故郷よりも@2周年記念リク第10弾
2007/09/19(Wed) 16:47 No.74
次行きましょう。長編に詰まり、中編に詰まり、リクエストに詰まり、拍手を更新した昨日。
今日はなんとかリクを仕上げることができました〜。それでは長編「黄昏」余話いきます!
- 登場人物 鈴・虎嘯・陽子・泰麒
- 作品傾向 シリアス(?)・ほのぼの(?)
- 文字数 839文字
故郷よりも
2007/09/19(Wed) 16:53 No.75
陽子は泰麒を案じていた。未だ目を覚まさない、蓬莱から帰ってきた泰麒を。
無理もない。戴国の麒麟は、陽子と同世代の胎果。しかも、つい最近まで蓬莱で暮らしていたのだから。
泰麒が目を覚ました、と聞いて、陽子は仕事を終わらせてすぐに現れた。そんな陽子を見つめながら、鈴は己が思ったより冷静なことに驚いた。
かつて、あれほど帰りたいと恋うた故郷。けれど、それは辛い現実から逃げたいだけだったのかもしれない。
そう思いながら、鈴は席を外した。西園に出ると、そこには虎嘯が所在なげに立っていた。
「虎嘯、どうしたの?」
「陽子の警護をしていたんだが……人払いをしたいってんで、遠慮した」
「──あたしも同じよ」
心なしか元気のない虎嘯に、鈴は笑みを返した。虎嘯が気後れするわけも分かる。あそこにいるのは王や台輔ばかり。いつも気安く接してくれる陽子が、女王なのだと思い知らされるのだから。
「──陽子は、蓬莱に帰りたいんだろうか」
「分からない。けど、陽子は慶を見捨てて帰ったりしないと思うわ」
やがて、虎嘯はぽつりと呟いた。そんな虎嘯を見上げ、鈴は即答した。しばし黙し、虎嘯は小さく問う。
「──鈴は?」
「あたしは、もう蓬莱に帰りたいとは思わない」
そう、あのとき鈴は、家が貧しくて、年季奉公に売られて東京へ行くところだった。その東京に住んでいた陽子。けれど、陽子が語る東京は、鈴には理解できない世界だった。
「──ほんとうに、か?」
「うん。今の蓬莱は、あたしが知ってる故郷じゃないし」
重ねて問う虎嘯に応えを返しながら、梨耀の許で過ごした頃を感慨深く思い出す。無為な我慢を続けているうちに、百年もの歳月が過ぎていた。陽子の話は、それを鈴の心に刻みこむものだったのだ。
目を上げると、虎嘯が気遣わしげに見つめていた。鈴は晴れやかな笑みを向ける。
「慶には、仲間がいるんだもの」
「そうか」
言って虎嘯は破顔した。
そんな笑顔を見せてくれる虎嘯がいるから、どこにも行かない。
そんな想いを、いつか虎嘯に伝えたい。鈴は心からそう思った。
2007.09.19.
後書き
2007/09/19(Wed) 17:03 No.76
長編「黄昏」余話でございました。
陽子が意識を取り戻した泰麒と面会しているときのお話と想定しております。
己の想いを確認しつつ相手の想いに気づかない鈴。
そして、己の想いに気づかないながら如才ない虎嘯。
この二人は案外いいコンビなのでは……。なんて妄想してしまいます。
この後、大変なことになり、虎嘯はますます己の想いに沈む暇がなくなるのでしょう。
きっと、己よりも、しなければならないことを重要視するでしょうから。
Kさま、リクエストありがとうございました〜。
2007.09.19. 速世未生 記
- やっと出会えた海客である景王と同時代の胎果、泰麒。
彼を救おうと懸命になる己の主と、救われた泰麒を見つめる鈴の心境は?
彼女自身にあれほどあった故郷への思慕は昇華されているのか? (「黄昏」余話)
そうともいえます(笑) 未生(管理人)
2007/09/20(Thu) 17:30 No.83
Kさま、いらっしゃいませ〜。
確かに、私も書いていて掛算未満かなぁ、と思いました(笑)。
ちょっと横道に逸れましたが、妄想を誘うリクをありがとうございました!
そして、ご感想をありがとうございました。
いえいえ〜、Kさま、どちらのKさまか、私は存じ上げませんよ〜(笑)。