乙女の葛藤
2011/09/07(Wed) 17:48 No.28
日が暮れると不安になる。私室でひとりになった陽子は、溜息ばかりついていた。
「──悩ましい溜息だな」
不意に声をかけられて、陽子は飛び上がる。相変わらず気配を殺すことが巧い伴侶が楽しげに笑っていた。驚く陽子に頓着することなく、伴侶は陽子を抱き寄せる。陽子は漸く力を抜いて伴侶に身体を預けた。
大きな手が陽子の髪を優しく撫でる。今まで感じていた不安が嘘のよう。このひとの腕の中は、こんなにも居心地がよい。陽子はうっとりと目を閉じた。
「──昼間はあんなに怒っていたくせにな」
揶揄するような声が落ちてきて、陽子は目を上げた。青天の霹靂のようだった出来事を思い出し、伴侶を睨めつける。
「──執務室ですることじゃない」
昼に仕事の途中でいきなり唇を奪われた。いま思い返すだけで心臓が爆発しそうになる。誰にも見られなくてほんとうによかった。なのに、伴侶は悪びれる様子なく問いかけてくる。
「では、今ならよいのか?」
このひとは、どうしてそういうことを、わざわざ訊くのだろう。
確信犯的な笑みを見ていられなくなり、陽子は目を逸らした。それでも面白げに見つめる視線を痛いほど感じる。どう答えてもやり返されるような気がしてならない。そして、そう思えば思うほど、頬が熱くなっていくのだ。
どうしたらよいか分からない。
息苦しさを覚えた頃、伴侶はそっと陽子の頤を持ちあげ、視線を合わせてきた。その眼が存外に優しくて、陽子は虚を衝かれた。
「よいようだな」
楽しげな一言。何だか悔しくて、答えることができなかった。伴侶は優しく微笑んで、陽子に口づけを落とす。
昼には抗えた。でも、今
は──。
重ねられた唇は、あっさりと理性を奪っていく。それから身体が宙に浮いた。ゆっくりと臥室に運ばれる。そして陽子は甘い夢を見た。
2011.09.07.
後書き
2011/09/07(Wed) 17:48 No.29
「青天の霹靂」続編であり、拍手其の三百二十六「波紋の後で」の陽子視点になります。
いやぁ、頭壊れてまいりましたね〜。
ご感想に妄想を掻き立てられて、むずむずしておりましたので、昇華できてよかったのかも。
推敲もしないで出してしまってごめんなさい。何かあったらこっそり教えてくださいね!
2011.09.07. 速世未生 記