呑気な様子と服装(なり)を見、鼻で笑った。
「雁の野郎か。余所者は引っ込んでろ」
「余所者はそっちだろ!」
 尚隆に抱えられた子供が言い返すと、あちこちで固まっていた、いかにも貧し気な人々も声を上げる。
「ここは朽桟の首領(おかしら)の縄張りだ」
「赤比の兄ぃも帰ってくる」
「お前ら、戦の時にはコソコソ隠れていやがったくせに」
 しかし土匪達は哄笑する。
「土匪のくせに王の狗になんか成り下がるから死んじまうのさ」
「赤比がなんだ。足腰が立たねぇから安福に隠れてんだろ」
 子供も周囲も言葉に詰まる。そこへ土匪達の後ろから大勢の気配がした。
「ここらを荒らしている輩というのは、お前達か!」
 士卒達が土匪を素早く囲い込む。土匪が異を唱えようする前に低い声がした。
「お前らの世界のことは知らない。だが朽桟達は墨幟の仲間だ。仲間の大事な場所を荒らすなら、こっちはこっちのやり方で守る」
 歴戦の武人らしい殺気を纏った泓宏の言葉に、土匪達は震え上がり、大人しく士卒達に従って去って行った。
「ほう。あの将にしてこの麾下、というところか」
 尚隆の愉し気な言葉に再び泓宏は肩を落としたが、いきなり小さな手が彼の体を突き飛ばした。
「なんで士卒なんか呼ぶんだよ!また首領のこと、王の狗だって馬鹿にされるじゃないか」
 先ほどの子供が拳を振り上げている。すると痩せ細った男が駆け寄ってきた。
「この子達は阿選の誅伐で家族を殺され、その後首領達に拾われたんです。使い走りや細々した用事をさせて、でも良く面倒を見てもらって…」
 振り向くと数人の子供達が気づかわし気にこちらを見ている。
「あいつらだけじゃない。首領がいなくなって、いろんな奴がここを狙っている。首領や此勇の兄さんも王の戦なんかに行かなけりゃ、あんな奴ら…」
 泓宏は思わず俯いた。先の戦で朽桟のような統率の取れた党羽が討たれ、本当の意味での土匪(ごろつき)が湧いて出てきている。先程のように士卒を出すにしても、完全に抑えられるか、正直心許ない。それでも言わずにはいられなかった。
「だが彼らのお陰で、戴には正しい王が戻られた。これから国はきっと良くなる。だから」
「ならないよ」
 子供がぽつんと言った。
「台輔が王様を選んだ時も皆そう言って喜んでたのに、急に王師が来て父ちゃん達を殺した。首領達が死んで、でも王様が戻ったから大丈夫だって大人は言うけど、あんな奴らが来て首領達の悪口を言い触らして…こんな国、良くならない」
 今度こそ泓宏は口を閉じた。もの心が付いてから貧困と兵乱しか見たことのない子供達。
― その上慕っていた大人達を亡くした彼らに、未来を語ってどうするのか ―
 殆ど陽の当たらない裏通りの上にも春の空が広がっている。だが足元からは、消えない雪の冷たさが纏わり付いて離れない。


「本当に王というものは、不甲斐ないものだな」
 言葉の割りにのんびりした声だった。
「雁も500年前は酷かった。梟王―前の王が非道の限りを尽くし、見事な程に何も無かった。しかも次の王は胎果でこちらの仕組みが分からないから、やりたい放題。結局、民と官吏が頑張って、緑も人も戻り、今や奏と並ぶ大国と祭り上げられるまでになった」
 だが、まぁと笑い含みの声が続く。
「雁の王に比べて驍宗…泰王は優秀で責任感が強い。王と民が一緒になれば、500年も掛からず戴は復興するだろう」
 しかし子供は不満そうだった。
「そんな昔の話を言われても分からないよ。小父さんだって、本当に見たわけじゃ…」
「実際に見てきた。500年の間」
「500年?」
 素っ頓狂な声に泓宏が振り向くと、いつの間にか周囲に人が集まっている。尚隆の正体がばれないかと泓宏は慌てたが、本人は知らぬ気に続ける。
「俺は仙だからな。玄英宮には前の梟王時代からの官吏もいるぞ」
 どよめきが走る。仙が歳を取らないことも、雁が500年の大王朝であることも周知のことだが、この街の人間で、実際にそれほど永く生きた人間を見た者はいなかった。
 口を大きく開けたまま見上げる子供に、尚隆は笑いかける。
「500年の間、雁も全てが良い方向に進んだとは決して言えない。それでも、昔誰かが望んだ飢えない国、戦火に追われる心配のない国に、少しは近づいていると思う。
 何が良い国かが分からないなら、今は伝えていくことだけを考えろ」
「伝えるって…?」
「お前の首領達は王の狗なんかじゃない、お前達を守るために勇敢に戦ったこと。お前達がどれだけ朽桟達のことを好きだったかということ。そうすれば…500年先、1000年先にも彼らのことが残るかもしれん」
 お前達が彼らを連れて行くんだ、と尚隆は言った。
あまりにも漠然としていて子供にはよく理解できない。それでも…自分が今いる所よりずっと遠く、多分自分がたどり着けないだろう時の彼方の風を、ほんの少し、感じられた。


 二人の傍らに小さな影が近寄ってきた。
「おじさん、本当に500歳なの?」
 仲間の子供達らしい。
「ああ、そうだ」
 尚隆が頷くと、そのうちの一人がおずおずと言った。
「あの… 触っても、いい?」
 一瞬、尚隆は瞠目した。しかしすぐに破顔した。
「いいぞ、500年の縁起物だ」
 雲間から差した陽の光のように出された手へ、子供達は歓声をあげて飛びついた。
「あの、私共も御手を握らせて頂いて、よろしいでしょうか」
「ありがたや、ありがたや」
「ちょっと待ってて下せぇ。家から親父を連れて来ますから」
 次々とやってくる街の人間に埋もれ、さすがに尚隆は助けを求めるように泓宏を見たが、自業自得とばかりに泓宏は目を逸らす。
 逸らした先に映る早春の空は、少し滲んで見えた。
五百年の重み……
user_com.png 未生(管理人) time.png 2020/10/03(Sat) 14:51 No.67
 ネムさん、お待ちしておりました! あ~解ります、白銀ネタって時間泥棒でございますよね……(現在進行形の苦しみ)。

 邦将軍でくすりと笑い、右往左往する泓宏でくすくす笑ってるうちにしんみりな内容になり……。
 子供たちにとっては五百歳の仙は不思議な人に見えるでしょうね。見た目が若いだけに……。
 カッコいい尚隆をありがとうございました! 

 皆さまの尚隆をまだまだお待ちしておりますね~。管理人とともに足掻きましょう(笑)。
エンドレス
user_com.png senju time.png 2020/10/03(Sat) 20:56 No.68
ありがたやありがたや・・とエンドレスで呟きながら、すでに腰のひけきった殿の手を一向に離さない自分の姿しか思い浮かびません(笑。ワタクシに限り、タイトルも「殿の災難」に改定されている模様です。ふふふ。
その握手会(違う)は蓬莱で開催されるご予定はありませんか?
えーい、どすこーい!!
user_com.png 文茶 time.png 2020/10/04(Sun) 10:17 No.70
 体当たりしてみました(笑)。筋肉vs脂肪でぼよんと吹っ飛ばされましたが、ありがたや、ありがたや。
 改めて尚隆の懐の深さ、器の大きさが感じられるお話でした。やはりこの方はすごいなと。そして「お前達が彼らを連れて行くんだ」との台詞にじんときました。朽桟の想いを受け継いでいくこの子たちが健やかであれと願わずにはいられません(私も世界の輪郭がぼやけてきたよ泓宏......)。

 そうそう、私めにも次回の握手会日程を教えていただきたく!(メモとペンを握りしめる)
ありがとうございます!
user_com.png ネム time.png 2020/10/04(Sun) 12:46 No.74
未生さん> もしかして、未生さんも白銀ネタ執筆中?楽しみです~。確認のための再読がホント!に大変ですけどね(苦笑)
 仙がいる世界でも実際500歳の人を見る機会はそんなに無いだろうと思って書きました。子供達には過去があるなら未来もあることを感じてもらいたいです。

senjuさん> う~ん、王が蓬莱へ行くと蝕が起きるしコロナだし…。すみませんが、常世で手を握っていてください。1日くらい大丈夫ですよ~、500年も生きてるんだから(オイ!# by尚隆)

文茶さん> おぉ、見事な肉弾戦!泓宏がスカウトしてきそう(違う)
 尚隆自身が自分の500年という時間をどう捉えているか分からないけれど、民に必要だと思えば、自身が持っているものは何でも差し出す―そういう人だと思っています。
 次の握手会は牙門観跡でやろうかなぁ(エ?by尚隆)
朽桟のおかしらぁ!!(泣き崩れる)
user_com.png 饒筆 time.png 2020/10/04(Sun) 23:08 Home No.94
ホント、ほんっっっとーに惜しい御方を亡くしましたよ!おかしらああああ!!!(うわああん泣)
白銀で他界した惜しまれるキャラ・マイベスト3に入る御仁なので、岨康のその後を描いてくださって嬉しいです。
慕われているよ、愛されているよ、おかしらあああ(←しつこい)

で、そちらの雁の御仁はまさに「縁起物」でいらっしゃいますもんね、そうそう、みんなで飛びつきましょう♪
……何故か、六太クンが整理券とか、握手券を配っている図が浮かびました(笑)
「はいはい、皆並んでねー最後尾はあっち!」(あははは!)
滲む涙が笑いに変わる、嬉しいお話をありがとうございました!
牙門観でもお願いします~!
user_com.png mina time.png 2020/10/05(Mon) 12:27 No.109
あれ、コメントちゃんと書き込めてなかった。汗
延王、ズタボロになった牙門観でも握手会開催してください~。
朽桟と並ぶ、白銀登場→作内死亡の惜しいキャラ、牙門観の葆葉さまのところも皆、反賊とか呼ばれて辛い思いをしてると思うのです…。
折山と呼ばれた荒廃から復興した500年の命のエネルギ~、きっと手から手へと伝わっていきますよ~。
魔性の子から一貫して容赦なく作内で人が死んでゆくのが小野先生の作風ではありますが、それにしても惜しいキャラでした。守ろうとした小さな命が失われた彼をちゃんと慕っていて胸がいっぱいです…。
また ありがとうございます!
user_com.png ネム time.png 2020/10/05(Mon) 22:17 No.113
饒筆さん> 泣いて下さってありがとうございます。私も残された家族や仲間が気になって書いてしまいました(ベスト3の残り2人教えて下さい)尚隆と朽桟、会ったらきっと、意気投合するんじゃないかなぁ。
 六太くんの誘導係!似合います。もっとも同じ年月を生きて、更に麒麟の彼の方が付加価値高そうなんですけどね。

minaさん> じゃ牙門観跡、決定ネ(エ、エ?by尚隆)轍囲や西崔跡も、すっかり居直った泓宏くんに仕切ってもらいましょう(李斎様に負けられません!by泓宏)「子供はいいぞ…いると張りがある」と言った彼の為に、500年のエネルギーを分けてほしいですね、本当に(TT)

 暖かで楽しい感想をありがとうございました!

 
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