頑朴哀歌@管理人作品第5弾
2013/10/05(Sat) 16:06 No.85
皆さま、こんにちは。いつも祭に拍手をありがとうございます〜。
本日の北の国、最低気温は10.3℃、最高気温は22.2℃と、
一気に黄葉が進みそうな温度差となりました。
実際、いつもの坂道には既に黄色い葉っぱが舞っております。
林を渡る風に揺れる葉擦れの音も乾いていて、秋の深まりを感じます。
皆さまがお住まいの地域は如何でございましょうか。
さて、ラストスパート中の管理人は漸く激白第5弾を仕上げました。
夏のアンケートでコメントをいただいてからずっと書きたかった驪媚のお話でございます。
原作引用のシリアスにつき、苦手な方はご覧にならないでくださいね〜。
- 登場人物 驪媚・六太
- 作品傾向 シリアス(原作引用注意!)
- 文字数 1684文字
頑朴哀歌
2013/10/05(Sat) 16:11 No.86
頑朴城に捕えられて二ヶ月が経とうとしていた。頑朴の西には既に王師が到着し、陣を張っている。無論、元州側も王師を迎え討つべく頑朴城下に州師を集結済みだ。戦端が開かれるのは時間の問題だった。
毎日気儘に城内を徘徊しては戻る宰輔が、牢から出られない驪媚に状況を語って聞かせる。そんな宰輔は、相変わらず飄々としているようで、かなり憔悴して見えた。無理もない。麒麟は仁の生き物、慈悲深く、血を厭う。二ヶ月側近くに控えた驪媚は、それが理解できるようになっていた。
なんとか戦を止めなければならない。しかし、宰輔は首謀者斡由を説得できずにいる。かといって、赤索条に縛られたままでは王師の許へ交渉に行くこともできない。今、何ができるだろう。黙して爪を噛む宰輔の物思いを推し量り、驪媚は小さく息をついた。意を決し、腕に赤子を抱いたまま、居ずまいを正す。そして、驪媚は宰輔の前に向き直った。
麒麟でありながら、宰輔は己が選んだ王を軽んじる。莫迦と言って憚らない。驪媚にはそれが理解し難かった。王は無能ではない。驪媚は勅命を受けたときのことを忘れたことはなかった。一国の王が、一介の官吏に頭を下げてくれた、あの日のことを。
切々と語る言葉にも、宰輔は心動かさない。ただ、尚隆は暴君じゃない、と言っただけだった。宰輔は、王の存在自体を忌んでいるのだ。驪媚は言葉を失った。
麒麟は民意の具現、と聞いたことがある。王を選ぶ役目を担う麒麟が王を忌諱する、それは、民が王を忌んでいるということなのだろうか。現に斡由は麒麟と王の意義を否定し、権の移譲を王に求めた。元州は、斡由を望んでいる。そのとき、驪媚の背筋に戦慄が走った。
食い違っている。
改めてそう思った。王そのものを忌諱する宰輔、現王を否定する斡由、これで交渉が成立するはずはない。
驪媚は長き空位の惨状を思い出す。梟王が三年で荒廃せしめた地は、王が斃れた後、これ以上ないくらいに荒んでいった。天変地異が収まり、緑が増えたのは、新王が登極したからだ。型破りで鷹揚な新王は、周囲を驚かせながらも着実に国を整えていった。
(特に指示があること以外は長いものに巻かれていろ)
主命が胸に響く。元州に派遣されて以来、驪媚は忠実にその命を守っていた。指示どおり報告を欠かさず、捕えられるときにも敢えて抵抗はしなかった。
王師は自ら動かない。それは当然だろう。元州は宰輔を押さえている。宰輔が害されれば、即ち王もまた遠からず斃れるのだから。今、斡由がそこまで度を失っているとは思わない。しかし、これから先はどうだろう。
宰輔を解放しなければならない。戦となれば数多の血が流される。それを知っていてすら、麒麟である宰輔は目の前の女子供の命を惜しむのだ。
驪媚は腕の中の赤子を一瞥する。山羊の乳で腹を満たし、すやすやと眠る赤子は二ヶ月分重くなった。その寝顔は愛らしい。しかし、この小さな命が宰輔を縛っていることは確かだ。そして、それは己自身も同様である、と驪媚にはよく分かっていた。
驪媚は健やかに眠る赤子に胸で話しかけた。ごめんなさい、あなたを守ってあげられなかった。それでも、この命を惜しんでくれた人々のために、動かずにはいられない。覚悟はとっくに決めている。済まない、という主の沈痛な声を聞いたあの時に。
天命を受けた宰輔が王を忌んでも、天意を否んだ官吏が権を望んでも、この世は王を求めている。王こそが国を統べ、地と民に安寧を齎すのだ。新王登極は雁国民の悲願であった。だからこそ、たった二ヶ月で王師が頑朴までやってくるのだ。宰輔を攫った逆賊を、空位の苦難を知る雁国民が許すはずもない。少なくとも、驪媚は許さない。だからこそ。
王を守るために宰輔を解放する。宰輔の枷を外してみせる。驪媚は膝から赤子を下ろした。微笑んで立ち上がり、背後に回る。そうして宰輔に告げた。天意を受け、宰輔が選んだのは、延王尚隆である、と。未だ逡巡する宰輔の頬に触れ、驪媚は最期の声を発した。
「――宮城にお帰りくださいませ」
そして、王を、国をお守りくださいませ。
意識が途切れるそのときまで、驪媚はそう祈り続けた。
2013.10.04.
後書き
2013/10/05(Sat) 16:28 No.87
今回、一番再読した原作は「東西」と「図南」でございます。
「図南」での利広の「王は臣下の理屈を超越せねばならない」との言に、
何故か「東西」での尚隆を思い浮かべてしまいました。
驪媚の行動は正に臣下のもの。
そして、尚隆はそれを止めたかったのだろうな、としみじみ思いました。
ということで、
このお話は驪媚と管理人のかの方への激白ということになるでしょうか。
夏のアンケートにて驪媚にコメントをくださったお二方、ありがとうございました。
祭もあと3日となりました。皆さまの激白をお待ち申し上げております!
2013.10.04. 速世未生 記
ご感想御礼 未生(管理人)
2013/10/07(Mon) 17:13 No.102
最近、自分を見失っていたような気がいたします。
何も考えずに書き連ねていた頃に比べ、考え過ぎていたような気も……。
結局は、その時書きたいものを書くしかない、
と開き直って漸く仕上げた作品でございます。
実は出すことも少し躊躇っておりましたので、
ご感想をいただけて大変嬉しゅうございました。
senjuさん>
原作引用捏造過多のシリアス小品をお気に召していただけて嬉しく思います。
ありがとうございました!
ひめさん>
お声を上げていただけて嬉しゅうございます。
お気に召してくださってありがとうございました!
ネムさん>
いつもながら胸に響くお言葉をありがとうございます。
上手く返せない自分がもどかしいです……。
抑えた激白を受け止めていただけて嬉しゅうございました。
饒筆さん>
そうなのです、「図南」を読みながら「東西」を思い浮かべたのは
「黄朱は王を必要としない」という頑丘の言葉を聞いたからだと思います。
ご感想をありがとうございました。