「管理人作品」 「祝7周年滄海祭」

新王の初勅@管理人作品第5弾

2012/09/19(Wed) 06:53 No.60
 夏が終わらない……
 皆さま、おはようございます。 今朝の最低気温は24.9℃でございました。 因みに昨日の最高気温は30.5℃でございました。 夏はいつまで続くのでございましょうね……?
 さて、管理人は後程第5弾を投下しにまいります。 取り敢えずごきげんよう。 あ、暑くて頭が壊れてきております、お気になさらずに……。

 気を取り直して第5弾まいります。やっとリクエストをひとつ昇華でございます。

新王の初勅

2012/09/19(Wed) 09:53 No.61
「四分一令、これを以て初勅とする」

 朗々とした声が不意に響き渡り、朝議に列席していた諸官は須らく硬直した。王は慣例として声を発しない。取次の官に小声で告げるものだ。しかし――。
「面を上げよ」
 諸官の動揺など頓着しない笑い含みの声がまた響く。諸官は恐る恐る顔を上げた。新王は玉座から興深げに諸官を見下ろしている。やはり今の声は王のものだったらしい。諸官は大いに困惑し、互いに顔を見合わせた。
「どうした、言いたいことがあるのなら言ってみろ」
 あくまで楽しげに王が声を上げる。諸官は一斉に新王の側に控える宰輔延麒を見つめた。しかし、宰輔は肩を竦めて顔を逸らすのみ。諸官は失望を隠さない。ややしばらくして、六官の長である冢宰が声を発した。
「恐れながらお訊ね申し上げます。四分一令とはどのようなものでございましょう」
「公地を四畝開墾した者にはその内の一畝を与える、というものだが」
 新王はあっさりとそう答える。問うた冢宰は勿論のこと、諸官はみな一様に絶句した。困惑を深め、またも顔を見合わせた諸官は、首を横に振りつつ次々と異論の声を上げる。
「全ての土地は国のものにございます! 胎果の主上はご存じないかもしれませんが」
「民は二十歳になって初めて給田を受けるものでございます!」
「主上のお言葉は国の則を乱すものでございます!」
 騒然とする諸官を面白げに眺めていた新王は、やがて苦笑を浮かべて片手を振った。
「今この国にどれだけまともな土地があると思う。耕した土地が己の物になるならば、民は張り切るだろう」
「しかし――」

「俺が王なのだろう?」

 新王のその問いに異を唱える者はいない。穏やかながら、紛糾していたその場をあっという間に鎮める力強い声。そう、長らく空だった玉座を埋めたこの男こそが、新たな延王なのだ。

「四分一令、これを以て初勅とする。直ちに発布せよ」

 再び朗々と響く新王の声に、今度こそ諸官は恭しく頭を下げるのであった。

 新王の突拍子もない初勅の噂は速やかに広まった。密やかに、或いは声高に批判する人々が後を絶たない。朝議に出席できる身分を持たぬ帷湍ですら、翌日にはその噂を耳にした。しかし。

 四分一令、上等じゃないか。

 帷湍は唇を緩める。雁は長く荒廃が続く国、そう簡単に立ち直るはずがない。多少の荒療治は必要だろう。新王が出した初勅は型破りだが、雁復興の第一歩となるかもしれない。そう思い、帷湍は明るい気持ちになった。礼を失した振る舞いを見せた己を許し、抜擢した新王を、帷湍は信じ始めていたのだ。そんなとき。

「四分一令が浸透すれば、他国に逃れていた民が国に戻ってくる。遂人のお前は特に忙しくなるぞ。しっかり働けよ、猪突」
 帷湍を召した新王がにっこりと笑んでそう告げる。帷湍は神妙に頭を下げた。突っ込みどころは満載だが、仮にも王の言葉である。猪突などといきなり呼ばれても、反論する気はなかった。このときの帷湍は主を敬っていたのだ。
「そんなに畏まる必要はないぞ」
 何しろお前は猪突なのだからな、と続け、王は破顔する。帷湍はひたすら畏まって王の言葉に耳を傾けた。しかし、帷湍のこんな敬虔な態度が長く続くことはなかったのだった。

2012.09.19.

後書き

2012/09/19(Wed) 10:30 No.62
 帷湍を怒らせずのんびりさせる、なかなか難儀な命題でございました。 かの方ときたら、猪突の猛進に心和ませる御仁でございますから(苦笑)。 というわけで、こんなお話になりました。 リクエストにお応えできていれば嬉しいのですが(ドキドキ)。

2012.09.19. 速世未生 記

複雑… ネムさま

2012/09/19(Wed) 22:35 No.63
 帷湍が怒らない、尚隆を尊敬している…あぁ〜やっぱり違和感が〜〜。 これは絶対未生さんのせいではなく、帷湍と尚隆の為人のせいです!  昨夜こっちで真夜中に雷と暴風が吹いたのは、 きっと帷湍が怒らないから天変地異になったんです(彼も仙ですものね ^^;)

 「四分一令」最初に読んだ時は「なるほど」とスル―しましたが、改めて考えると、 確かに国土の私化だから問題になりますね。 やっぱり一代限りとか制約も付けたのでしょうか? 考え始めると面白いです。
 それにしても「俺が王なのだろう?」なんて嫌味にも聞こえる台詞なのに、 尚隆が言うとカッコ良く見えます。 これも未生さんの愛の為せる業でしょうか(^^)

確かに猪突氏じゃないみたい…… 饒筆さま

2012/09/20(Thu) 00:07 No.64
 帷湍氏が怒鳴っていないと、とても寂しいのは何故でしょう?(笑)
 最初っから万事自分のペースに嵌めまくっている尚隆氏がさすが! &やっぱり!  なだけに、早く帷湍氏も目覚めて欲しいです(くすくす)
 でもきっと、尚隆氏個人の生活態度(笑)はどうであれ、 政策・治世的にはずっと畏敬しているんでしょうね。 「四分一令」、確かに常世では革新的かも!  土地自体を私有できなくても、その土地からの収穫は免税(全部自分のモノ)とかは いかがでしょう?

ご感想御礼 未生(管理人)

2012/09/20(Thu) 09:39 No.67
 最低気温20℃が寒く感じるなんて慣れって怖い……。 既に夏日になっておりますが爽やかに良い天気の北の国からおはようございます。
 拙作に早速のご感想をありがとうございました〜。

ネムさん>
 やっぱり違和感ございますよね!  私も書いててなんとなく調子が出なかったです(苦笑)。 いやぁ、蓬莱にまで天変地異を起こすとは流石ですね、帷湍(笑)。
 はい、尚隆至上の管理人、愛を籠めて書き上げました。 カッコ良く見えたなら望外の幸せでございます! ありがとうございました〜。

饒筆さん>
 やはり怒鳴ってこそ帷湍でございましょう。私も淋しく思いました(笑)。 でも、怒鳴るのも愛あればこそ、でございますね!

 土地は国のもの、という常識ではかなり型破りでしょうね、四分一令。 けれど、一般に人は60歳になれば全ての財産を国に返戻して 里家にて老後を過ごすのですから、大過ないと考えたのではないかと推察いたします。 だめかしら、こういうの……。

なるほど〜 由旬さま

2012/09/21(Fri) 22:35 No.72
 四分一令、深い考察ですね〜。 確か、「風の万里」でさらっと触れられただけだったと記憶しているのですが (間違ってたらスミマセン)、考えてみれば、五百年続く大国の王、 尚隆の初勅だったわけで。重みがありますね。
 これを初勅とした時には、お話にあるようにさぞかし喧々囂々だったことでしょうが、 これで雁の行く末を左右したかもしれないと思うと、感慨深いものがあります。
 帷湍はまだ最初の頃は尚隆のことを「とても」尊敬していたんですねぇ。 だから怒ることも少なくて、精神的にも安定していたのかもしれません(笑)。 この初勅は帷湍の心にも刻み込まれ、それがのちのちことあるごとに、 「あいつは馬鹿じゃない」と、自分に確認する拠り所にしているかも〜〜

いきなり秋が 未生(管理人)

2012/09/22(Sat) 06:05 No.75
 今朝の最低気温は16.1℃でございました。 因みに最高気温は25.1℃。少し前の最低気温とほぼ同じでございます(苦笑)。 そんなわけで、お彼岸の中日の北の国、すっかり秋になりました。

由旬さん>
 はい、四分一令については「風の万里〜」で陽子主上が尚隆に初勅は何にしたのかと 訊ねたときの回答で少しだけ出てまいります。 きっと揉めただろうな〜という妄想でございました。ご共感ありがとうございます〜。
 そうそう、「東の海神〜」の最初の方に、当初は愚痴ひとつ言わない敬虔さだった、 との記述がございまして、私は悶絶死しそうになりました。 面白がって揶揄う尚隆と青筋立てつつ耐える帷湍とか想像いたしまして(笑)。
 帷湍は時々思い出しては「あいつは莫迦ではない」と己を納得させている かもしれませんね〜。
背景画像「空色地図 -sorairo no chizu-」さま
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