(開催期間 2020.09.01.~10.05.)
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なんとか第3弾
user.png 未生(管理人) time.png 2020/10/04(Sun) 16:04 No.77

 皆さま、こんにちは。祭にご投稿及びレス、拍手をありがとうございます。
 
 本日の北の国、最低気温は13.8℃、最高気温は18.9℃とこの時季としては暖かな気候でございます。未だ雪虫情報も流れてまいりません。今年の初雪は遅いかもしれませんね。
 
 さてラストスパート中の管理人、漸く第3弾を仕上げました。この長さのものを書いたのは久しぶりかもしれません……。原作「黄昏」幕間、奏を訪ねたかの方とその頃は宮にいるはずの第二太子の密談でございます。陽子主上は登場しませんが尚陽前提で話が進みます。捏造過多な代物ですので苦手な方はご注意くださいませ。
 
※ 管理人の作品は全て尚陽前提でございます。

登場人物   利広・尚隆
作品傾向   シリアス
文字数    3862文字

公式の対面@管理人作品第3弾
user_com.png 未生(管理人) time.png 2020/10/04(Sun) 16:06 Home No.78
 公の場で風漢と顔を合わせるのは初めてだ。出会う場所はいつでも軋み始めた国の首都。数知れない邂逅で互いの素性は分かっていても、公式に対面することはなかったのだから。
 
 奏南国清漢宮に賓客が訪れた。慶東国金波宮にて蓬莱で泰麒を捜索していた雁州国国主延王と慶東国宰輔景麒だ。先触れの使令が、火急につき雲海の上から訪問する無礼をご寛恕願いたい、と奏上した。奏国太子卓郎君利広は家族とともに後宮にて二人を迎える。初顔合わせになる景麒に宗王一族を紹介し、挨拶が済んだ後、延王尚隆は改めて利広に眼を止めた。

「──おお、初めてお会いする方がおられるな」
「延王、景台輔、お初にお目にかかります。卓郎君利広にございます。どうぞお見知りおきください」

 利広は笑みを湛えて口上を述べた。風漢とは度々遭遇してきたが、利広が卓郎君として延王尚隆に会うのは初めてだ。当たり障りのない応えを返すと、延はいっそう笑みを深めて続けた。

「ようやく対面が叶ったな、卓郎君。よろしければ、ゆっくりと旅の話でも聞かせてもらいたいものだ」
「私の方こそ、稀代の名君の誉れ高き延王に拝謁でき、光栄至極でございます。私の拙き旅の話など、ご所望であれば、いつでもお聞かせいたしましょう」

 社交辞令に見せかけて、延は会議後の情報交換を求めている。その意を汲み、利広はにっこりと笑って応じたのだった。

 泰麒発見。
 
  延王自らの訪問の理由は正にそれだった。蓬莱にいる泰麒は麒麟でありながら麒麟の力を失っている状態だという。そんな泰麒を連れ戻すためにできるだけ多くの使令を借り受けたいとのことだった。質疑応答の末、奏は使令を貸すことを約し、会議はお開きとなった。

 利広は銘酒を手土産に掌客殿を訪う。延王尚隆は既に一人酒を楽しんでいたらしい。卓子の上には銘酒や酒肴があった。延は風漢の顔をして笑い、空の酒杯を差し出す。利広は軽く笑い、酒を注ぎながらあの場では訊けなかったことを問うた。
 
「──どうして彼女を連れてきてくれなかったの? 驚かせてあげたかったのに」

 延王が連れてくるのは景王だろう。奏では皆がそれを期待していた。先に訪れた延麒によると、登極間もない景王が百戦錬磨な延王を論破して泰麒捜索を実現させたそうだ。伏礼を廃すという初勅を出し、半獣や海客の規制を撤廃させた胎果の若き女王に、宗王一家は興味津々だった。しかし実際に現れたのは景麒だ。先触れで知らされていたとはいえ文句のひとつも言いたくなるだろう。しかし。
 
「──埒もないことを」

 風漢は苦笑して利広の問いを受け流す。利広は敢えて爽やかな笑みを浮かべて畳みかけた。

「そんなに、私に会わせたくなかった?」

 鮮烈な紅の女王との邂逅を、利広が忘れたことはない。慶国王都堯天の下町で出会い、ひと時をともに過ごした。この機会に誼を結ぼうと金波宮を訪ねることさえ考えていた。それをしなかったのは、堯天では顔を合わせずに済んだ風漢に、柳国王都芝草で会ってしまったからだ。景王陽子の公にできない伴侶である、延王尚隆に。
 人の悪い笑みを浮かべた風漢は、黙したまま酒杯を差し出す。利広は再びその杯に酒を満たしつつ意地悪く告げた。
 
「ああ、失言だったな。延王ともあろうお方が、そんな卑小なことを思うはずもない」

 利広の当てこすりに、風漢は口の端を上げてゆっくりと口を開く。

「お前が穏和しく国にいるとは思わなかったぞ」
「私には私の事情があるんだよ」
「知ったことではないな」
「──相変わらずだね」

 この難儀な男から答えを引き出すことはできなさそうだ。少なくとも今は。利広は肩を竦め、軽く笑って話題を変えた。

「で、どうするつもり? 王が渡ると大災害が起こる。それでもやるの?」
「どうするも何も。饕餮も泰麒も、あちらにおいても危険な代物だ。無理でも何でも連れ帰らねばならぬ。俺はそのための手勢を借り受けに来たのだ」

 風漢は薄く笑って即答する。非公式とはいえ雁国延王と奏国太子の会談だからだろう。が、そのあまりにも滑らかな応えに、利広は冷たく笑い、またもあの場では訊けなかったことを問いかけた。

「──雁は、泰果が生るのを待つ気だと思っていたよ」

 それは麒麟の前では決して口にできないことだった。放っておけばいつかは新たな泰果が生る。そうして麒麟が王を選ぶまで待てばよいのだ。所詮は他国のこと、なのだから。

「──範の奴も、そう言っておったぞ」

 風漢は楽しげに笑って新たな情報を開示した。三百年の朝を揺るぎなく治める範国氾王も同意見なのだ、と。他国に干渉しないのが世の常だ。利広は大きく頷いた。

「王なら、必ず思うことだろう」
「王なら、な」

 風漢は思わせぶりなことを言って酒を呷る。利広は眉根を寄せた。慶の若き女王の凛とした姿が胸に浮かぶ。

「彼女だって、王だろうに」
「──実際に、陽子(あれ)に会ったお前なら、分かるだろう?」

 風漢は穿ったこと言い、楽しげに笑う。利広は肩を竦め、両手を挙げた。

 景王陽子は不思議な娘だった。胎果でこちらの常識にまだまだ疎い彼女は面白い考え方をする。波乱の国、慶を落ち着かせるためにはあれくらい破天荒な王を据えなければならないのかもしれない。しかも、彼女の登極を援助したのは延王尚隆だ。
 利広は古の雁を思い出す。梟王が荒廃しつくした後、次の麒麟は王を捜せずに斃れてしまった。折山の荒、亡国の壊と言われるほどに荒れていった雁。それを立て直し、治世五百年の大国を築いたのが胎果の延王なのだから。

「世界は変わるぞ、利広。天の配剤、とやらでな」

稀代の名君と称えられる王はゆったりと告げ、厳かに杯を掲げた。利広は眼を瞠る。二の句が継げないとはこのことだ。束の間動きを止めた後、利広は唇を緩めて掲げられた酒杯に己の杯を合わせる。かちんと涼やかな音が響き、二人は己の酒を飲み干した。

「──どういう風の吹き回し?」
「どう、とは?」

 敢えて明るく訊ねてみれば、問で返してくる。いつもながらの狸ぶりに笑いが込み上げた。

「相変わらず、質の悪い御仁だねえ」
「お生憎だな。言ったのは天の声を聞く麒麟だ、俺ではない」
「ふぅん、天の配剤と延麒が言ったんだ……」

 利広は軽く腕組みして口笛を吹いた。

 想像の範疇のことは起こらぬ。

 そう明言する延王だ。自ら他国を見聞し、尽くせる手は全て尽くす。そうやって生き延びてきた王が天啓を妄信することはない。麒麟の言葉と知れば納得もできる。そして。
 延が慶国の世話を焼いたのは、己の伴侶のためだからではない。雁は慶と国境を接している。国が荒れれば荒民が高岫を越えてどっと押し寄せる。自国が落ち着くと持ち上がる頭の痛い問題のひとつなのだ。利広はひとりごちる。
 
「確かに延王は、いくら情に訴えたって動かされる御仁じゃないよね」

 風漢は低く笑う。利広は無言の肯定を受けて奏の見解を告げた。

「景王は、王のくせに王らしくない。初勅といい、今回のことといい、うちの連中も驚いていたよ」
「──だろうな」

 新たな情報を得て風漢は楽しげに笑う。利広はそんな風漢を軽く睨んで苦言を呈す。

「だから今回、延王は奏に景王をお披露目してくれると思っていたのに」
「なるほど」

 その相槌から風漢の真意を見極めることはできなかった。利広は繰り言を続ける。

「新風を起こす胎果の女王のご尊顔を、是非、拝したかったよ」
「さっき言ったろう。景王は発起人として蓬山に行く必要があったのだと」

 風漢は苦笑する。それは言い訳めいて聞こえた。利広は口許を歪めて訊ねる。

「その必要を感じたのは、誰?」
「──蓬山のヌシ、だろう」

 僅かな間をおいて風漢が答える。やっと見つけた綻びを、利広は笑顔で突いた。

「雁の御仁が、ではないの?」
「何故そう思う?」

 問に問で返すのは答えたくないからだ。そろそろ本音を聞かせてほしい。だから、利広はにやりと笑んで畳みかけた。

「じゃあ、何故、蓬莱に行くのは彼女じゃないの?」
「──時期尚早だ」

 視線を落とし、風漢は深い溜息をつく。景王陽子がこちらに来てまだ数年というところか。風漢の本音を悟り、利広は唇を緩めた。

「なるほどね」

 空の酒杯に酒を注ぎつつ利広は続ける。

「──その口で、彼女に天啓だとか吹いたわけだ」
「吹いたわけではないぞ」

 肩眉を上げ、風漢は即答する。いつもの余裕を少し崩した様は存外に可愛らしい。

「天意を信じていないなら、同じことだよ」

 笑みを零しながら利広は己の杯にも酒を注ぐ。そして、その酒を飲みながら風漢を睨めつけた。

「まだ、腹に一物ありそうだねえ。いったい、何を隠しているの?」
「お前に言われたくないな」

 風漢は意味深長な言葉を吐く。利広の胸に鮮烈な笑顔が浮かんだ。紅の僥倖は、忘れ得ぬ出来事だ。だからこそ、泡沫の夢のようなひと時を利広が口にすることはないだろう。そして、この男もまた――。

「私は、何も隠してなんかいないよ。ただ──」

 一拍の間を置いて、利広は声を落とす。

「秘密は、秘密のままにしておいた方がいいよ」
「──お互いさまだろう」

 僅かに眼を瞠り、風漢は口角を吊り上げる。不敵な笑みに、利広は肩を竦めた。これ以上この男と話すことはない。利広は片手を挙げて堂室を出た。

 あちらに流された麒麟とこちらに縛られる王。利広は深い溜息をつく。

 二度と戻れぬはずの故郷を、胎果の王は恋うているのだろうか。時期尚早と言った風漢は、己も望郷を呑みこんでいるのだろうか。

 利広はゆっくりと首を振る。胎果の気持ちなど利広に分かるはずもない。感傷はここまでだ。己に課せられた役目をこなそう。利広はそう思い、家族が待つ場所へと戻っていった。

2020.10.04.
後書き
user_com.png 未生(管理人) time.png 2020/10/04(Sun) 16:17 No.79
 拙作長編「黄昏」第29回57章~第30回59章の利広視点になります。
 通常祭には自分設定盛り盛りの作品は出さないようにしておりますが、周年祭だし、まいっかというノリで出してしまいます。
 楽しく苦しい一作でございました。このお二方は私のイチオシとニオシなのですが、どちらも口が重くて書きにくいのでございます。なかなか黒いお話で私好みでございます。皆さまにもお楽しみいただけると嬉しいのですが……。
  
 さてさて投稿最終日でございます。書き残し描き残しはございませんか? あなたの素敵な尚隆をお待ち申し上げております。管理人とともに最後まで足掻きましょう(笑)。
 
500年と600年の重み
user_com.png mina time.png 2020/10/04(Sun) 21:48 Home No.88
「世界が変わるぞ」
の一言に込められた、年月を積み重ねた彼らにだけわかる、変化の重みに震えます。
二人ともすごくいい男なのに、腹の探り合いと、言語外の高度な情報戦に、タヌキとムジナの化かし合いっぽいものも感じるのはなぜでしょうか。笑
丁々発止
user_com.png senju time.png 2020/10/04(Sun) 22:42 No.91
うわぁ。この場に居なくて、オレほんとよかったby六太。って聞こえてきそうです。未生様、コワいですよこのお二方(誉め言葉。
さすが500年と600年の妖怪、もとい王と公子サマ。立場が言わせる言葉と、それと裏腹の硬い殻の奥に秘めた柔らかさがとても魅力的です。この殿は、一生面名で生真面目でそれでもまだ年齢なりの青さや危うさを持つ陽子さんを、大きな掌で守ろうとしているようでとても素敵です。
お疲れ様です
user_com.png ネム time.png 2020/10/04(Sun) 22:53 No.92
 第3弾はこのお二人の会話でしたか。これは本当に難物でしたね。お互い大国を背負っているから、笑いながらシビアな会話をこなしてるし(麒麟は近寄れない?) でも、だからこそ、最後にポロリをこぼした尚隆の言葉と、それを思いやる利広の気持ちがシンと残ります。
 お祭りでカッコ良い帰山コンビを拝めてうれしいです。本当にお疲れさまでした ^^
そのころ景麒は
user_com.png 饒筆 time.png 2020/10/04(Sun) 23:23 Home No.96
おお……イケメン狸お二人の、何気ないようで鋭く重い会話、さすがの老獪っぷりですね!こういう一面もお持ちなのがカッコイイ!
きっと胎果の尚隆より、生粋の常世人である宗王ご一家の方が「(常世の)常識」に無意識に囚われているんだろうなあとは思いますねえ~
変化を厭う方々ではないので、「若い皆さんが頑張っておられるようなので助力は惜しまないよ」とニコニコされておられるでしょうけど。
そして拝読後、何故か私の脳裏には、同時刻、宗麟にやんわりと諭されている景麒が浮かびました。そっちの会話も地味に厳しそうだな??(笑)
尚隆祭に相応しい、とてもカッコイイ殿&友情出演のこれまたイケメンな太子をありがとうございました!
帰山コンビ!
user_com.png 文茶 time.png 2020/10/04(Sun) 23:55 No.98
 陽子さんの話題になるとわずかな隙ができる尚隆が微笑ましいです。本当に困った奴だ......と思いながらも嬉しそうな表情が滲み出てますものね^ ^
 この男前過ぎる二人の心理戦を知らず息を詰めて読んでいまして、利広さんがお開きにしてくれなかったら酸欠になっていたかもしれません、ふぅ。ε-(´∀`; )
 未生さまが書かれる帰山コンビの重くもテンポの良い掛け合いが好きなので、お祭で見られて嬉しいです〜。ありがとうございました!
ご感想御礼
user_com.png 未生(管理人) time.png 2020/10/06(Tue) 00:50 No.117
 皆さま、捏造過多な拙作にご感想をありがとうございます!
 
minaさん>
 永い歳月を施政者として生きたお二方を表現できていたなら大変嬉しゅうございます。
 タヌキとムジナでございますか! 同感でございます。タヌキとキツネかなとも思いますが(笑)。
 
senjuさん>
 いやあ、ほんとこの場にはいたくないと私も思います。
 風漢と風来坊ではなく延王と太子の非公式会談でございますからね~。腹の探り合いが怖い怖い。
 かの方の愛を感じていただけて嬉しゅうございました。
 
ネムさん>
 はい、ほんと難儀なお二方でございました。書いていて楽しいのですが、進みが遅くて苦しいという……。
 いつもの邂逅での軽口とは違う非公式対談情報戦でございます。チラ見せしつつどれだけ相手から情報を引き出すか。
 恰好お糸のお褒めの言葉、嬉しゅうございます。ねぎらいもありがとうございました~。
 
饒筆さん>
 こうなるから普段はこの手の会話を避けているのではないかと。
 奏の皆さまは雁で慣れているかもですが、輪をかけていそうな慶に興味津々であろうとの私の妄想でございます。それこそ、六百年残るからには柔軟なのでしょう。
 おお、宗麟に諭される景麒! 見てみたいものでございます! 妄想を増長させるご感想をありがとうございました!
 
文茶さん>
 かの方は黄昏での陽子主上の揺れに多少影響されていたのではないか、という妄想でございました。かの方のすきを微笑ましくお見守りくださりありがとうございます。おお、酸欠にさせてしまっては大変でございます。文茶さんがご無事でよかった~。
 重めのきざん、お気に召していただけて嬉しゅうございます!
 
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