「管理人作品」 「夢幻夜想」 「玄関」 

現れた昏闇@2周年記念リク第3弾

2007/09/03(Mon) 15:13 No.16
 暗い第3弾でございます。バカバカしいものを書いた反動でしょうか?  それとも、暗いものを書いたから、バカバカしいものに走ったのでしょうか?  かなり暗いです。末声寸前の暗さでございます。苦手な方はご注意を。

※ 管理人作品は全て尚陽前提でございます。

現れた昏闇

2007/09/03(Mon) 15:20 No.17
 暗い雲海の下から、堯天の灯りが透けて見えていた。繁栄を謳歌する誇らしげな光が。

 延王尚隆は慶東国国主景王が住まう金波宮の露台に騎獣を降ろす。慣れた足取りで露台を進み、大きな窓をそっと開けた。微かな音に気づいた美貌の女王が微笑む頃には、尚隆はその華奢な身体を抱きしめていた。
 苦笑を浮かべる朱唇に口づけを落とし、伴侶を抱き上げる。そのまま臥室に向かい、しなやかな身体を熱く抱いた。
 甘い溜息を落とし、伴侶は尚隆の腕で眠りに就く。いつもの如く、何も訊かずに尚隆を受け入れる伴侶の麗しき寝顔をじっと眺めた。
 気紛れに訪れる尚隆を、微笑んで迎える伴侶。何も問わず、不平を言わず、悋気も見せぬ伴侶。何度抱いても、己がものになりきらぬ、隣国の王である女──。
 安らかに眠る伴侶の首に、手を伸ばした。尚隆の片手に充分収まる細い首に。そして、少しずつ、少しずつ、力を籠めていく。美しい顔が、苦しげに歪む。やがて、伴侶はうっすらと目を開ける。その翠玉の瞳に、狂気に満ちた己の顔が映っていた。それなのに。
 伴侶は、幸せそうに微笑み、身体の力を抜いた。

 何故──抵抗しない……。

 尚隆は瞠目し、思わず手の力を緩めた。瞳に涙を滲ませた伴侶が小さく咳き込む。それでも、伴侶は笑みを湛え、尚隆を引き寄せ、己の胸に抱きこんだ。

 何故、咎めない? 何故、受け入れる?

 胸に渦巻く想いを口にすることはできなかった。隣国の女王を手に掛けることは、覿面の罪にあたる。己の国も、伴侶の国も滅ぼしてしまう大罪だというのに。

 それすらも承知の上で、全てを受け入れるのか? それでも、俺の罪を赦すのか──?

 慈愛に満ちた微笑を向ける伴侶を、きつく抱きしめる。その温もりでさえ、腕の震えを止めることはできなかった。小さな手が、優しく背を撫でる。

 もう、これ以上、俺の我儘を許すな。

 そう思いつつ、伴侶の身体を貪った。それすらも、清麗な女王を貶める行為と知りながら。

 輝かしい瞳に、堯天の灯りを見た。この国の民から、女王を奪ってはいけない。例え景王陽子がそれを望もうとも。

 逝くときは、独りで。いつか、独りで逝こう。しかし、今は。

 今はまだ、この愛おしい温もりに溺れていよう──。

2007.09.03.

後書き

2007/09/03(Mon) 15:29 No.18
 ああ、書いちゃったぁ……。
 最近、朝晩、すんごく冷えるんです。そのせいか、頭が秋になったのかもしれません。 けれど、日中はまだそれなりの気温なので、落ち込んではいません〜。
 暗いついでに、陽子視点も書いてしまいました。──もっと暗いかも。 ご興味おありの方は第3弾オマケ「甘い夢」をご覧くださいませ。
 リクエスト、ありがとうございました!

2007.09.03. 速世未生 記

背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
「管理人作品」 「夢幻夜想」 「玄関」