菊を愛でて
紅梅月毛さま
2010/09/09(Thu) 05:02 No.26
伴侶である隣国の女王より、綿を被された菊花と、それに結ばれた文が鸞に括られてやって来た。料紙を開くとそこには
『数しらず 君が齢を 延ばへつつ 名だたる宿の 露とならなん(後撰和歌集 秋下 伊勢)』
と、たどたどしい手蹟で書かれていた。脇に『園林に、見事な菊が咲きました。老いを拭い、貴方の長寿を祈ります』と。
「そうか、明日は『菊の節句』か…」にんまりと人の悪い笑みを浮かべる。
「で、おっさんより陽子へってコレを…。色気も全くないよなコレ」
ハイと延麒より渡された籠には、てんこ盛りに盛られた毬栗。
「わざわざ有り難う御座います。延台輔。あの方らしいな」
陽子は毬栗から覗く栗を見やる。
「何故?」
「内緒です。延台輔も、今日の夕餉まで居てくださいね」
隣室にて控えている祥瓊を呼び、手渡すと同時に耳打ちする。
「勿論♪」
菊花を臨む路亭に、待ち人が佇んで居た。
「お早いおいでだ」
「雲海から直接来たからな
『露だにも 名だたる宿の 菊ならば 花のあるじや 幾世なるらん(後撰和歌集 秋下 藤原雅正)』
だな」
手折った白菊を、伴侶の括った髪の根元に挿す。
「尚隆…」
陽子は、伴侶の胸に抱き付く。
「何だ?」「有り難う御座います」はにかんだ顔を見せたくないのだろう。尚隆は優しく深緋色の髪を撫でる。
「なんの。しかしながら、良く伊勢の和歌を知ってたな」
偉いぞとばかりに、今度は乱暴に頭をぐりぐりと撫でられる。
「尚隆こそ、和歌はキライだって仰っておられたのに、良く藤原雅正の和歌を知ってましたね」
菊が落ちぬ様に頭を庇い、頬を少し膨らましながら言う。
「…。親父殿に叩き込まれたのだ」
と、憮然とする。苦い思い出を思い出したのだろうか、益々不機嫌になる伴侶。
「尚隆?」
心配そうに自分を見上げる伴侶。すかさず伴侶を抱き寄せる。
陽光を浴びる菊達は、愛人達を優しく見守る。
オマケ☆
「勿論、『菊花酒』もあるんだろうな?俺としては…モゴッ、…ブッ」
伴侶に口を強制的に掌で封じられ、彼方から飛来した球体が後頭部を直撃した。
「何で毬栗が飛んで来るの?しかも、青いし…」
陽子は足元に転がる青々とした毬栗をみやる。
無論、蹲り悶絶する伴侶は放置して。
「何故?」
さて、毬栗の投げた犯人は誰?
お祝ありがとうございます 未生(管理人)
2010/09/09(Thu) 17:13 No.27
月毛さん、いらっしゃいませ〜。
拙サイト5周年を素敵な作品で寿いでくださってありがとうございました。
添削なんて恐れ多い。作品を拝見させていただいただけですよ〜。
五節句のひとつでありながらあまり知られていない重陽の節句、
恥ずかしながら私もよく知りませんでした。
調べる機会を与えてくださったことにも感謝いたします。
細く長くサイトを続けられるよう、長寿を祈る節句に願いをかけてみようかと思います。
どうぞまたいらしてくださいね。