暁の太陽
2007/09/28(Fri) 18:22 No.107
明郭で祥瓊を逃がした赤い髪の娘が、拓峰にいた。思い切りのよい娘だとは思っていたが、まさか、殊恩に名を連ねているとは。
桓魋は薄く笑って娘に話しかけた。
「──いつか、明郭にいたな?」
「ああ。──でも、何故それを?」
「祥瓊を助けたろう? 俺もその場にいたんだ。──ずいぶん思い切りのよいことをする」
追っ手を引きつけて陽動するとはな、と続けると、陽子は何も言わずに微笑した。端正な容姿を持ちながら男物の袍を纏う娘は、呆れるほどぶっきらぼうだった。桓魋はにやりと笑って付け加えた。
「それに、赤い髪は珍しいからな」
「──そのようだね」
陽子は軽く笑って一言返した。
あの頃から只者ではないと思っていた。
余計なことは言わない。確かな腕を持ちながら、敵兵に止めを刺さない。拓峰で焼き討ちにあったときも、街人を見捨てようと提案した桓魋と夕暉に憤る虎嘯を静かに促して、火を消しに街へ降りた。しかし。
まさか、王だったとは──。
麒麟を見送り、もう大丈夫だ、と振り返る陽子を、桓魋は呆然と見つめた。それは虎嘯も同様だった。大の男が二人して立ち竦む様は、周りから見れば、さぞ可笑しかっただろう。
浩瀚さま。
桓魋は胸で呟く。主はいつも、主上を信じよ、と説いていた。若く胎果の女王は、何も知らされていないだけなのだ、と。
浩瀚さまの仰るとおりだった。
そう思うと唇に笑みが浮かぶ。そして桓魋は、女王の前に膝をついた。周囲の者が次々にそれに従った。
女王は苦笑し、立ってくれないか、と言った。それだけでなく、済まない、ありがとう、と続けた。あまつさえ、お礼がしたい、望みを叶える、とまで──。
その言葉に桓魋は顔を上げる。本当に望みを叶えてもらえるならば。女王に念を押し、桓魋は改めて叩頭し、主の復廷を求めた。
女王は驚いたようだった。奸臣により真実を隠されていた女王は、桓魋に二、三質問し、得心がいったというように頷く。そして、信じられないことを言った。
「……桓魋から、浩瀚に礼を言ってほしい。こんな愚かな王でも仕えてくれる気があるのなら、ぜひ堯天を訪ねてほしいと」
真摯なその言葉に、桓魋は思わず頭を上げて女王を仰ぎ見る。女王は桓魋に頭を下げていた。
「──確かに、承りました……」
胸に熱いものが満ちる。慶に、暁の太陽が昇る。早く主に王の言葉を伝えたい。
桓魋は心より平伏し、女王に応えを返した。
2007.09.28.
後書き
2007/09/28(Fri) 18:32 No.108
尚隆・陽子・祥瓊・鈴・虎嘯・班渠・冗祐ときて、とうとう桓魋でございます(笑)。
いやはや、久しぶりに「風の万里〜」を読み返しました(懐かしい〜)。
今回のリクエストにより、いろいろな視点で「十二」世界を見ることができて楽しかったです。
Hさま、リクエストありがとうございました〜。
2007.09.28. 速世未生 記
- 「黎明」にて陽子が王だとわかったとき、また、只者ではない、
とうすうす感じていたころからの桓魋の心の動き。とうとう桓魋ですよ(笑)
回り道 ひめさま
2007/09/29(Sat) 01:42 No.113
桓魋のココロに浮かぶ「浩瀚さま」の活字。
やはりワタクシめのココロを揺さぶる「浩瀚」の文字。
なんとにくい演出でございましょう。
まんまとはめられたような気がいたしております。
回り道したからなぁ、そろそろ元に戻りましょ(笑)
浩瀚への思いを再確認させていただくこととなりました。
ありがとうございました(笑)
遅くなってごめんなさい 未生(管理人)
2007/09/30(Sun) 05:42 No.119
誤字が沢山ある見苦しいものをお見せしてしまってごめんなさい〜(恥)。
推敲で誤字チェックできないほどテンパッていたなんて、ほんと修行が足りないです。
頭冷やせ、自分。
改めまして、ひめさん、ご感想ありがとうございました。
いえいえ、はめようとしたわけではないのですよ。
あれが桓魋の正直な胸の内のようでございます(笑)。
なんだか、私も浩瀚を書きたくなってまいりましたよ。
そのうち「黄昏」余話でもご登場なさるかもしれません。でも、気長にお待ちくださいね〜。