「管理人作品」 「祝7周年滄海祭」

たわわに生る実@管理人作品第4弾

2012/09/25(Tue) 09:37 No.86
 冷たい雨が降っております。秋が一気に深まった北の国からおはようございます。 本日の最低気温は15.4℃。予想最高気温は20℃でございます。 1週間前には真夏日だったとはもはや思い出すこともできません(苦笑)。
 さて、書くもの書くもの纏まらない管理人はお茶濁しの小品を投下いたします。 よろしければお楽しみくださいませ〜。

たわわに生る実

2012/09/25(Tue) 09:41 No.87
 今日も気儘に玄英宮を抜け出して、延王尚隆は関弓の街を漫ろ歩く。宮城では今頃、口喧しい側近連中が血相を変えて主を捜しているだろうか。小憎らしい延麒六太は、どうせ女でも引っかけてるんだろ、などと憎まれ口を叩いているかもしれない。
 そういう雑事はどこ吹く風と聞き流し、尚隆は活気が戻りつつある王都を眺めて目を細める。そして、本日の目的地までゆったりと歩を進めた。
 街の中心部に位置する広場には、必ず祠がある。そこに祀られているのは、一本の白い樹。
 初めてその樹を見たのは、雁の地を踏んだ日のことだった。瓦礫ばかりが残る里の奥に、その樹はひっそりと立っていた。燻し銀のような色の枝を広げた樹には、葉も花もなかった。

 その名は里木。

 子供が生る樹だと聞いて、尚隆は心底驚いた。同じ胎果とはいえ、物心つくかつかぬかの頃に連れ戻された六太には、尚隆の戸惑いが分からないようであった。
 国がほしいか、と問われ、迷わず、ほしい、と答えた。促されるままにやってきたここは、子供が樹に生る奇妙な世界。そして、己に与えられるという国は、六太が念押ししたとおりの荒んだ地。
 そう、初めて目にした雁の大地は、いっそ清々しいほど何もなかった。無から国を興す。それは比喩ではく、現実そのものだ。我知らず笑みが浮かぶ。大任だがやりがいはある。この焦土が緑なすところを見たい。そのとき尚隆は、己のものとなるこの土地の豊かな未来を夢見た。そして今──。
 里木にはとりどりの意匠を凝らした刺繍を施された帯が結ばれ、その枝の先には黄色い実が生っている。飽かず眺めていると、若い夫婦が揃って現れ、思案の末、ひとつの枝を選び、二人で帯を結びつけた。跪いて一心に祈るその姿は、雁が子を望める国なったのだ、と誇らかに告げている。
 この実が熟し、子供が生まれ、その子が大人になる頃には、この樹はもっと実をつけているだろうか。そして、新たに生まれた者たちは、この地の緑を更に増やしていくのだろう。たわわに生る黄色い実が齎す豊穣な大地を胸に思い浮かべ、尚隆は唇を緩めた。

2012.09.25.

後書き

2012/09/25(Tue) 09:47 No.88
 拍手其の三百二十九「たわわに生る実」を改稿してもってまいりました。 原作「東の海神〜」より少し前の頃を想定しております。
 原作「月の影〜」で陽子主上が眺めた里木、 尚隆にとっても珍しかっただろうな〜という妄想でございます。 お粗末でございました。

2012.09.25. 速世未生 記

秋へ ネムさま

2012/09/25(Tue) 23:11 No.89
 こちらもようやく、と言うか、いきなり涼しくなりました。 このまま豊穣の秋へと突入してもらいたいものです。
 子供が木に生ると言うのは、ちょっと奇異な感じもしますが、 実がたわわに生る風景は人の心を豊かにしてくれます。 そう言う意味では、未来を目の当たりに出来る、良い方法かもしれませんね。
 ふと思いましたが、陽子が里木を見て自分の常世の両親に思いを馳せていましたが、 尚隆の生った頃の雁はどんな感じだったのでしょうね。 逆算してみると六太の前の麒麟の頃、 梟王が亡くなって10有余年といったところでしょうか。 凶王が倒れ、そろそろ新王が即位するかもという希望がある頃だったから、 里木に祈ったのか。 その後王が見つからず麒麟も亡くなり、 更夜のように子供が捨てられる荒廃の世になっていったのでしょう。 丁度雁が荒れる時代の合間に生まれて、蓬莱で無事成長するまで流されていたような、 ちょっとそんな深読みしてしまいました。

ひたひたと 未生(管理人)

2012/09/26(Wed) 11:16 No.91
 遅れてきた秋の後ろに冬が見えます。 今朝の最低気温は12.7℃。昨日は冬掛けを出してしまいました(苦笑)。 最低気温ひとケタがストーブを点ける目安となります。 今年はどのくらい我慢できるかな〜。

ネムさん>
 お茶濁し小品にご感想をありがとうございます。 子供が木に生るなんて驚いてしまいますが、 たわわに生る実は豊かな未来を想像させますよね。 私は果物狩りに行きたくなりますが(笑)。
 尚隆が生った頃! そういえば想像してみたことがございませんでした。 まず、尚隆の歳が謎ですからねぇ。 原作を色々と当ってみましたが、やはりよく解りません。 泰麒は驍宗と同じくらいに見えると評しておりますね。 そして驍宗は李斎より年上に見える、と。 その李斎は「黄昏〜」によると30代前半らしい。 けれど、尚隆は「東の海神〜」では「若」と呼ばれております。 あの時代、30代の男が「若」でありえるかという疑問がございますよねぇ。 難しゅうございます。
 けれど、ネムさんの深いご考察、妄想が掻き立てられました。 荒廃の時代に生まれた珠晶の事例もございますし、尚隆を願った両親は、 富裕な人物だったのかもしれません。
 調子に乗って申し上げますが、私は麒麟が王を選ばずに亡くなるのはどういうときか、 という妄想をしたことがございます。 実は天帝がこれと決めた人物がいて、 その者が「昇山」すれば玉座に就けようと思っていた、とか。
 もし、ご興味おありであれば、 御題其の九十三「ある密謀」をご覧くださいませ (捏造必至・閲覧注意・何でも許せる方のみどうぞ)。

当地は未だに暑いです(げっそり) 饒筆さま

2012/09/26(Wed) 20:35 No.93
 さすがに朝夕や吹く風は秋を感じるものの、昼間はまだ「残暑」って感じです @笑いの都
 明日の予想最高気温は31度です(げっそり)
 さて、たわわに実った里木! さぞかし壮観でしょうね!  確かに国の未来がはっきり見えるかも。王にとっては励みになりますね。
 そして。おお〜尚隆が生った頃とは。確かに、 蓬莱に流されることで折山の荒廃を避け、しかも蓬莱でも(小国とはいえ) 殿さまの家に生まれるとは、凄い強運ですね! (良運か悪運かは不明ですが・ははは)
 王が見つからなかった理由、もしかしたらお国柄(麒麟柄?)も あるかもしれませんよ。 延の麒麟はなかなか王を選定しないけど、選定したら名君率が高い、とか。 慶の麒麟はほどほどで王を選定するので、 そこから成長してくれる王でないと長続きしない、とか。 妄想するのが楽しいネタですねえ(笑)

黄葉が綺麗です 未生(管理人)

2012/09/27(Thu) 16:07 No.97
 本日の最低気温は13.6℃、最高気温は辛うじて20℃を超えました。 先週は色褪せていたもののまだ緑だったいつもの坂道の林が、 もうすっかり黄色くなりました。秋は足早に進んでおります。

饒筆さん>
 9月ももうすぐ終わるというのにまだ残暑! 流石笑いの都は熱いですね〜(違)。
 拙作にご感想をありがとうございます。 ほんとうに、たわわに生る実は王にとっては解りやすい指標かもしれませんね。
 そして、王が見つからなかった理由「お国柄説」! 楽しく拝見いたしました。 色々あれこれ妄想が進む題材でございますね〜。
背景画像「空色地図 -sorairo no chizu-」さま
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