雨上がり
2008/09/04(Thu) 06:50 No.17
姿の見えなくなった祥瓊を一緒に捜していた陽子が、庭院の路亭を見やって足を止めた。祥瓊が見つかったのだろうか。鈴は急きこんで訊ねた。
「どうしたの。陽子。祥瓊は見つかった?」
「しっ──」
微かに首を横に振った陽子は、笑みを浮かべて路亭を指差す。その指の先にあるものは、抱き合うふたりの男女。鈴は思わず息を呑んだ。
「──!」
「──行こうか」
片目を瞑って陽子は笑い含みに言った。鈴はもう一度路亭を見やる。
桓魋の腕の中で素直に涙を零す祥瓊は、露を宿す花のように美しかった。
鈴もまた笑みを浮かべ、陽子の後を追う。陽子は立ち止まって雨を眺めていた。鈴はまたも息を呑んだ。淡い笑みを浮かべる陽子は、雨に打たれる花の如く淋しげで、しかも匂やかに美しかったのだ。
「陽子……?」
「──祥瓊に、泣ける場所があってよかった」
「そうね」
振り向いた陽子は、いつものように明るい笑みを見せる。鈴は微笑んで頷いた。いつも気丈な祥瓊の涙を受けとめるひとがいる。それを知って、鈴も嬉しく思った。そして鈴は陽子を見つめる。女王である陽子も、人前で涙を見せたりしない。
陽子もまた、伴侶の胸で静かに涙を零したりするのだろう
か──。
「ほっとしたよ。──桓魋には恨まれるかもしれないけれど」
路亭をちらと見やり、陽子が小さく呟いた。
「──祥瓊を泣かせたのは、私だから」
「え──?」
「何でもないよ。さあ、行こう」
「あ、待ってよ!」
陽子は振り返らずに走っていく。慌ててその背を追いながら、鈴は陽子の言葉を反芻する。そして、ある考えに思い至った。
「陽子、桓魋は陽子に感謝しているかもしれないわ」
小さく告げると、陽子は目を見張って振り向いた。相変わらず鈍い友に、鈴はにっこりと笑みを返す。
「──お蔭で祥瓊を慰めることができたんだから」
陽子はますます目を見張る。それから、雨上がりの虹のような鮮やかな笑みを見せた。
2008.09.04.
後書き
2008/09/04(Thu) 06:52 No.18
──出かける用事が多く、お話が進みません。
ストレスが溜まって小品を書き流しました。連鎖妄想ばかりでごめんんさい〜。
見られていたと知ったら、ふたりは照れるでしょうねぇ。
2008.09.04. 速世未生 記