花を守る者たち
2008/09/19(Fri) 21:19 No.65
主の名代として訪れた奏南国。慶東国冢宰浩瀚は、荘重なる公式行事を終えた後、後宮に案内され、気さくな王族より温かなもてなしを受けたのだった。
鷹揚な国主、手ずから茶を淹れる后妃と公主、朗らかな太子たち、そして穏やかな宰輔。浩瀚は雁とはまた違う大国奏を実感していた。
全ての行事を終え、掌客殿に用意された自室にて寛いでいた浩瀚は、軽く扉を叩く音に眉を顰めた。扉を開けると、人懐こい笑みを浮かべた第二太子が中へと滑りこむ。浩瀚は拱手して太子を迎えた。
「これは卓郎君。如何なさいましたか?」
「武断の女王の右腕に是非お聞きしたことがあってね」
奏南国第二太子卓郎君利広は酒瓶と酒盃を卓子に並べつつそう答えた。太子に促され、浩瀚は榻に腰掛ける。太子は浩瀚に酒盃を差し出し、早速口を開いた。
「──どうして君は女王の恋を黙認したの?」
太子は爽やかな笑みを向けて生臭い問いかけをする。浩瀚は同じく笑みを浮かべ、心に思うとおりの応えを返した。
「ご質問の意味が分かりかねますが」
「──しらばっくれる必要はないよ。私は陽子に聞いて知っているんだから」
太子は持参した酒を手酌で飲みながらそう言った。浩瀚は耳を疑った。
「卓郎君……今、何と仰いましたか?」
「そんなに不思議なことかなあ」
まあ飲んで、と太子はにっこりと笑んだ。その杯を乾かさなければ喋らない、との物騒な光を目に浮かべて。浩瀚は嘆息し、酒を飲み干した。
「そうそう、その調子。私はね、堯天でお忍び中の陽子に会ったことがあるんだ」
太子はそう言って人の悪い顔をした。主の伴侶によく似たその貌に、浩瀚は小さく息をつく。そして、言葉の裏に潜む意味に気づき、動きを止めた。太子は薄く笑み、居住まいを正す。
「是非、そなたの意見を聞かせてほしい、慶東国冢宰浩瀚殿」
太子は最長命国の王族に相応しい威厳でもって再度訊ねる。浩瀚は柔和に笑む太子を真っ直ぐに見つめ返し、おもむろに答えた。
「我が主は、己を律することに長けた方でございます故」
「──陽子はよい臣を持って幸せだね」
太子は爽やかに笑って浩瀚の酒盃に酒を注いだ。そして、片手を挙げて房室を出ていく。浩瀚はその後姿を頭を下げて見送った。
扉が閉まり、辺りは静寂に包まれる。浩瀚はようやく緊張を解き、深い溜息をついた。かつて、主の伴侶の品定めを受けたことを思い出す。そして、今また大国の太子が浩瀚を試した。
女王を愛し、案ずる者として──。
主はあれほどの化け物たちと渡り合い、その心を動かしたのか、と浩瀚は感嘆する。そして、うら若き主もまた一国を背負う王なのだ、ということを忘れてはいけないと自戒した。
持てる力の全てを以ってお守りいたします。
浩瀚は、主の麗しい顔を胸に思い浮かべ、厳かに杯を掲げたのであった。
2008.09.19.
後書き
2008/09/19(Fri) 21:24 No.66
いやはや、難儀いたしました。どちらも本音を言いたがらないので話が延びる延びる……。
なかなか黒いお話になったのではないかと思いますが、如何なものでしょうか?
Nさま、ありがとうございました!
補足でございます。本文中に出てくる「主の伴侶の品定め」について。
題名が題名ですので、短編「花守」@夜話(本館)連作「挑発」を思い浮かべた方も
いらっしゃるかと思います。
が、作者は中編「刻印」@夜話(本館)長編「黎明」余話及び
中編「所顕」@夜話(本館)連作「残月」を念頭に置きました。
「花守」より少し前の時期を想定しております。(2008.09.28.追記)
2008.09.19. 速世未生 記
- 3周年おめでとうございます。こんばんは。
ええ、浩瀚様が、なかなか言ってくださらないのであれば・・・
某次男坊に、聞き出していただきましょう。
陽子の名代で奏南国を訪れた浩瀚様。
丁重なもてなしをうけ、重々しい公式行事の1日が終わり、部屋に戻った浩瀚様の元に、
次男坊様が訪れる。
ええ、腹黒お二人の「ようこちゃん」をめぐる杯を交わしながらの
お話しなぞいただければ。
ご感想ありがとうございます! 未生(管理人)
2008/09/20(Sat) 06:55 No.68
空さん、いらっしゃいませ〜。
「すごいお話し」でしたか? わ〜い!
最初は会話しかなくて、いったいこいつらは何を考えて喋ってるんだ!
と頭を掻き毟りながら書いたお話でしたので、そうおっしゃっていただけて光栄でございます〜。
お、お祭は……5日間延長いたします。不甲斐なくてごめんなさい〜。
なので、またいらしてくださいませ!
ご反応ありがとうございました! 未生(管理人)
2008/09/21(Sun) 09:11 No.73
朝寝坊した上に、ちょっとしたアクシデントが……(苦笑)。浮上が遅くなってごめんなさい!
ひめさん>
「同盟」ですか(爆)! 「牽制」及び「確認」だと思います〜。
はい、こうしてどんどん繋がっていきますねぇ。管理人の悪い癖かもしれません(苦笑)。
奈緒さん>
おお! リクエスターのご登場、嬉しゅうございます〜。
腹黒な二人の会話をお楽しみいただけてよかった!
お忙しそうですが、お体ご自愛くださいね。
できれば何かひとつ管理人に恵んでくださるともっと嬉しいです(←出た、強欲宣言)。
けろこさん>
黒い緊張感をお楽しみくださってありがとうございます!
本格利浩対決は、どちらかがオイタをしない限りないかもしれませんね。
そうしたらかの方も黙ってないでしょうしねぇ。
皆さま、ご感想をありがとうございました!