青天の霹靂@管理人作品第3弾
2011/09/05(Mon) 20:41 No.13
北の国は只今警報が沢山出ております。
明日臨時休校の学校もあるようでございます。
雨風が強くなってきたように思います。
さすがに今晩はいつも開けっ放しの窓も閉めなければならないかしら。
そんな中、リクエストをひとつ仕上げました。
これをラブラブと申し上げてよろしいか甚だ疑問でございますが、
ラブはある! と信じて第3弾をお送りいたします。
それでは短編「出奔」@夜話(本館)連作「秋冬」の続編をどうぞ。
- 登場人物 陽子・尚隆
- 作品傾向 ラブラブ?
- 文字数 1734文字
青天の霹靂
2011/09/05(Mon) 20:46 No.14
「戻ったばかりか。よい時に来た、と言うべきかな」
慶東国国主の執務室には、冢宰浩瀚が出ていった途端、明朗な男の声が響き渡る。書卓に向かって仕事をしていた景王陽子は、筆を動かす手を止めて来訪者を見やった。
「開口一番にそれですか?」
確かに、陽子は城を抜け出して帰ってきたばかりだった。だが、何故そんなことが分かるのだろう。そう思うと蹙め面になる。いきなり現れた隣国の王は飄々と問いを重ねた。
「だが、そうなのだろう?」
相変わらず意図が読み難い貌をする。強かな隣国の王が生きてきた年月は悠久と言える。年季が違うことを思い出し、陽子は苦笑した。筆を置いて指を組み、顎を乗せる。頬杖をついた陽子は尚隆に問うてみた。
「──どうしてそんなことが分かるのです?」
「浩瀚が黄葉を持っていたからな。お前の土産だろう?」
尚隆はにやりと笑い、そう訊いてくる。意外な種明かしに、陽子は深々と溜息をついた。浩瀚が賓客に長々と説明するとは思えない。尚隆は一見しただけで見抜いたのだろう。
「──無駄に慧眼ですね」
「無駄は余計だ」
陽子の揶揄に尚隆は片眉を上げる。陽子は諦めて経緯を語った。
「──浩瀚は、出奔を見逃してくれたんですよ。だからあれはお礼なんです」
そう、冢宰は国主の出奔を黙認した。そして、帰城して仕事を始めた陽子を咎めることなかった。鬱屈していた陽子にとって、浩瀚の対応は有難いものだったのだ。思い出すと自然に笑みが零れるほどに。
尚隆は苦笑を浮かべて聞いていた。何も言わずに書卓に歩み寄り、奇妙な笑顔で陽子を見下ろす。そして、小首を傾げる陽子の腕を掴み、無造作に引き寄せた。意味不明な行動に陽子は目を上げる。何を、と言いかけたそのとき。
尚隆はいきなり陽子の唇を奪った。驚きに身体が強張る。蕩けるような甘い口づけに、頭が真っ白になった。けれど、ここがどこかを瞬時に思い出し、陽子は頬を火照らせた。渾身の力を籠めて尚隆の腕から抜け出す。
「ななな何するんです!」
「──俺とてたまには嫉妬もする」
支離滅裂な行動を取った尚隆は、解読不能な言葉を放つ。気儘な尚隆ではあるが、執務室で陽子を伴侶として扱うことは今までなかった。混乱しつつも陽子は即座に叫ぶ。
「わけ分かりませんから!」
尚隆はそれには答えず、意地悪く笑い続けていた。陽子は思考停止させ、尚隆を無視して政務に戻る。尚隆は榻に腰かけて、楽しげに肩を揺すった。やがて。
「失礼します」
女御鈴の声がした。陽子は、どうぞ、とだけ応えを返し、仕事を続ける。浩瀚が気を利かせて呼んだのだろう。城を開けていた陽子の書卓には沢山の書簡が積まれている。気紛れな賓客の相手をしている暇はないのだ。
「あの……どうかなさいましたか?」
入ってきた鈴は遠慮勝ちに声をかけてきた。この堂室はどうやら異様な空気が満ちているらしい。しかし、陽子に答える余裕はない。そんな陽子の気配を察し、尚隆が笑い含みに口を開いた。
「どうかしたように見えるか?」
「いえ……」
鈴はそう答えながらも小首を傾げている。矛先を変えた尚隆は面白そうに鈴を見つめた。鈴は困ったように陽子を見やる。それが分かっているからこそ、陽子は手を止めることができなかった。
不意に鈴は得心がいった顔をする。陽子の心拍数が一気に増した。冷静に、と自分に言い聞かせる。顔が火照らないように気をつけて、陽子はいつもどおりを装った。それなのに。
「──陽子はご機嫌斜めなのだ」
納得顔の鈴に向けて、延王尚隆はぬけぬけとそう言ってのけたのだ。陽子の我慢は限界を超えて爆発した。
「誰のせいですか誰の!」
「さあ?」
「あなたのせいでしょうが!」
「俺のせいなのか?」
「ああもう、苛々する。黙っててください!」
「そう言われてもな。黙っていると退屈だ」
「私は忙しいんです!」
「俺は別に忙しくないからな」
「そんなことは私には関係ありませんから!」
不毛な遣り取りが続く。陽子は頭痛を覚えた。怒鳴り過ぎて喉が渇いてもいた。近くの茶杯を取り上げ、冷めた茶を一気に飲み干す。気づいたときには鈴が姿を消していた。
「あ、あれ?」
「──鈴ならとっくに出ていったぞ」
尚隆は楽しげに笑ってそう言った。陽子は知らぬ振りで仕事を再開する。尚隆の含み笑いはいつまでも続いていた。
2011.09.05.
後書き
2011/09/05(Mon) 20:47 No.15
短編「出奔」及び小品「家苞」の続編で、
御題其の百五十五「家苞の波紋」及び御題其の百五十七「違和感の原因」の陽子視点になります。
こんな長い解説をつけなければならないもので失礼いたしました〜。
けれど、秋になったら書いてみたかった小品でございます。
お楽しみいただけると嬉しく思います。
Kさま、リクエストをありがとうございました〜。
- ささいなことで喧嘩をした二人の夫婦げんかは犬も食わない的なお話をお願いします。
2011.09.05. 速世未生 記
今のところ大丈夫です 未生(管理人)
2011/09/06(Tue) 06:25 No.20
饒筆さん、いらっしゃいませ〜。
今のところ大丈夫でございますが、警報と注意報は解除されておりません。
まだ予断を許さないようなので、本日は外出を控えようと思っております。
ご心配ありがとうございました。
痴話喧嘩スキーですか!
こういうの、私も結構好きなのですが、推敲の際削ってしまうことが多いのでございます。
お楽しみいただけた上に更なる妄想を掻き立ててくださってありがとうございます!
さすがにこのままこの場所では無理でございましょう。
おっしゃるとおり、叩き出されるでしょうからね(爆)。
低気圧になりました 未生(管理人)
2011/09/07(Wed) 06:37 No.25
北の国を襲っていた二つの台風は温帯低気圧となりました。
警報の類は全て解除されており、ほっと安堵の息をついております。
ネムさん、楽しい傾向と対策をありがとうございます。
なんだかむずむずしてまいりましたよ(笑)。