「管理人作品」 「尚陽祭」

至福の夜@管理人作品第1弾

2011/09/01(Thu) 05:49 No.1
 皆さま、ご来場くださってありがとうございます。 拙宅は本日無事に6周年を迎えることができました。 お約束どおり、尚陽祭を開催いたします!
 これから1ヶ月間、皆さまとともに楽しく祭をやっていけたらと思います。 どうぞよろしくお願いいたします。

 さてさて、投稿の見本も兼ねて、管理人作品第1弾をお送りいたします。 よろしければお楽しみくださいませ。

至福の夜

2011/09/01(Thu) 05:54 No.2
 慶東国王都堯天、国主が住まう金波宮は、晩夏の風が吹き抜けていた。日中はまだまだ暑いのだが、朝晩にはこうして爽やかな風が吹く。執務室にて政務に励む景王陽子は移ろう季節を感じ、微かに唇を緩めた。そんなときである。

「少し付き合わないか、見せたいものがある」

 それだけを告げる鸞が隣国からやってきた。少し前に雁州国から戻ったばかりの景王陽子は、苦笑とともに伴侶の明朗な声を聞く。それでも、渋る景麒を冢宰浩瀚に説得してもらい、日程の調整をした。

 多少の悶着を乗り越えて、陽子は初秋の玄英宮へと旅立つ。禁門にて出迎えた延麒六太は、雁の秋は気候がいいんだ、と笑った。
 雁国主従との和やかな夕食の宴後、陽子は後宮に設えられた己の堂室にて伴侶を待つ。心は満ち足りていた。夜半に密やかな逢瀬を重ねた日々が、幻のように思えるほどに。

 卓子の上に用意された茶器を眺め、陽子は唇をほころばす。玄英宮を訪れている時は、自ら茶を淹れる隣国の王のために、立派な茶器が用意されていた。けれど、この茶器は、いつも掌客殿で使っていた来客用のものではない。国主の伴侶たる陽子のために、改めて準備されたものなのだ。
 割ってしまったらどうしよう。そんなふうに気を張りながら使っていた瀟洒な白磁や青磁と違い、市井で気軽に買えるような素朴な茶器に、陽子の心は和む。
 そういえば、この堂室の設えは壮麗だが、常備されている小物は簡素なものが多い。それは、陽子の気性を熟知している尚隆や六太の気配りなのだろう。温かな茶を啜りながら、陽子は幸せな物想いに耽るのだった。

 やがて、尚隆が堂室を訪れた。笑みを浮かべて伴侶を迎え、陽子は茶の支度をする。温かなものは心まで温めるのだろうか。手ずから淹れた茶を振る舞うと、伴侶もまた和らいだ顔で茶杯を受け取った。
「景麒の説得は大変だったか?」
「大変だったよ」
 軽く問われ、すぐに応えを返す。六太の書状と浩瀚の助力がなければ、今この場にはいられなかっただろう。そう思うと眉間に皺が寄る。それはそれは、と伴侶は可笑しそうに笑った。陽子は唇を緩めて続ける。
「けれど、頑張ったから」
 国を空けていた時の仕事は全て片付けた。陽子の気持ちを慮って協力してくれる人がいた。そして、何より景麒が散々厭味を言いながらも陽子を送り出してくれたのだ。思い出すと自然に笑いが浮かぶ。不意に伴侶がにやりと不穏な笑みを見せた。
「六太が協力したのか?」
「──よく分かったね」
 気づいていないと思っていた。だから、六太にだけ小さく礼を述べたのだ。陽子は六太が寄越した書簡のことを伴侶に話した。余計なことを、と眉根を寄せつつも、伴侶は楽しげに陽子の話を聞いた。
 他愛のない会話を交わし、二人きりの空間に柔らかなものが満ちていく。ふと話が途切れ、陽子は伴侶と見つめあった。

 深い色を湛える伴侶の瞳。強い光を宿し、昏い闇を隠す。その双眸に、陽子は声なく見入る。ずっと見つめていたい、そう思っても叶えられることは少なかった。だからこそ、存分に見つめる機会を与えられて嬉しく思う。けれど──。

「──そんなに見つめられたら、穴が開きそう」
 今宵、音を上げたのは、陽子のほう。

 伴侶の瞳に引きこまれ、戻れなくなりそうだった。軽い目眩を感じ、陽子は苦笑とともに呟く。見つめ返す伴侶は、陽子を抱き寄せて人の悪い笑み浮かべた。

「目を瞑ればよかろう」

 密やかな声とともに唇が落ちてくる。陽子は素直に目を閉じて甘い口づけに応えた。抱きしめる腕の力が増していく。それにつれて身の力は抜けていく。愛する者に身体を預け、陽子は至福の時を伴侶と分かち合った。

2011.09.01.

後書き

2011/09/01(Thu) 06:03 No.3
 第1弾は甘い後宮物を。最初にリクエストをくださったNさまに捧げます。

 とか言って、実は拍手其の二百九十八「隣国の後宮にて」を加筆改稿して持ってまいりました。 長編「滄海」第1回の陽子視点になります。
 因みに、陽子が玄英宮に来る前の「多少の悶着」は、 短編「同想」@夜話(本館)長編「滄海」余話にて執筆済みでございます。 ご興味おありの方はそちらをご覧くださいませ。

 拙宅のお話は悉く繋がっておりますので、私が書く尚陽はこんなものばかりになってしまいます。 大変恐縮ですがお付き合いいただけると嬉しく思います。


2011.09.01. 速世未生 記

Re: 祝! 6周年 饒筆さま

2011/09/01(Thu) 22:14 No.4
 こんばんは! 未生さま、改めまして6周年おめでとうございます!  そしてラブラブお祭りの開催、お待ちしておりました〜!!
 コメント一番乗りなんて恐縮ですが、のっけから漂いまくる幸福感に酔いしれております〜。 一か月間、思う存分楽しませていただきます〜♪  こちらこそよろしくお願い致します(ぺこり)

ありがとうございます! 未生(管理人)

2011/09/02(Fri) 06:19 No.6
 饒筆さん、いらっしゃいませ〜。コメント一番乗り、ありがとうございます。嬉しいです!
 毎年のように祭を催していて尚、最初はかなり緊張するのですよ。 なのでお声を上げていただけて、ほんとうに嬉しく思います!
 ラブラブは、実は苦手な部類に入ります。 書く時はかなり頭が壊れているか、胸揺さぶられるリクエストをいただいた時でしょうか。
 今、いい感じで暑いので、いい方向に頭が壊れることを祈っております(笑)。
 饒筆さんのご参加もお待ちいたしておりますよ。 1ヶ月間よろしくお願い申し上げます。 寧ろ1ヶ月で終われるよう祈りたいと思います(苦笑)。

ツボは茶器 ネムさま

2011/09/06(Tue) 21:22 No.23
 第一弾は何ともほのぼのした味わいでした。 個人的には丁度(今更ですが)「慶賀」を読み終えた後だったので、 周囲の暖かい眼差しが余計感じられました。
 中国茶の茶器は使い込むほどまろやかな色合いが出ると聞いていますが、 部屋にある陽子専用の素朴な茶器が、これからの年月を象徴しているように思われます。
 一ヶ月間どこまでラブラブ度が上がるか、楽しみにしてますね(^。^b)

おお! 未生(管理人)

2011/09/07(Wed) 06:32 No.24
 「慶賀」を読んでくださってありがとうございます!  あれはいろんな意味で転機となった作品ですので、かなり愛着があるのです。 連鎖連鎖の作品にお付き合いいただけて嬉しく思います!
 中国の茶器も少し調べてみたのですが、フォルムが素敵でした。 触ってみたいと思いつつお値段に負けました(笑)。 先日美術館で古の茶器を見たりもいたしましたので、 つい陽子主上にも使わせてみたくなりました。 けれど、彼女ならもっと素朴なものを好むだろうな〜というのは私の願望ですね(苦笑)。かいq  1ヶ月でどのくらい頭が壊れるか、大きな心でお見守りくださいね!

茶器 瑠璃さま

2011/09/11(Sun) 00:15 No.38
茶器
 茶器の話題が出ていたので、そういえばと思い、 以前土産で貰った中国茶器を引っ張り出してみました。 大きさ比較に500円玉を置いてみましたが、どうかな?
 どれもちっちゃくて可愛いです。 で、結構なお値段らしいです(笑)。ちなみに使ったことはありません。

わあ、可愛い! 未生(管理人)

2011/09/11(Sun) 07:04 No.43
 わ、中国茶器をお持ちなのですね。小さくて、フォルムも丸くて可愛いです〜。 ジャスミン茶を淹れて飲んでみたいわ。 でも、結構なお値段なら、あんまり使う気になれないですね(苦笑)。
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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