「管理人作品」 「祝8周年激白祭」

黄海夜話 @管理人作品第4弾

2013/10/03(Thu) 16:30 No.74
 皆さま、こんにちは。いつも祭に拍手をありがとうございます〜。
 最近の北の国、妙に暖かい日が続いております。 最低気温は20℃に近く、最高気温も夏日になりそうな勢い。 寒さに耐性がついた体には暑いくらいでございます(苦笑)。 取り敢えず、しばらくはストーブのお世話にならなくて済みそうでございます。

 さて、管理人は久々に小品を仕上げました。 図南発売記念、というわけでもないのですが、 一度書いてみたかった方に語っていただきました。 地味なお話ですが、お暇潰しにどうぞ。

黄海夜話

2013/10/03(Thu) 16:34 No.75
「おかえりなさい!」
 里に戻ると小童たちが走ってきた。近迫は手を挙げてそれに応える。まだ修行中の身の上で、黄海の外を知らない小童たちは、時折戻ってくる剛氏や朱氏を待ちかねているのだ。それが分かっているからこそ、近迫は破顔して、あとでな、と声をかけた。
 ひと仕事を終えて戻ってきた剛氏のために、ささやかな宴席が設けられた。黄海でしばしの安全をくれる里に感謝して贈った物資にて、ご馳走ともいえる料理が振る舞われる。近迫は笑顔でその歓待を受けた。
 卓子に並べられた皿が空になっていく。いつの間にか、近迫の周りには小童たちが集っていた。その期待に満ちた円らな瞳。近迫は笑みを浮かべ、土産話を始めた。
 小童に人気の話は、もちろん朱氏を剛氏がわりに引っ張り出して昇山した少女の物語。麒麟に迎えられ、望みどおり王となった少女は、近迫にとっても懐かしい存在だった。
 小童たちは近迫の語りに耳を傾ける。何度も聞いているはずなのに、少女が妖魔と対峙する場面では決まって固唾を呑む。そして、麒麟が迎えに来たところでは大きな歓声を上げるのだ。
「あのなあ、お前たち。嬢ちゃんの話ばかり喜んでるんじゃねえぞ。あくまでも鵬翼に乗った旅は楽だという教えなんだからな」
 語り終えた近迫は呆れ顔で諭す。分かってるよ、と小童たちは笑いさざめいた。やれやれ、と言いつつも、近迫は小童たちに温かな眼差しを注ぐ。
 黄朱の里に王はいない。黄朱は王を必要としない。それでも、昇山の旅を手助けする剛氏は、時に鵬雛と巡り合う。人と違う輝きを放つ、王と呼ばれるようになる者に。近迫が出会った供王の卵も、そんな眩しい光を纏っていた。
 雇った朱氏と喧嘩別れした後も、少女は妖魔の襲撃で主に見捨てられた随従たちを率いて旅を続けた。その上、危険な妖魔まで狩ってしまい、麒麟に選ばれて王となったのだ。まるでお伽噺のようなこの話を、近迫はずっと語り続けていくのだろう。しかし。
 秘められた後日譚を思い浮かべ、近迫は笑む。黄海で狩りをするのは黄朱だけではないのだ。

 自分はこれから王宮に巣食う妖魔を狩るのだ、と主張する鵬雛は、笑みを浮かべながらも真摯な眼を向けていた。

(祈りは真実の声でなければ届かないのよね。心からお願いするわ。手を貸して)

 騎獣を狩るはずの朱氏が、王に狩られて連れていかれた。たいしたもんだ、と近迫は今なお思う。騎獣が好き、朱氏になりたい、と言った少女は未だ玉座にいるようだ。いったいどんな王になっているのやら。無論、その後の朱氏の噂も聞こえてはこない。

 どうしたの、と声をかけられて、近迫は我に返る。なんでもない、と小童たちに笑みを向けた。古老たちも、こんなふうに近迫を見ていたのだろうか。ふとそう思った。語り継がれた逸話の他に、語り得なかった秘話があったのかもしれない、とも。そして。
 命があれば、いつかこの里で、こいつらの帰りを心待ちにする日が来るのかもしれない。そう思いながら、近迫は別の話を語り出したのだった。

2013.10.03.

後書き

2013/10/03(Thu) 16:47 No.76
 図南に出演していた剛氏の近迫にご登場願いました。 いつか、古老として鵬翼に乗った旅を語り継いでほしいとの願望を昇華してみました。 王を必要としない黄朱にとっても、 珠晶は印象的な人物であったと私は信じております(笑)。
 いつか、頑丘が真君に会った話を聞かせてあげたいなぁ、 なんて野望を抱いていたりいたします〜。
 お粗末でございました。

 皆さまの激白、まだまだお待ち申し上げております。

2013.10.03. 速世未生 記

読み返そう。 瑠璃さま

2013/10/03(Thu) 22:53 No.77
 こちらは最低気温が22℃くらいなんですが、それだと肌寒く感じるんですが(笑)。

 子供たちにとってお土産話はいつだってとても楽しみなものなんでしょうね。 そうやって聞かされていくお話の中から、 楽しみながらも大切なことを学びとっていくのでしょう。 穏やかな雰囲気に和みます。

 新装版の図南、買ったまま読んでいなかったんですが、急に読みたくなりました。 野望達成を待ってますv

伝説の地ですものねえ… 饒筆さま

2013/10/04(Fri) 00:17 No.80
 確かに、黄朱の里、行ってみたいですね〜まさに秘境!
 そして近迫おじちゃんのお話に「初対面の台輔にビンタ」のオチは ついているのでしょうか?  いや、むしろ、口から口へ伝わるうちに尾ひれがついて 大変なネタになっていたりして……(笑)

 数多の昇山者たちを送ってきた剛氏なら、 きっといろんなドラマや人生訓を持っているのでしょうねえ。 私もおじちゃんのお話を聞きたいなあ〜。 ほのぼの幸せな後日譚をありがとうございます(ほっこり)

ありがとうございます! 未生(管理人)

2013/10/04(Fri) 16:07 No.83
 皆さま、こんにちは〜。いつも祭に拍手をありがとうございます!
 暖かいと申し上げたところ、一気に気温が下がりました。 本日の最低気温は8.7℃、この秋2番目の冷え込みだそうでございます。 最高気温も18.6℃。 そろそろ洗濯物を取りこまないと湿気ってしまいそう(苦笑)。

瑠璃さん>
 うわ、さすが南国、北の国の最高気温よりも高い最低気温でございますね〜。 体の仕様が違っても仕方のうございますね(苦笑)。
 厳しい黄海に暮らすからこそ、 こんな折に穏やかな非日常を感じてほしいとの願いを籠めました。 近迫の土産話をお楽しみくださりありがとうございます。
 このお話を書くにあたって図南を拾い読みする予定ががっつりハマって読みました(笑)。 どうぞ再読してみてくださいませ!

饒筆さん>
 黄朱の里、もっと書きこみたかったのですが、どんどん話が逸れてしまいまして、 削ぎまくりました(笑)。 おじちゃんの話をお楽しみくださりありがとうございました!
 恐らく「初対面の台輔にビンタ」は箝口令が下されたと思います。 もし広まったら、 尾ひれ背びれ胸びれまでついて大変なことになってしまうでしょうね〜(笑)。

 周年祭らしいマニアックなマイナーキャラへの激白に 温かなご感想をありがとうございました〜。

もし あれば ネムさま

2013/10/06(Sun) 22:55 No.92
 十二歳で昇山したというのも破格なら、剛氏達さえ避ける妖魔を倒した王というのも、 滅多にいないのではないでしょうか。
 黄朱の里にはこんなお話がたくさん伝わっているんですね。 そしてワクワクしながら聞いて育った子供達は、面白い話の中に、 黄海で生きる技と人として何が大事かが密かに伝えられていることを、 何時か知るのでしょう。
 黄海の伝説集があれば是非読みたいですね。 でも大切なことは近迫のように秘められるような…想像力を掻き立てられる設定です!

ありがとうございます〜 未生(管理人)

2013/10/07(Mon) 16:48 No.101
ネムさん>
 捏造黄海夜話をお楽しみくださりありがとうございました。 図南で古老が近迫に語った話というのが気になってなりません。 黄海伝説集、私も読んでみたい〜!
 妄想を誘うご感想をありがとうございました。
背景画像「篝火幻燈」さま
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