(開催期間 2020.09.01.~10.05.)
お祭は終了いたしました。ありがとうございました!
当サイト内の文章・画像等の無断保存・転載はご遠慮くださいませ。
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お祝いの花輪を贈ります
未生さま、お祝いの花輪を持参しました!
恐ろしい台風が接近しておりますが、当地ではどうにも秋を感じることができないので、夏の終わりの一幕です。
泰麒を迎えるための延王の一時蓬莱帰還、あれが後日じわじわと心境の変化を起こしたりしないかな~という妄想です。あ、今回はちょっと落ち込んだくらいなので深刻ではありません。
ちなみに、拙宅の尚陽は「体育会系王様部の大先輩&入部したての後輩」という雰囲気でして、そこはかとなく漂う微妙な空気を察知してニヤニヤしていただければと思います。
改めまして、15周年おめでとうございます!
登場人物 朱衡・尚隆・六太・陽子
カップリング 尚陽未満
作品傾向 普段勇ましい二人がアンニュイなのもまた良し
文字数 3637文字
夕凪
真っ平に凪いだ海を、残照が朱に染める。
さざ波の煌めきは、一日が平穏に終わるのを寿ぐように瞬く。
北東の大国そして幽玄の宮を統べる名君は、わざわざ寂れた裏手の石崖に胡坐をかき、そんな夕凪の雲海に向き合い――釣り糸を垂れていた。(寄せて砕ける波ざっぱーん!)
「主上」
朱衡はこめかみを引き攣らせ、主君の背に刺々しい声をかける。
「我が君におかれましては、本日も日がな一日そちらで魚釣りをたしなまれておいででしたが……釣果はございましたか?」
もちろん嫌味である。
しかし残念。
「阿呆。釣れる訳があるか」
嫌味の通じる相手ではなかった。朱衡は痛む額を押さえる。
「それがおわかりなら、何故釣りなどなさるのです」
「そこに海があるからだ」(ざっぱーん!)
理由になっていない。しかも、始終ふてくされて朱衡を振り返りもしない。
――駄目ですね、これは。
何が主君の機嫌を損ねたのかはわからないが、この御仁はこうなったらテコでも動かないことはよくよく知っている。
ああ。今。
――帷湍がいてくれたら。
朱衡が隣国の台輔並みに大きな嘆息を零したとき、ぽんと彼の肩を叩く者がいた。
振り返れば、数日前から出奔していた当国の不良台輔がいる。
「悪い。待たせたな」(ニカッ☆)
「……」(半眼)
気紛れに出かけていきなり帰還した上司に爽やかに労われ、朱衡は苛立ちを露わにした。
「どちらにおいでだったのです?!」
「助っ人を連れて来た」
「助っ人?!」
「あ……えっと、お邪魔しています……」
不覚。ここにきてやっと台輔の斜め後ろに控える紅髪の女王を認め、朱衡は急ぎ居ずまいを正した。
「これは景王殿、ようこそおいで下さいました。どうか無礼をご寛恕ください」(恭しく拱手)
「いえ、私も先触れなしであがりこんですみません」
謙虚な女王は飾らない笑顔で許し、サッと螺鈿の重箱を差し出す。
「先日の泰麒捜索では大変お世話になりました――あの、これ、つまらないものですが、慶国の良質の茶葉を練り込んだお菓子ですのでどうぞ召し上がってください」(にこっ)
「は。こちらこそ、いつもありがとうございます」
朱衡はやや困惑しつつも有難く押しいただく――この、決してつまらなくないのに「つまらない」ものを必ず持参しなければならないという蓬莱の「手土産」の習慣にはなかなか慣れそうにない。
他方、延麒は二人が挨拶を終えるのを見届けるや否や、片手をあげた。
「じゃ。そういうことで。よろしく頼むわ陽子」
どこまでも気軽・身軽な台輔は助っ人に一任して去るつもりらしい。
「え。六太くんは?」
案の定、景女王は目を丸くして戸惑う。
こんな軽装だし、おそらくたいした説明も無く連れ去られたのだろうな、と朱衡は同情した。
が。
「……ごめんな。今回は俺じゃ役に立たないんだ」
朗らかで――同時に哀しげな笑みを向けられれば、二人ともそれ以上何も言えなくなってしまうのだった。(善い人たちだなあ)
◇◆◇◆◇
さて。
ひらひら手を振って去る六太となにやら労しげな微笑を浮かべる朱衡を見送り、陽子はくるりと踵を翻した。
煌めく夕凪の海に対峙する広い背中には、黒々とした影が貼り付いている。
正直、声はかけづらい。
――さっきのやりとりは丸聞こえだったよね……。
すぐそこに居たし、そりゃあね。
しかしここで怯んでいては王が廃る。六太くんの懇願を聞き入れた以上、何もせずには戻れない。
陽子は静かに息を吸い、まるで何事も無かったように傍寄った。
「お久しぶりです」
延王は首だけを捻り、じろりと陽子を見上げる。
「陽子。おまえはこんなところで油を売る暇など無いはずだ」
「それはそうです」
陽子は素直に首肯する。どうせ自分は面白みも無く馬鹿正直なのが取り柄なのだ。
それでも最近は、度胸と厚顔という武器も身についてきた。
「けれど貴方が弱っていると聞けば、来ない訳にはいきません」(ズバッ)
「誰が弱ってなど――」
「郷愁が振り払えないんじゃないか、って六太くんは心配していましたよ。ずっと海ばかり見ている、と」
陽子は尚隆の隣に腰を下ろす。そして、まっすぐにその双眸を見据えた。
「貴方ほど長命な王でも、未だ望郷の念に蝕まれたりするのですか」
雑念の無い白刃のような問いを、尚隆は乾いた笑いでいなす。
「莫迦な。今更、帰りたいなどと思うものか」
「でも」
陽子は食い下がる。
「泰麒を迎えるためにあちらへ渡ってから、様子がおかしくなったと聞きました」
「気にしすぎだろう」
のらりくらりとかわされても、陽子は一歩も退かない。
「私は、今は蓬莱のことを考えないようにしています。まだ記憶も感情も生々しすぎて、何か悪しき思いに囚われそうで……でも、いつかは向き合わなければなりません。実は、以前から貴方に伺いたかったんです。気持ちの整理をどのようにつけたのかを」
後学のために。陽子は真剣だ。
「気持ちの整理か」
尚隆はかるく鼻を鳴らし、釣り竿を置く。
「そんなもの、しようとするだけ無駄だ。せいぜい飼い殺すのが精いっぱいだぞ」
「そうなんですか」
眉根を寄せる陽子を眺め、尚隆は身体ごと向き直った。
「わかった。陽子には語ってみよう」
「はい。お願いします」
教えを受ける気分で、陽子も背筋を伸ばす。(気分は正座)
「そもそも俺は居所を失ってこちらへ渡った。あちらに帰る場所など無い。それでも蓬莱は生まれ育った郷里だから、どこかで期待していたのだろうな――今でも尚断ち切れぬ繋がりがあるかもしれん、俺一人くらい受け容れる度量があるかもしれんと」
尚隆はここで一旦切り、水平線の向こうへ消えゆく光を眺めた。
「だが、改めて見えた蓬莱は冷たい顔をした、まったく見知らぬ土地だった。俺を拒絶しているように感じた」
陽子がちいさく息を呑む。
尚隆は横を向いたまま、空の果てを見透かすように目を細める。
「それで悟った。蓬莱にとって、俺はあくまで異邦人なのだろう。たとえあそこに戻れても、俺はまた爪弾きに遭い、上手く生きられないのだろうな」
風向きが変わった。見開いた翠瞳に、紅い前髪がなびいてかかる。
「結局、俺の国はここだ。俺には雁しかない――ならば、あの蓬莱での日々は何だったのだろうな。……そんなことを考えていただけだ」
あくまで異邦人。上手く生きられない。何だったのだろうな。
尚隆の一言ひとことが、陽子にも突き刺さる。
陽子は我知らず胸を押さえ、尚隆を見つめた。その視線を感じ、尚隆も陽子へ目を向ける。
「どうした、その顔は」
「……わかります」
「なにが?」
「何だったのだろうなっていうのは、よくわかります」
陽子は口角をグッと下げ、緩む涙腺を締めあげた。
「私もそうです。本当に、私は何をやってきたんでしょう……」
自ずと項垂れる紅髪の頭を、大きな手がくしゃりと撫でた。はは、と乾いた笑いを洩らすのは陽子の番だった。
「すみません。慰めにきたつもりが、慰めてもらっていますねコレ」
情けない自嘲を、尚隆は笑わなかった。
「いや。俺の方こそすまん。巻き込んでしまったな」
気遣わしげな口調に、かえって申し訳なくなる。
頭から離れた手が陽子を元気づけるように肩を抱き、そのまま温かな胸へ抱き寄せた。陽子は為されるがまま、尚隆の腕の中に収まった。
話を続けるのがひどく億劫だったから、言葉より態度で支えてくれる方が有難かった。
それからしばし、二人はひと言も口にせず、ただ寄り添っていた。
背や頬に吹きつける涼しい陸風。夜を迎え、深い藍色に染まってゆく雲海。そこかしこで点り始める灯籠。ありふれた宵の始まりを、陽子はただ唇を噛んで眺める。
――このひとは、こんな気持ちを五百年も飼い殺してきたのか。
見上げた胆力だ。空恐ろしくさえある。私にそんなことができるだろうか。
――改めて凄いひとだ……。
ふと、尚隆が顔を寄せてきたことに気づいた。
頭の上から、やけに甘い声が降る。
「……陽子は懐かしい潮の香りがするな」
は? 陽子は首を捻る。
「それはここ、雲海だからでしょう??」(きょとん)
尚隆が吹き出した。顔をあげ、声をあげて笑う。
「確かに。違いないな」(はっはっは)
「???」
依然抱き寄せられたままなので、陽子は上目遣いで尚隆の顔を窺った。
どうやら延王の機嫌は直ったらしい。であれば、六太くんの依頼は果たしたことになるが……どうして元気を取り戻したのだろう?私、何もしていないよ?
それに――陽子は目線を我が身に向ける。
自分もまた、抱き締められているこの状況に奇妙な安らぎを感じているのが不思議だった。あれほど荒れ狂っていた自責の念がいつの間にか落ち着き、なぜかちょっぴり満たされた感じすらある。
え。なんだこれ……どうした私。名君効果?それとも、お父さんに甘えている感覚?いや、私お父さんに甘えたことなんかないよ??
……まさか。もしかして、これって。
意識しだすと落ち着かない。い、今だけだよ気にしすぎだよ、うん。
どうしようもなく上気する頬に、陽子は我ながら困惑するのだった。(がんばれ乙女)
<ところで、いつまで抱いている気ですか殿・了>
真っ平に凪いだ海を、残照が朱に染める。
さざ波の煌めきは、一日が平穏に終わるのを寿ぐように瞬く。
北東の大国そして幽玄の宮を統べる名君は、わざわざ寂れた裏手の石崖に胡坐をかき、そんな夕凪の雲海に向き合い――釣り糸を垂れていた。(寄せて砕ける波ざっぱーん!)
「主上」
朱衡はこめかみを引き攣らせ、主君の背に刺々しい声をかける。
「我が君におかれましては、本日も日がな一日そちらで魚釣りをたしなまれておいででしたが……釣果はございましたか?」
もちろん嫌味である。
しかし残念。
「阿呆。釣れる訳があるか」
嫌味の通じる相手ではなかった。朱衡は痛む額を押さえる。
「それがおわかりなら、何故釣りなどなさるのです」
「そこに海があるからだ」(ざっぱーん!)
理由になっていない。しかも、始終ふてくされて朱衡を振り返りもしない。
――駄目ですね、これは。
何が主君の機嫌を損ねたのかはわからないが、この御仁はこうなったらテコでも動かないことはよくよく知っている。
ああ。今。
――帷湍がいてくれたら。
朱衡が隣国の台輔並みに大きな嘆息を零したとき、ぽんと彼の肩を叩く者がいた。
振り返れば、数日前から出奔していた当国の不良台輔がいる。
「悪い。待たせたな」(ニカッ☆)
「……」(半眼)
気紛れに出かけていきなり帰還した上司に爽やかに労われ、朱衡は苛立ちを露わにした。
「どちらにおいでだったのです?!」
「助っ人を連れて来た」
「助っ人?!」
「あ……えっと、お邪魔しています……」
不覚。ここにきてやっと台輔の斜め後ろに控える紅髪の女王を認め、朱衡は急ぎ居ずまいを正した。
「これは景王殿、ようこそおいで下さいました。どうか無礼をご寛恕ください」(恭しく拱手)
「いえ、私も先触れなしであがりこんですみません」
謙虚な女王は飾らない笑顔で許し、サッと螺鈿の重箱を差し出す。
「先日の泰麒捜索では大変お世話になりました――あの、これ、つまらないものですが、慶国の良質の茶葉を練り込んだお菓子ですのでどうぞ召し上がってください」(にこっ)
「は。こちらこそ、いつもありがとうございます」
朱衡はやや困惑しつつも有難く押しいただく――この、決してつまらなくないのに「つまらない」ものを必ず持参しなければならないという蓬莱の「手土産」の習慣にはなかなか慣れそうにない。
他方、延麒は二人が挨拶を終えるのを見届けるや否や、片手をあげた。
「じゃ。そういうことで。よろしく頼むわ陽子」
どこまでも気軽・身軽な台輔は助っ人に一任して去るつもりらしい。
「え。六太くんは?」
案の定、景女王は目を丸くして戸惑う。
こんな軽装だし、おそらくたいした説明も無く連れ去られたのだろうな、と朱衡は同情した。
が。
「……ごめんな。今回は俺じゃ役に立たないんだ」
朗らかで――同時に哀しげな笑みを向けられれば、二人ともそれ以上何も言えなくなってしまうのだった。(善い人たちだなあ)
◇◆◇◆◇
さて。
ひらひら手を振って去る六太となにやら労しげな微笑を浮かべる朱衡を見送り、陽子はくるりと踵を翻した。
煌めく夕凪の海に対峙する広い背中には、黒々とした影が貼り付いている。
正直、声はかけづらい。
――さっきのやりとりは丸聞こえだったよね……。
すぐそこに居たし、そりゃあね。
しかしここで怯んでいては王が廃る。六太くんの懇願を聞き入れた以上、何もせずには戻れない。
陽子は静かに息を吸い、まるで何事も無かったように傍寄った。
「お久しぶりです」
延王は首だけを捻り、じろりと陽子を見上げる。
「陽子。おまえはこんなところで油を売る暇など無いはずだ」
「それはそうです」
陽子は素直に首肯する。どうせ自分は面白みも無く馬鹿正直なのが取り柄なのだ。
それでも最近は、度胸と厚顔という武器も身についてきた。
「けれど貴方が弱っていると聞けば、来ない訳にはいきません」(ズバッ)
「誰が弱ってなど――」
「郷愁が振り払えないんじゃないか、って六太くんは心配していましたよ。ずっと海ばかり見ている、と」
陽子は尚隆の隣に腰を下ろす。そして、まっすぐにその双眸を見据えた。
「貴方ほど長命な王でも、未だ望郷の念に蝕まれたりするのですか」
雑念の無い白刃のような問いを、尚隆は乾いた笑いでいなす。
「莫迦な。今更、帰りたいなどと思うものか」
「でも」
陽子は食い下がる。
「泰麒を迎えるためにあちらへ渡ってから、様子がおかしくなったと聞きました」
「気にしすぎだろう」
のらりくらりとかわされても、陽子は一歩も退かない。
「私は、今は蓬莱のことを考えないようにしています。まだ記憶も感情も生々しすぎて、何か悪しき思いに囚われそうで……でも、いつかは向き合わなければなりません。実は、以前から貴方に伺いたかったんです。気持ちの整理をどのようにつけたのかを」
後学のために。陽子は真剣だ。
「気持ちの整理か」
尚隆はかるく鼻を鳴らし、釣り竿を置く。
「そんなもの、しようとするだけ無駄だ。せいぜい飼い殺すのが精いっぱいだぞ」
「そうなんですか」
眉根を寄せる陽子を眺め、尚隆は身体ごと向き直った。
「わかった。陽子には語ってみよう」
「はい。お願いします」
教えを受ける気分で、陽子も背筋を伸ばす。(気分は正座)
「そもそも俺は居所を失ってこちらへ渡った。あちらに帰る場所など無い。それでも蓬莱は生まれ育った郷里だから、どこかで期待していたのだろうな――今でも尚断ち切れぬ繋がりがあるかもしれん、俺一人くらい受け容れる度量があるかもしれんと」
尚隆はここで一旦切り、水平線の向こうへ消えゆく光を眺めた。
「だが、改めて見えた蓬莱は冷たい顔をした、まったく見知らぬ土地だった。俺を拒絶しているように感じた」
陽子がちいさく息を呑む。
尚隆は横を向いたまま、空の果てを見透かすように目を細める。
「それで悟った。蓬莱にとって、俺はあくまで異邦人なのだろう。たとえあそこに戻れても、俺はまた爪弾きに遭い、上手く生きられないのだろうな」
風向きが変わった。見開いた翠瞳に、紅い前髪がなびいてかかる。
「結局、俺の国はここだ。俺には雁しかない――ならば、あの蓬莱での日々は何だったのだろうな。……そんなことを考えていただけだ」
あくまで異邦人。上手く生きられない。何だったのだろうな。
尚隆の一言ひとことが、陽子にも突き刺さる。
陽子は我知らず胸を押さえ、尚隆を見つめた。その視線を感じ、尚隆も陽子へ目を向ける。
「どうした、その顔は」
「……わかります」
「なにが?」
「何だったのだろうなっていうのは、よくわかります」
陽子は口角をグッと下げ、緩む涙腺を締めあげた。
「私もそうです。本当に、私は何をやってきたんでしょう……」
自ずと項垂れる紅髪の頭を、大きな手がくしゃりと撫でた。はは、と乾いた笑いを洩らすのは陽子の番だった。
「すみません。慰めにきたつもりが、慰めてもらっていますねコレ」
情けない自嘲を、尚隆は笑わなかった。
「いや。俺の方こそすまん。巻き込んでしまったな」
気遣わしげな口調に、かえって申し訳なくなる。
頭から離れた手が陽子を元気づけるように肩を抱き、そのまま温かな胸へ抱き寄せた。陽子は為されるがまま、尚隆の腕の中に収まった。
話を続けるのがひどく億劫だったから、言葉より態度で支えてくれる方が有難かった。
それからしばし、二人はひと言も口にせず、ただ寄り添っていた。
背や頬に吹きつける涼しい陸風。夜を迎え、深い藍色に染まってゆく雲海。そこかしこで点り始める灯籠。ありふれた宵の始まりを、陽子はただ唇を噛んで眺める。
――このひとは、こんな気持ちを五百年も飼い殺してきたのか。
見上げた胆力だ。空恐ろしくさえある。私にそんなことができるだろうか。
――改めて凄いひとだ……。
ふと、尚隆が顔を寄せてきたことに気づいた。
頭の上から、やけに甘い声が降る。
「……陽子は懐かしい潮の香りがするな」
は? 陽子は首を捻る。
「それはここ、雲海だからでしょう??」(きょとん)
尚隆が吹き出した。顔をあげ、声をあげて笑う。
「確かに。違いないな」(はっはっは)
「???」
依然抱き寄せられたままなので、陽子は上目遣いで尚隆の顔を窺った。
どうやら延王の機嫌は直ったらしい。であれば、六太くんの依頼は果たしたことになるが……どうして元気を取り戻したのだろう?私、何もしていないよ?
それに――陽子は目線を我が身に向ける。
自分もまた、抱き締められているこの状況に奇妙な安らぎを感じているのが不思議だった。あれほど荒れ狂っていた自責の念がいつの間にか落ち着き、なぜかちょっぴり満たされた感じすらある。
え。なんだこれ……どうした私。名君効果?それとも、お父さんに甘えている感覚?いや、私お父さんに甘えたことなんかないよ??
……まさか。もしかして、これって。
意識しだすと落ち着かない。い、今だけだよ気にしすぎだよ、うん。
どうしようもなく上気する頬に、陽子は我ながら困惑するのだった。(がんばれ乙女)
<ところで、いつまで抱いている気ですか殿・了>
六太が引っ剥がしに来るまで
senju
2020/09/05(Sat) 12:10 No.26


饒筆さま
おひさしぶりでございます。そしてまたハートを射抜いてくださってありがとうございます。
いつまで?それはもちろん、六太が陽子さんを救出に来るまでだろうと思っております。
が、ワタクシは殿思いの下女ですので、救出に向かう六太にあれこれと妨害工作を仕掛ける所存です(笑。
おひさしぶりでございます。そしてまたハートを射抜いてくださってありがとうございます。
いつまで?それはもちろん、六太が陽子さんを救出に来るまでだろうと思っております。
が、ワタクシは殿思いの下女ですので、救出に向かう六太にあれこれと妨害工作を仕掛ける所存です(笑。
ありがとうございます!
未生(管理人)
2020/09/05(Sat) 15:45 No.27


さすが饒筆さん仕事が早い! 素敵な花輪をありがとうございます~。
黄昏後だけにたそがれたかの方がなんだかいじらしく思えます。あちらに弾かれる異物感、やはり理解できるのは陽子主上だけなんでしょうね……。
うんうん、しばらくそのままでいてあげてください。私も人払いを続けますから(笑)。
senjuさん、先レスありがとうございました~。
黄昏後だけにたそがれたかの方がなんだかいじらしく思えます。あちらに弾かれる異物感、やはり理解できるのは陽子主上だけなんでしょうね……。
うんうん、しばらくそのままでいてあげてください。私も人払いを続けますから(笑)。
senjuさん、先レスありがとうございました~。
戦士の休息
蝕で卵果が流れることはそれ程多くは無いと思うし、ましてや12人しかいない王が胎果である確率はどれ程のものなのか…。そう考えると、胎果が王に選ばれるのは、外の世界を経験したからこそと思うのだけれど、当人達にとっては切ない想いがいつまでも残るのでしょうね。
王としてまた戦いの日々を迎える前の束の間、寄り添って安らいでください。
と言うことで、未生さーん、senjuさーん、私もお手伝いしまーす!
王としてまた戦いの日々を迎える前の束の間、寄り添って安らいでください。
と言うことで、未生さーん、senjuさーん、私もお手伝いしまーす!
素晴らしきかな
文茶
2020/09/06(Sun) 00:08 No.35


饒筆さま、お久しぶりです〜!
陽子さんの鈍感力は世を救う。(え!?) 陽子さんて本気でボケかまして周りの固い空気を砕くタイプですよねきっと。(本人に言うと怒られそうだけど 笑) そしてもうこんな風にきょとんとされたら笑うしかないし、可愛過ぎて尚隆じゃなくても抱き締めてしまいますよ〜♡
じんわりほっこりなお二人をありがとうございました!
という訳で!?皆様方、私も加勢いたしますわ!
陽子さんの鈍感力は世を救う。(え!?) 陽子さんて本気でボケかまして周りの固い空気を砕くタイプですよねきっと。(本人に言うと怒られそうだけど 笑) そしてもうこんな風にきょとんとされたら笑うしかないし、可愛過ぎて尚隆じゃなくても抱き締めてしまいますよ〜♡
じんわりほっこりなお二人をありがとうございました!
という訳で!?皆様方、私も加勢いたしますわ!
大きな花輪
饒筆さん、お久しぶりです。
先にsenjuさんの殿を目にし、それから饒筆さんの作品を拝読した次第です。もう納得納得、一人ウンウンとうなずいております。
お祝の花輪はsenjuさんの殿を釣り上げた(失礼!)大きな大きな花輪でしたね!
先にsenjuさんの殿を目にし、それから饒筆さんの作品を拝読した次第です。もう納得納得、一人ウンウンとうなずいております。
お祝の花輪はsenjuさんの殿を釣り上げた(失礼!)大きな大きな花輪でしたね!
嬉しいコメントをありがとうございます
饒筆
2020/09/09(Wed) 23:00 No.41


>senjuさま
お久しぶりです~そして素敵なしょんぼり殿を披露してくださってありがとうございます!
たまにはやさぐれたり肩を落としていたりしていても愛しいですよね(うふふ♪)
六太くんにはぜひ山盛りのお菓子をプレゼントして足止めしてあげてください。喜んで足を止めそう(笑)。その間、陽子さんは頑張って殿を癒して差し上げて~。
嬉しいコメント&連鎖妄想をありがとうございました♪
>未生さま
喜んでいただけて良かったです~!
「命を張って頑張ったけれど力及ばなかった」殿と「自覚が無くて頑張り切れなかった」陽子さんでは悔恨や未練の内容が違うと思うのですが、やりきれなさ・切なさは共感できるでしょうから、こういう時は支えあえるかな~と思って書いてみました。
日が沈んでから月が出るまで、二人っきりで風に吹かれている……なんてロマンティックですよね!たぶん陽子さんのお腹がグウと鳴るタイミングで終了です(笑)
人払いへの参戦、ありがとうございます(あはは)
>ネムさま
そうですよね、第三者から見れば「蓬莱での苦難に遭ったからこそ」と思いますが、当人は割り切れませんよね……
また逆に、常世での王様の贔屓されっぷりを経験した後だと、「小松の民が全滅したのは、俺が異邦人だったせいであちらの天に見放されたからだろうか」とか、「もしや自分があそこへ流れ着いたから、滅亡の宿命を呼んだのだろうか」とか悪い方向へ考えてしまうかもしれません。「考えても詮無いことだ」とか言いながらも、結構落ち込んでいそうだな~と思った次第です。
それにしても「戦士の休息」とは言い得て妙ですね!王様業は激務ですもの、たまにはお互いに甘やかしあいをしてもいいんじゃないかな。
おお、六太くんが皆さまに囲まれていますね!お手伝いありがとうございます(笑)
>文茶さま
こちらこそお久しぶりです!
そうそう、キョトン顔が可愛すぎて「もういい陽子。おまえはそのままでいろ(生温かい目)」となっている尚隆氏です。かーわーいーいー♪
おお、ついに六太くんは両手両足に華ですね(笑)
楽しいコメントをありがとうございます~!
>ひめさま
お久しぶりです、ひめさま。
ええ、エビで鯛を釣るとはこのこと……senjuさまのしょんぼりの殿を思い浮かべると、なんだか尚隆の愛おしさ(いじらしさ?)が倍増しますね。
拙い花輪を楽しんでいただけて良かったです~。
お久しぶりです~そして素敵なしょんぼり殿を披露してくださってありがとうございます!
たまにはやさぐれたり肩を落としていたりしていても愛しいですよね(うふふ♪)
六太くんにはぜひ山盛りのお菓子をプレゼントして足止めしてあげてください。喜んで足を止めそう(笑)。その間、陽子さんは頑張って殿を癒して差し上げて~。
嬉しいコメント&連鎖妄想をありがとうございました♪
>未生さま
喜んでいただけて良かったです~!
「命を張って頑張ったけれど力及ばなかった」殿と「自覚が無くて頑張り切れなかった」陽子さんでは悔恨や未練の内容が違うと思うのですが、やりきれなさ・切なさは共感できるでしょうから、こういう時は支えあえるかな~と思って書いてみました。
日が沈んでから月が出るまで、二人っきりで風に吹かれている……なんてロマンティックですよね!たぶん陽子さんのお腹がグウと鳴るタイミングで終了です(笑)
人払いへの参戦、ありがとうございます(あはは)
>ネムさま
そうですよね、第三者から見れば「蓬莱での苦難に遭ったからこそ」と思いますが、当人は割り切れませんよね……
また逆に、常世での王様の贔屓されっぷりを経験した後だと、「小松の民が全滅したのは、俺が異邦人だったせいであちらの天に見放されたからだろうか」とか、「もしや自分があそこへ流れ着いたから、滅亡の宿命を呼んだのだろうか」とか悪い方向へ考えてしまうかもしれません。「考えても詮無いことだ」とか言いながらも、結構落ち込んでいそうだな~と思った次第です。
それにしても「戦士の休息」とは言い得て妙ですね!王様業は激務ですもの、たまにはお互いに甘やかしあいをしてもいいんじゃないかな。
おお、六太くんが皆さまに囲まれていますね!お手伝いありがとうございます(笑)
>文茶さま
こちらこそお久しぶりです!
そうそう、キョトン顔が可愛すぎて「もういい陽子。おまえはそのままでいろ(生温かい目)」となっている尚隆氏です。かーわーいーいー♪
おお、ついに六太くんは両手両足に華ですね(笑)
楽しいコメントをありがとうございます~!
>ひめさま
お久しぶりです、ひめさま。
ええ、エビで鯛を釣るとはこのこと……senjuさまのしょんぼりの殿を思い浮かべると、なんだか尚隆の愛おしさ(いじらしさ?)が倍増しますね。
拙い花輪を楽しんでいただけて良かったです~。
尚、このお祭は個人の運営するもので、公的なものとは一切無関係でございます。
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