甘い夢
2007/09/03(Mon) 15:20 No.17
今度会えるのは、いつだろう。
そう思いながら、大きな背を見送る。いつも、何も言わずに。何も言えずに。
そして深い溜息をつく。ずっと一緒にいることなど、許されない。そんなことは、初めて結ばれたときから、分かっていた。だからこそ。
突然の訪れが、こんなにも嬉しい。例え、このひとの瞳が、昏い深淵を露にしていたとしても。
抱きしめて、口づけて、その暗闇までも味わって、ひとつに融けあう。それは、至福のとき。ずっと、こうしていたい。そんな、甘い夢を見せてくれる、大切なひととき。
冷たい暗闇が、熱を帯びて陽子を包む。
愛してる。
唇が語らない一言を、腕が、胸が叫ぶ。その声なき声は、伴侶に届いているだろうか──。
そして、いつものように伴侶の腕の中で眠りに就き、いつものように夢を見る。幸せなひとときが、泡と消える、切ない夢を。けれど──。
今宵は違った。伴侶の武骨な指が、陽子の首を絞める。少しずつ、力を籠めていく。これは、夢?
(──楽にしてやろうか? 俺が、この手で)
ほんとうに? あなたが、この苦しみから解き放ってくれるの? 一緒に、堕ちてくれるの──?
それは、暗闇の甘い囁き。暗闇が見せる甘い夢。稀代の名君と称えられる延王尚隆が、そんなことをするはずはない。
苦しさに目を開ける。本気を見せる伴侶が、そこにいた。えもいわれぬ幸せな心地がして、陽子は微笑んだ。
このまま、一緒に逝こう──。
驚愕に目を見開く伴侶は、力を緩める。陽子は小さく咳こんだ。泣きそうな貌で見つめる伴侶を、胸に抱き寄せた。
泣かないで。恥じないで。その暗闇を隠さないで──。
そして陽子はまた大きな体躯を受け止める。愛してる、の言葉だけでは伝えられぬ、昏く、甘く、幸せな想いを籠めて。
いつも、あなたとともに。
それは、決して叶うことのない、甘く切ない夢──。
2007.09.03.
後書き
2007/09/03(Mon) 15:29 No.18
──ある意味、陽子主上も失道寸前ですね。なんて暗いのでしょう!
暗い暗いセット作品ですが、よろしければどうぞ「現れた昏闇」と併せてご覧くださいませ。
2007.09.03. 速世未生 記