「管理人作品」 「祝7周年滄海祭」

雁国後宮秘話@管理人作品第9弾

2012/10/06(Sat) 06:19 No.124
 皆さま、おはようございます。本日の最低気温は13.1℃。 予想最高気温は21℃でございます。 晩夏のような気温ですが、いつの間にやら秋の虫の音も絶え、 気温はともかく季節は晩秋へと向かっております。
 さて管理人は毎日出かけている内に頭がすっかり壊れてしまいました。 「滄海」余話というよりも「慶賀」余話というべき代物ですが、お暇潰しにどうぞ。

雁国後宮秘話

2012/10/06(Sat) 06:22 No.125
「後宮を整備せよ」

 国主延王の鶴の一声に、伺候する諸官は悉く硬直した。薄ら寒い沈黙が果てしなく続く。後宮、それが何を意味しているのか分らぬ者はいない。だがしかし、ここ玄英宮では、何百年にも亘って使用されることがなかった国主の后妃が住まうための宮殿である。官吏たちは凍りつきつつも続くはずの国主の言葉を待った。が──。
 くすり、と小さな笑い声を残し、延王尚隆は玉座を降りた。そのまま去っていく大きな背を、諸官はなす術もなく見つめた。そう、その背が見えなくなるまで、だ。やがて。
「こ、後宮って……」
「国主の后妃が住まう宮だよな……」
「もしかして……」
「もしかしなくても、主上は後宮に后妃を入れるおつもりだ!」
 呪縛が解けたように次々と声が上がる。そしてその声は次第に悲鳴のような響きを帯びていった。大変なことになった。誰もがそう思った。
「相手は誰だ」
「どんな女だ」
「ところで、女なんだろうな」
「莫迦、あの女好きが男を連れてくるはずはなかろう」
 惑乱しきった失礼な会話が交わされていた。それでも、雁の有能な官吏たちは、猛然と準備を進めていった。詳細は分からない。しかし、今まで玄英宮に女を連れこんだことがない国主である。後宮を用意せよ、と命じるからには、宮の主は王后であるはずだ。少なくとも、延后妃、と称される高貴な女性を迎える気構えで準備を進めるべきだろう。諸官の意見は一致した。
 そんなわけで、後宮は瞬く間に整備されていった。特に、王后が住まうとされる北宮は、美しく雅やかに飾られた。どんなに気品高き女性が現れようとも大丈夫なように、と。

「まあ、随分とまた大袈裟な反応だな」
 玄英宮はどこもかしこも蜂の巣を突いたような喧騒が繰り広げられていた。騒ぎを作った国主の執務室を除いて、だが。下官の一人もいない執務室にて、延王尚隆は他人事のようにひとりごちる。同じく喧騒を避けてここに逃げこんだ延麒六太が大笑いした。
「日頃の行いを思い起こしてみろ。一目瞭然じゃねえか」
「俺が如何に品行方正かが分かろう?」
「糸の切れた凧みたいな奴が何をほざく。連中、これでお前が玄英宮に落ち着くと勘違いしてるぞ」
 主の伴侶をよく知っている六太は軽くそう言った。王后として常に後宮に置くことができない女を選んだ尚隆は、苦笑気味に応えを返す。
「では、相手が隣国の王だと知れば、連中、落胆するのか?」
「それはないな」
 六太は己の主を見上げ、にやりと意味ありげに笑う。
「なんたって、陽子は官吏の受けがいい」
 尚隆は訝しげに眉根を寄せる。小卓の上に坐って足をぶらつかせながら、六太はすぐに応えを返した。

「陽子がいると、お前は真面目に仕事をするからな」

 そう続けて六太は爆発的に笑う。尚隆は肩を竦めた。それは否定できない事実だ。公にはできぬ伴侶である隣国の女王が来ても、目の前に積まれた書簡を片付けなければ宮の外に出ることができないのだ。必定、仕事を捌く速度は早まる。実際に官吏たちは景王陽子を褒め称えた。
「景女王は、美しいだけでなく、斯くも有能だ」
「あの主上に、こんなに仕事をさせられるとは……」
「いっそ、主上の后妃になって、いつも尻を叩いていてほしいものだ」
「おいおい、隣国の女王だぞ……」
「仕事が片付くならば、構うものか」
「そうそう、主上を働かせるあの才、主上を釘付けにするあの美貌……」
「主上の伴侶は、あの方を置いて他にない」
 山のような御璽押印済の案件を、満面に笑みを湛えて持ち帰る官吏たちが、口さがなく言い立てていた。稀代の名君と称えられる己の主を悉く腐し、隣国の女王を敬い奉るその姿。尚隆は呆れつつも悪い気はしなかった。尤も、隣国でまで働かされた女王は嫌な顔をしていたけれども。
「連中がどんな反応をするか、見ものだな」
 笑いやめた六太が涙を拭いながらそう言う。尚隆はにやりと笑みだけを返した。

 雁州国国主延王尚隆が伴侶に選んだ人物が隣国である慶東国の国主景王陽子と知らされて、諸官は再び凍りつく。その後、卒倒する者と感涙する者が入り混じり、玄英宮は大騒ぎになったという。

2012.10.06.

後書き

2012/10/06(Sat) 06:25 No.126
 うわ、タイムアップ! 後程戻ってまいります〜!

 失礼いたしました。
 拍手其の三百十「恐るべき勅命」、三百十一「雁国官吏の惑乱」、 三百七「雁国主従の平和な会話」及び御題其の六十三「かの方の企み」と 細切れになっていた小話を纏めたものでございます。
 ――雁の官吏にはなりたくないな〜と思ってしまいました(苦笑)。 お粗末でございました〜。
 さて、ラスト3日でございます。皆さまのご投稿をお待ち申し上げておりますよ!  管理人も再延長がないように頑張ります(大丈夫か)。 激励もお待ち申し上げております〜。

2012.10.06. 速世未生 記

暑いです ネムさま

2012/10/06(Sat) 20:34 No.127
 こちらは昨日28度です。十月は秋ではなかったでしょうか…。 でも梨が美味しくて柿や早生蜜柑が出回り始めたのがうれしいです (茸も美味しい ^m^)

 読んでまず思ったのが「今の雁の官吏は、龍陽の寵の噂は知らないのね」でした。 改革の後では女好きで通したんですね(笑)
 官吏達の会話が楽しいです。 官邸の奥に景王の像が祀られていて“今日こそ主上の御璽がもらえますように”と 祈っている官吏の幻が一瞬見えました。 でも何でも自分でやって「まだ片付かんのか」と言われそうな戴の官吏と、 どっちが幸せなんでしょう?

私もきっと壊れてます 饒筆さま

2012/10/06(Sat) 22:49 No.130
 ええっと……こちらを拝読して浮かんだ妄想は。
  1. この際にと便乗されすぎたお仕事をバリバリこなし、 疲れきった尚隆がやっと後宮辿りついたら、 陽子さんは朱衡さん(後宮の先輩・笑)となごやかにお茶していた。 「もぉ〜遅い! 先に二人でご飯済ませたよ!」 ガックリ(笑)。
  2. 裁可待ち案件が溜まったので、 延国官吏より「なんとか慶女王にご足労いただけませんでしょうか」と 申し入れがある度に、ちゃっかり多額のODA(政府開発援助)を せしめる悪徳浩瀚(間違いなくやりそう・笑)
 ここのところ眠すぎて(秋眠でしょうか)、私も壊れていますね……(汗)。
 未生さま、ラストスパートがんばってくださいませ!

こちらも 瑠璃さま

2012/10/06(Sat) 23:59 No.133
もう何年か前から、10月までは暑いものという認識です。 でも空気は乾いて爽やかですね。 蝉の声も遠くツクツクボウシが聞こえるくらいです。

 いやもう雁の官吏の皆さまにはご苦労様です、というか頑張れ! というか(笑)。 でも仙だから、きっとショック死だけはないのが救いでしょうか。
 残り僅かのお祭、頑張ってください!

ありがとうございました〜 未生(管理人)

2012/10/07(Sun) 21:54 No.138
 本日やっと最高気温が20℃を下回りました。 北風が吹き、日蔭は肌寒く感じました。 けれど、例年の今時期はもう少し厚手の上着を羽織っているよな〜とか 思ってしまいました(苦笑)。

ネムさん>
 まだ28℃ですか! それでも梨や柿や早生蜜柑が出回るところが秋ですね〜。 私も最近は林檎や葡萄を楽しんでおりますよ。
 頭の壊れたようなお話をお楽しみくださってありがとうございます〜。 いやぁ、ありそう! 景王像!  天帝や西王母よりも真剣に祈られていそうで可笑しいです! 
 う〜ん、雁も大変ですが、おっしゃるとおり戴も大変そう!  色々想像してみたら、どこの王宮もみんな大変そう……(苦笑)。 実権がほとんどない清漢宮ののほほん官吏が案外一番幸せだったりして。

饒筆さん>
 労いのお言葉をありがとうございます。最後まで頑張ります〜。
 そして、いつもながらの面白妄想、つい吹き出してしまいました。 特に2が(笑)。 確かに怜悧な冢宰はここぞとばかりに暗躍しそうな感じでございますね〜。

瑠璃さん>
 さすが南国、10月は暑いのですね〜〜〜! そしてまだ蝉が!  北の国ではキリギリスもコオロギももう……(苦笑)。
 はい、雁の官吏の皆さま、仙ですから、 卒倒して少し瘤を作るくらいで済むではないかと(笑)。私も健闘を祈りたいです。
 残り僅かな祭の時間を最後までお楽しみいただけると嬉しく思います。 労いのお言葉をありがとうございました〜。
背景画像「空色地図 -sorairo no chizu-」さま
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