「投稿作品」 「尚陽祭」 「玄関」 

貢物添付 griffonさま

 尚陽祭の案内を見て書いていたお話なもんで時期が・・・(笑)  ほんとはお祭の期間に間に合わせたかったのですが・・・

griffonさま

 重陽の節句も過ぎ、山の木々が僅かに色づき始めていた。雁と慶の高岫山を横切るように、白い点がゆっくりと動いていた。平地からではその様にしか見えないが、高岫山の稜線からならば、それは趨虞と解る。のんびりとした速度で趨虞は滑るように空を走る。その背には、美丈夫が跨っていた。彼は自身の身体の前に少年を横抱きするようにしていた。横抱きにされた少年は、緩く結わえた紅い髪を穏やかに靡かせながら、前を向いたままの男の横顔を、見上げるようにして微笑んでいた。
 ふと、少年は男から視線を外し、高岫の山並みに目をやった。所々色づき始めた木々の合間に、橙色の房を抱えた木の大きな集団が見えた。
「あっ」
 声が漏れた。
「どうかしたか」
 趨虞の男は、少年に視線を落とした。
「柿」
 少年は、先ほどの橙色の房を抱えた木々の集団を指し示した。
 男の意を受け、速度を更に落とした趨虞は、柿の木の集団に近づいた。その中で特に背の高い木の梢に寄せる。少年は身を乗り出すようにして手を伸ばした。何か不測の際には備えるように、しかし、少年の意志を妨げぬよう、腰の辺りに男が触れぬように手を添えている。少年は柿木の枝を一つ折り取ると、身体を元に戻して男を見上げた。
「美味しそう」
 にっこりと笑って言うその少年を見て、男も微笑んだ。
 実を一つ枝からもぐと、自分の太腿の辺りに擦り付けてから齧り付いた。一瞬男が何か声を発しようとしたが、間に合わなかった。笑顔を湛えた少年の表情が、一瞬にして中央に吸い寄せられたような貌に変わったかと思うと、口の中の柿の欠片を吐き出した。
「醂してもいない柿に齧り付く奴があるか」
 男はそう言いながら辺りを見回した。沢のありそうな地形は辺りには無かった。右手を腰に回すと、帯につけた瓢箪を外し、中身を口に含んだ。唾と共に柿渋を吐き出そうと躍起になっている少年の頤を掬い上げると、含んだ火酒を移した。そのまま舌を差し入れ、口腔を撫でてやったり少年の舌を絡め取って吸い上げる。
 柿渋に驚き、注がれた火酒の強さにも驚き、更に追い討ちをかけるように舌を奪われ、少年は目を見開いたまま貌も躯も固まっていた。胸の前に縮められた両腕ごと、抱き寄せられ。更に硬くなる。唇を離し注いだ火酒を吐き出すようにと男は促した。
「今更口の中に酒を注いでも、渋抜きは出来ぬだろうが、流せば多少はましだろう」
 もう一度火酒を含んで、少年に口移しで注ぐ。今度は固まっていた少年から力が抜け、男に躯を預けるようにして、その舌を受け入れた。表情を緩めた男も、醂すと言う行為とは違った意味合いを込めた。少年の顔は上気し、息も少し荒く、甘えるように更に躯を預けた。男は、柿の梢の傍に滞空する趨虞の腹を軽く蹴った。僅かずつ趨虞は上昇し始めた。
 暫く、甘える少年の行動を楽しんだ男は、抱きしめた両腕の力を少し足してから、唇を離した。そして、そっと少しだけ躯を離した。
「何故熟さぬ柿に齧り付いた」
「でも、この平たい柿は甘い柿では」
 男は訝しむように眉を寄せ、少年を見た。
「平たかろうか尖ってようが、熟さぬ柿とは渋いものだが……そう言えば、甘柿と言うのを聞いた事はある。瀬戸内の島には無かったからな。すまぬ」
 男は、謝りながら笑っていた。そして、こちらに無かった柿を願ったのは自分だと言った。酒で醂した柿が好物だったからなと言う。突然変異の起こらないこちらでは、王が願わねば甘柿は出来ないのかもしれない。
 躯の芯に灯った熱を溜息に乗せて吐き出しながら、同時に少年は呟いた。
「絶対路木に甘柿を願うぞ。十二国じゅうに甘柿を広めて、渋柿を駆逐してやるっ」
「なにか言ったか? 陽子」
 笑いを含めながら目を覗き込んむ男を睨めつけた。上体をぶつける様にして、陽子は抗議と甘えを伝える。突然の動きに体勢を崩した分は、男が跨った趨虞が上手く相殺した。
「さて。今回の逢瀬はここまでか」
 跳ねるように顔を動かすと、陽子は高岫山の先に目をやった。遠くに吉量が見えた。
「お迎えの登場だ。俺も方もだが」
 男が顎で示した先には、空行師の一団が見えていた。
「尚隆」
 悲しげに一瞬だけ目を細めた陽子は、そう言うと尚隆の唇を啄ばんで趨虞から落ちた。躯を一回転させたところへ猗即が姿を現した。
「またな」
 尚隆が言った。
「また」
 陽子が応えた。
 互いに笑顔を向けると、それぞれの迎えに向けて、それぞれの騎獣に合図を送り、空を滑るように走り始めた。

<了>

後書き griffonさま

 題は例によっていい加減につけてます。 ついでにお話の裏もちょっといい加減に しか取ってないので、設定とか甘々なので、読むの耐えないかも<(_ _)>
 ・・・リハビリに励みます(^_^)

渋さが甘さを 未生(管理人)

導く素敵なお話ですね!  いつも思うのですが、ほんとにカップル苦手なんですか(笑)。
 いやぁ、設定甘々とかおっしゃいますが、別の意味で甘々でございます。 読みながら不気味ににんまりしてしまいましたよ〜。。
 griffonさん、甘い尚陽をありがとうございました。 またよろしくお願いいたしますね!
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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