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この身を滅ぼすもの@2周年記念リク第6弾

2007/09/07(Fri) 17:29 No.36
 台風が迫っているそうでございます。なんだか蒸し暑くて不気味……。 そのせいではないと思いますが、思っていたのと違うものが先に仕上がってしまいました。

※ 管理人作品は全て尚陽前提でございます。

この身を滅ぼすもの

2007/09/07(Fri) 17:34 No.37
「──お別れにまいりました」

 伴侶は淡い笑みを見せた。延王尚隆は翳りを帯びる翠の双眸をじっと見つめ返す。その瞳に暁の輝きはない。ただ、黄昏の昏さを予期させるのみ。何も言えず、痩せた身体をきつく抱きしめた。

 最後まで足掻け、俺のために。

 そんな、口に出せぬ願いを籠めて。素直に身を預けた伴侶は、微かに呟いた。

 ごめんなさい、と。

 青天の霹靂だった景麒失道の報から、月日が経っていた。傾き始めた国は、あっという間に荒む。立て直そうと腐心する国主を嘲笑うかのように。そして、宰輔の病は、更に篤くなる。
 悩んだ上の結論と知っていた。いつか、こんな日が、くることも、互いに王なればこそ、尚隆も陽子も理解していた。

「──明日、蓬山へまいります」

 伴侶の細い、しかし決然とした声が、耳に谺していた。何度も何度も──。

 景王陽子、禅譲。その後、隣国は、また荒れた。達王が斃れ、景王陽子が立つ前のように。延王尚隆は苦い思いを噛みしめる。

 もう、沢山だ。もう、見たくない。伴侶が作り上げた美しい国が、影も形もなくなる様など──。

(尚隆、もう止めろ……)

 痩せ衰えた六太が、か細い声で懇願する。幾つもの骸が転がっている血塗られた玉座で、延王尚隆は薄く笑った。

 滅王と呼ばれても構わない、と。

 己の凄惨な笑みが、尚隆の背を粟立たせた。目を開けると、腕の中に伴侶がいた。嫌な汗を掻いている。伴侶を喪った己の、あまりにも昏い双眸。今見た悪夢を思い返すと、身が震えた。

 俺を置いて逝くなど、赦さない。

 寝息を立てる伴侶を掻き抱いた。薄く目を開けた伴侶が微笑む。そして、温かな腕で尚隆を抱き返した。

「──ここにいるよ」

 柔らかな声が冷えた身体を包む。何も問わぬ伴侶に身を預け、尚隆は再び目を閉じた。惜しみなく与えられる、確かな温もりに感謝しながら。

2007.09.07.

後書き

2007/09/07(Fri) 17:44 No.38
 夢オチでごめんなさい。 「末期」「解放」を書いてしまったので、 陽子が先に逝く現実というものを書けませんでした。
 もしも、という仮定を想像するだけで、 かの方は見事に「滅王」になってしまいました……。
 Kさま、リクエストありがとうございました! こんなラストでごめんなさいね……。

2007.09.07. 速世未生 記

ご感想ありがとうございました〜 未生(管理人)

2007/09/08(Sat) 06:57 No.40
 リクエスターのKさまから、ありがたいご感想をいただきました。

>この悪夢のおかげで、尚隆が、いっそう陽子に執着してくれたのならよしとしよう!

 夢オチに温かなエールをありがとうございました〜。 実はこのお話もリクをいただいてすぐ、さわりを書き流しました。 そのときは、やっぱりね〜と軽く考えておりました。 今朝、冷静になって読み返すと、かなりずず〜んと胸に堪えました(遅いって……)。 台風があまり悪さをしなかったせいかもしれません。(そっちか!)
 Kさま、早速のご感想をありがとうございました! またお待ちいたしております〜。
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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