祝の日
2007/09/21(Fri) 17:36 No.88
「──こんな感じでいいかしら?」
「上出来よ! こっちも見てくれる?」
「ああ、素敵!」
その日、太師邸はおおわらわだった。鈴は本とにらめっこをしながら厨房に立ち、祥瓊は細かな作業を続けている。花庁では、遠甫の指図の元に、虎嘯と
桓魋が忙しげに身体を動かしていた。
「──やっているな」
笑みを湛えて現れたのは、宰輔景麒を先導した冢宰浩瀚である。虎嘯と
桓魋は笑みを返しつつ拱手した。
「おお、台輔、よくいらしてくださった」
立ち上がった遠甫が笑み崩れながら宰輔を迎えた。景麒は遠慮がちに頭を下げる。場違いでは、と呟く宰輔に、鈴がこしらえた菓子を指差した浩瀚が、涼やかな笑みを向ける。
「台輔、これは、『けーき』というものだそうですよ」
聞いて景麒は僅かに目を見張る。それから、微かな笑みを見せた。
「桂桂、そろそろいいわよ」
「うん! じゃあ、陽子を迎えに行ってくるね!」
ぱたぱたと足音を立てて、桂桂が走り去る。やがて桂桂は、訝しげな顔をした女王の手を引いて、嬉しげに戻ってきた。その瞬間、手筈どおり合図をする浩瀚に、皆が唱和する。
「お誕生日、おめでとうございます!」
女王は大きく目を見開き、息を呑んだ。そして、得意そうに笑う桂桂を見下ろす。その日二十歳になった女王は、花ほころぶような美しい笑みを見せた。
「──ありがとう、桂桂。ありがとう、みんな」
胎果の女王の誕生日を蓬莱風に祝おう。
桂桂が発案した祝宴を、女王の側近みんなで用意した。無論、延麒六太に願って蓬莱から膨大な資料を取り寄せた。誕生日には欠かせないという「けーき」なる菓子を、鈴が腕によりをかけて作り上げた。
二十歳を示すという十一本の蝋燭に点された火を吹き消し、女王はにっこりと笑う。それから、鈴が「けーき」を切り分けた。
ほんのり甘い菓子は、忙しい毎日を過ごす女王の心を癒した。そして、そんな女王の寛いだ笑みは、女王の側近たちをも和らげる。主の笑みに、普段喧しい宰輔も微かな笑みを返す。そんな宰輔を見て、鈴と祥瓊は顔を見合わせ、笑いを噛み殺した。
「どうしたんだ? 二人とも」
「陽子が『けーき』を気に入ってくれて、よかったわ」
何食わぬ顔で答える鈴に、女王は大きく頷き、晴れやかに微笑んだ。
2007.09.21.
ご感想ありがとうございます! 未生(管理人)
2007/09/23(Sun) 06:14 No.98
空さん、いらっしゃいませ〜。
この御題をいただいて、甘いお菓子=ケーキ=景麒=祝火、と図式ができてしまったのでした。
連鎖妄想なお話ばかりでごめんなさいね!
でも、ほのぼの金波宮、お気に召していただけて嬉しいです。
御題を書くときは、敢えて書きたいことを削ぎ落とすことが多いのです。
書かれていない隙間を皆さまに想像していただくことも好きだったりします。
なので、桓魋や虎嘯が何をしていたのか、ご想像いただけて嬉しかったです♪
(よろしければ連鎖妄想なんか如何ですか?/笑←迷惑)
ほのぼのながら微黒な「祝火」のほうもご覧くださってありがとうございました!
またよろしくお願いいたします〜。
懐かしい〜! あすかさま
2007/09/24(Mon) 17:32 No.99
「祝火」余話。去年の今頃が思い出されて、とても懐かしくなりました。
そんなこともあったのですね。ひらがなの「けーき」というのがとてもよいですね。
金波宮のとても幸せな一時に、心がほのぼの、暖かくなりました。
未生様、余話でまた取り上げていただき、有難うございました。
ありがとうございます〜 未生(管理人)
2007/09/25(Tue) 06:47 No.100
あすかさん、いらっしゃいませ〜。
はい、もう1年経ったか! という気持ちでいっぱいでございます。
月日が経つのは速いですね〜。
「祝火」余話、お楽しみいただけてよかったです。私も「けーき」を気に入っております♪
ご感想、ありがとうございました! またよろしくお願いいたします。