遅ればせながら…
桜祭の開催おめでとうございます。そして本当に今までありがとうございました。
駆け込み投稿、失礼します。
登場人物:モブ×2
作品傾向:シリアス
文字数:3915文字
光、満つ。
篝
2019/05/26(Sun) 22:55 No.705


――生まれてくることの出来なかった生命は、一体どこへいくというのだろうか。光を掴み損ねた後は一体何が残るというのか。その答えは誰にも解らない。
*
朝の畑仕事を終え、女は一息つく。ひび割れた指先に食い込んだ泥をこすり落としながら、手巾で流れ落ちる汗を拭う。
髪の毛に白いものこそ混じってはいないものの、動作の一つ一つをとっても動きはぎこちないし、年々身体の節々が痛くなってきている。しかし、こればかりはしようがないと、生きて食っていくにはこれと上手く付き合っていくしかあるまいと、屈めていた身体を起こし、ぐっと腰を伸ばして暫くその姿勢でいる。気の持ちようかもしれないが、こうすると心なしか動きが良くなるような気がするのだ。そうしてから一歩一歩踏み締めるようにして畑から家へと戻る。
今日は雨が降りそうな気配もなくからっとした天気で気持ちがいいし、道具やら何やらを少し風に通そうかと、軒先で細々としたものを整理していれば聞き慣れた声が表の方から聞こえた。
「おはよう。畑の方?」
「ああ、悪いけど回ってくれるかい?」
「はーい」
ざりざりという足音と共に現れたのは四、五軒先の住人であった。自分よりは十近く年は下のはずだ。しかし何故だか不思議と気が合い、気兼ねなく家に出入り出来るくらいには仲良くなった。そんな彼女が脇に抱えるのは幾ばくかの野菜が入っているであろう小さな籠。
「回ってもらっちゃって悪いね」
未だ疲労が抜けず立ち上がるのも億劫で地べたに座りながらの会話であったが、それを気にするような間柄ではなかった。
「気にしないでこれくらい。さて、と。今日はこんな感じかしら」
そう言いながら籠を地面に下ろし中身を見せてくる。その中には少量の青菜が二種類。
「こっちはこんな塩梅だよ」
手近にあった籠をずりずりと引き寄せながら、こちらも同じように籠の中身を見せると、そこには女性の片手でも覆えそうな小さな芋が五、六個ばかり。一緒に籠の中を覗き込み、顔を上げた途端見合わせ「ははっ」と笑い合う。
「いや、笑ってる場合じゃないのは分かってるんだけどね」
「いやあ、お互いかつかつもいいところだ」
「や、でも、これでも良くなった方だよ。前は菜っ葉なんか虫食いだらけで食べられたもんじゃなかったのに、一応食べられるし」
「そうそう、うちの芋もほんとに小石みたいなもんで、食べるとこなんてどこにあるんだい?てなもんだったのに、一応食べられるし」
互いに同じ文句で台詞を締めくくって、そしてまたひとしきり笑う。
「それもこれも新しい王様が立ってくださったおかげだね」
「そうそう。ほんにありがたいこった」
「さて、今日はどれくらい要り様?」
「そうだね、二三束貰うかな」
「そんなものでいいの?もう少し持っていきなよ」
「いいんだよ、うちは私一人だし」
「そう?」
彼女から気遣わし気な視線が飛んでくるも、ゆるゆると首を振ってやんわりと断りを入れる。
「それよりも、ほら。芋はどれくらい要るのさ?」
「んー。二、三個貰おうかな」
「もう一つ持っていきな」
「でも…」
「私が食べる分はちゃあんと取ってあるし、気にしないし」
「ありがと」
「いつかそのうち、籠いっぱいになる程、芋ができる時がきっと来るよ。そしたら気兼ねなく貰っておくれ」
「うんっ。うちの菜っ葉だって、きっと売るくらいたっくさんできるし、いつかとびっきり美味しいのを食べさせてあげるんだから」
「ふふっ、楽しみにしてる」
先王の時代に荒廃したこの国を、お偉い方々が正しい方に導いてくれるといっても正直よく分からなかった。元々学は無かったし、ようやく今の落ち着いた生活を手に入れても学ぶ場もなければ、学ぼうという気力もとうに失せていた。ただただその日を生きていくだけで精一杯で、気がつけばもうこんな年齢であった。
分かるのは、新王が立って、妖魔が出なくなって、天候が安定している。ただそれだけ。しかしそれだけで十分であった。新しい芽が出てくれれば次に繋がる。田畑から安定した収穫が見込めれば生きていける。それがどれだけありがたいことか。
国が良くなってきていると言われても、いまいち実感が沸かないが土地の状態や収穫物が良くなってきている事は確かであった。
「そう言えば聞いた?」
「何をさ」
そう問い掛ければ、いい加減立っているのが辛くなったのだろう、彼女も壁にもたれかける様に座り込みながら再度会話を続ける。
「今度ね、《さくら》って植物が植えられるんだってさ」
「《さくら》?」
「そう。《さくら》」
「聞いたことないな」
「でしょう?うちの人もお隣さんから聞いたらしいけど、いまいちよく分からなくって」
「こういう御触れが出た時、やっぱりきちんと読み書き出来れば良かったと思うよ…」
「でもその為に閭胥がいるんじゃないの?」
「それもそっか。それにしても《さくら》か。どんなのだろうね。食べられるのかな」
「うぅん、どうだろう。なんか工芸品がどうのこうのとか言ってたみたいだし、食べられないんじゃないかなあ」
「えぇ……。それじゃあ何の為にお願いしたんだろうね、王様は」
「さあ、偉い方の考えることは私達には解らないよ」
「でも、さ。一度くらいはお目にかかってみたいね、その《さくら》ってのに」
「ね。工芸品に使われるような代物なんてうちらには縁が無いだろうし、いっぺん拝んどきたいね」
ははと笑い飛ばしながらまだ見たこともない《さくら》を拝むような素振りをする。その後も他愛のない話を取り留めも無く続けていたが、ふいに彼女が真剣な目でこちらを見つめていた。
「そういえばさ、この間の話なんだけれども…」
「またその話かい?」
「だってさ、本当に良い話なんだよ。大きな畑を持っていて、馬や牛だって持ってるっていうじゃないか」
「だから言ったろう?私はもう誰とも一緒になる気はないって」
「でも…!」
「でもも何もあったもんじゃないよ。……多分、さ、落っことしてきちまったんだよ」
「……何を?」
己の曖昧な言い方に怪訝そうな表情をする彼女をよそに、訥々と言葉を続ける。
「いろんなもんをさ。誰かを想う心、慈しむ心、労わる心…。何かぽっかり穴が空いちまってるんだよ」
胸元を軽く叩くような仕草をしながら独り言ちるかのように零す。
「…よく分かんないよ」
「うん、言ってる私もよく分からないや。でもさ、これだけは言える」
「え?」
「私の好い人はさ、追放令が出た時に一緒になって逃げてくれたあの人だけなんだ。男のあの人はいくらでもこの国に残れたのに、お触れが出るや否や、お金に替えられる物は全部替えて一緒に逃げてくれたんだ。…まあ、道中風邪をこじらせて呆気なく逝っちまったけどね」
「そう、だったの…。事情も知らないのにあれやこれや言って悪かったね」
「ううん、話さなかったのは私だし」
少々気まずげな沈黙が続いた後、彼女は居ずまいを正してからすっくと立ち上がる。
「…それじゃあ、そろそろ帰るね。朝から長居してごめんね」
「気にしないどくれ」
「芋、ありがとう」
「こっちもありがとね」
籠を脇に抱えて立ち去る彼女の後姿を眺めていれば、急に立ち止まって振り返る。
「ねえっ…!また来てもいい?」
切羽詰まった声色に思いつめた表情、どうやら先程の話で余程悪い事を聞いてしまったと気に病んでいるのだろう。
「ああ。勿論私もそっちに行くからね」
「…ありがとう!じゃあね」
今度こそ踵を返して足早に出ていく彼女の足音を遠くに聞きながら、ずるずると壁にもたれ掛けぼんやりと空を見上げる。
――嘘は言っていないけれども、本当のことを全部言っている訳でもない。
「…ごめん」
樹々の騒めきに掻き消されそうな程小さな小さな声でぽつりと呟くのであった。
*
女一人、確実に生きて食っていくならば、この手の話を受けない道理はない。しかし、一度引き受けてしまえばどうしても背けようのない事実がそこにはある。相手は子を成したいからこそ、この話が出るという事実が。――そしてそれがどうしようもなく耐え難いのだ。
かつて掴み損ねた光があった。
十月十日、あと少しあと少しというところで、その希望は潰えた。
蝕ばかりは仕方がないと、こればかりは天にだって分かりはしないと、二人して互いに言い聞かせたし納得しようともしたけれども、身体は正直で二人とも三日三晩寝込んで泣き暮らした。田畑の被害も頭を抱える事案であったが、この手で卵果をもいでやれなかった事の方がはるかに苦痛であった。
男の子だったろうか、女の子だったろうか、はたまた半獣だったやもしれない。それでも、それでも。
それ以来、子を願うのが怖くなった。また同じ事が起こるかもしれないと。そしてまた同じ絶望の淵の立つのは二度とごめんであった。
無事にもいでやってすくすくと育っていれば今頃十六、七だったろうか。
「…十六、七か。もうそんなに経ったんだ」
十六、七。最近どこかでこの数字を頻繁に耳にしているような気がするがどこでだったか。
「ああ、そうだ。新しい王様」
十六、七の若い娘。いつまでも年をとることのない永遠の少女王。そして胎果。
ふと頭によぎった。
こんな事を思う事すら不敬かもしれないが、かの王を自分の子だと思って生きていきたいと思うのは、浅ましい願いだろうかと。この世のからくりはよく解らないけど、胎果というのは元々はこちらの生まれだという。自分が親かもしれないし、そうじゃないかもしれない。それでも胸の内で思うだけだから、どうか許してほしい。
女は気がつけば地面に仰向けになるように寝転がっていた。降り注ぐ陽の光を掴むかのように右腕を差し伸ばす。やわやわと右手を動かしたその時、薄紅色の花びらが一枚、ふわりと見えたような気がした。
*
朝の畑仕事を終え、女は一息つく。ひび割れた指先に食い込んだ泥をこすり落としながら、手巾で流れ落ちる汗を拭う。
髪の毛に白いものこそ混じってはいないものの、動作の一つ一つをとっても動きはぎこちないし、年々身体の節々が痛くなってきている。しかし、こればかりはしようがないと、生きて食っていくにはこれと上手く付き合っていくしかあるまいと、屈めていた身体を起こし、ぐっと腰を伸ばして暫くその姿勢でいる。気の持ちようかもしれないが、こうすると心なしか動きが良くなるような気がするのだ。そうしてから一歩一歩踏み締めるようにして畑から家へと戻る。
今日は雨が降りそうな気配もなくからっとした天気で気持ちがいいし、道具やら何やらを少し風に通そうかと、軒先で細々としたものを整理していれば聞き慣れた声が表の方から聞こえた。
「おはよう。畑の方?」
「ああ、悪いけど回ってくれるかい?」
「はーい」
ざりざりという足音と共に現れたのは四、五軒先の住人であった。自分よりは十近く年は下のはずだ。しかし何故だか不思議と気が合い、気兼ねなく家に出入り出来るくらいには仲良くなった。そんな彼女が脇に抱えるのは幾ばくかの野菜が入っているであろう小さな籠。
「回ってもらっちゃって悪いね」
未だ疲労が抜けず立ち上がるのも億劫で地べたに座りながらの会話であったが、それを気にするような間柄ではなかった。
「気にしないでこれくらい。さて、と。今日はこんな感じかしら」
そう言いながら籠を地面に下ろし中身を見せてくる。その中には少量の青菜が二種類。
「こっちはこんな塩梅だよ」
手近にあった籠をずりずりと引き寄せながら、こちらも同じように籠の中身を見せると、そこには女性の片手でも覆えそうな小さな芋が五、六個ばかり。一緒に籠の中を覗き込み、顔を上げた途端見合わせ「ははっ」と笑い合う。
「いや、笑ってる場合じゃないのは分かってるんだけどね」
「いやあ、お互いかつかつもいいところだ」
「や、でも、これでも良くなった方だよ。前は菜っ葉なんか虫食いだらけで食べられたもんじゃなかったのに、一応食べられるし」
「そうそう、うちの芋もほんとに小石みたいなもんで、食べるとこなんてどこにあるんだい?てなもんだったのに、一応食べられるし」
互いに同じ文句で台詞を締めくくって、そしてまたひとしきり笑う。
「それもこれも新しい王様が立ってくださったおかげだね」
「そうそう。ほんにありがたいこった」
「さて、今日はどれくらい要り様?」
「そうだね、二三束貰うかな」
「そんなものでいいの?もう少し持っていきなよ」
「いいんだよ、うちは私一人だし」
「そう?」
彼女から気遣わし気な視線が飛んでくるも、ゆるゆると首を振ってやんわりと断りを入れる。
「それよりも、ほら。芋はどれくらい要るのさ?」
「んー。二、三個貰おうかな」
「もう一つ持っていきな」
「でも…」
「私が食べる分はちゃあんと取ってあるし、気にしないし」
「ありがと」
「いつかそのうち、籠いっぱいになる程、芋ができる時がきっと来るよ。そしたら気兼ねなく貰っておくれ」
「うんっ。うちの菜っ葉だって、きっと売るくらいたっくさんできるし、いつかとびっきり美味しいのを食べさせてあげるんだから」
「ふふっ、楽しみにしてる」
先王の時代に荒廃したこの国を、お偉い方々が正しい方に導いてくれるといっても正直よく分からなかった。元々学は無かったし、ようやく今の落ち着いた生活を手に入れても学ぶ場もなければ、学ぼうという気力もとうに失せていた。ただただその日を生きていくだけで精一杯で、気がつけばもうこんな年齢であった。
分かるのは、新王が立って、妖魔が出なくなって、天候が安定している。ただそれだけ。しかしそれだけで十分であった。新しい芽が出てくれれば次に繋がる。田畑から安定した収穫が見込めれば生きていける。それがどれだけありがたいことか。
国が良くなってきていると言われても、いまいち実感が沸かないが土地の状態や収穫物が良くなってきている事は確かであった。
「そう言えば聞いた?」
「何をさ」
そう問い掛ければ、いい加減立っているのが辛くなったのだろう、彼女も壁にもたれかける様に座り込みながら再度会話を続ける。
「今度ね、《さくら》って植物が植えられるんだってさ」
「《さくら》?」
「そう。《さくら》」
「聞いたことないな」
「でしょう?うちの人もお隣さんから聞いたらしいけど、いまいちよく分からなくって」
「こういう御触れが出た時、やっぱりきちんと読み書き出来れば良かったと思うよ…」
「でもその為に閭胥がいるんじゃないの?」
「それもそっか。それにしても《さくら》か。どんなのだろうね。食べられるのかな」
「うぅん、どうだろう。なんか工芸品がどうのこうのとか言ってたみたいだし、食べられないんじゃないかなあ」
「えぇ……。それじゃあ何の為にお願いしたんだろうね、王様は」
「さあ、偉い方の考えることは私達には解らないよ」
「でも、さ。一度くらいはお目にかかってみたいね、その《さくら》ってのに」
「ね。工芸品に使われるような代物なんてうちらには縁が無いだろうし、いっぺん拝んどきたいね」
ははと笑い飛ばしながらまだ見たこともない《さくら》を拝むような素振りをする。その後も他愛のない話を取り留めも無く続けていたが、ふいに彼女が真剣な目でこちらを見つめていた。
「そういえばさ、この間の話なんだけれども…」
「またその話かい?」
「だってさ、本当に良い話なんだよ。大きな畑を持っていて、馬や牛だって持ってるっていうじゃないか」
「だから言ったろう?私はもう誰とも一緒になる気はないって」
「でも…!」
「でもも何もあったもんじゃないよ。……多分、さ、落っことしてきちまったんだよ」
「……何を?」
己の曖昧な言い方に怪訝そうな表情をする彼女をよそに、訥々と言葉を続ける。
「いろんなもんをさ。誰かを想う心、慈しむ心、労わる心…。何かぽっかり穴が空いちまってるんだよ」
胸元を軽く叩くような仕草をしながら独り言ちるかのように零す。
「…よく分かんないよ」
「うん、言ってる私もよく分からないや。でもさ、これだけは言える」
「え?」
「私の好い人はさ、追放令が出た時に一緒になって逃げてくれたあの人だけなんだ。男のあの人はいくらでもこの国に残れたのに、お触れが出るや否や、お金に替えられる物は全部替えて一緒に逃げてくれたんだ。…まあ、道中風邪をこじらせて呆気なく逝っちまったけどね」
「そう、だったの…。事情も知らないのにあれやこれや言って悪かったね」
「ううん、話さなかったのは私だし」
少々気まずげな沈黙が続いた後、彼女は居ずまいを正してからすっくと立ち上がる。
「…それじゃあ、そろそろ帰るね。朝から長居してごめんね」
「気にしないどくれ」
「芋、ありがとう」
「こっちもありがとね」
籠を脇に抱えて立ち去る彼女の後姿を眺めていれば、急に立ち止まって振り返る。
「ねえっ…!また来てもいい?」
切羽詰まった声色に思いつめた表情、どうやら先程の話で余程悪い事を聞いてしまったと気に病んでいるのだろう。
「ああ。勿論私もそっちに行くからね」
「…ありがとう!じゃあね」
今度こそ踵を返して足早に出ていく彼女の足音を遠くに聞きながら、ずるずると壁にもたれ掛けぼんやりと空を見上げる。
――嘘は言っていないけれども、本当のことを全部言っている訳でもない。
「…ごめん」
樹々の騒めきに掻き消されそうな程小さな小さな声でぽつりと呟くのであった。
*
女一人、確実に生きて食っていくならば、この手の話を受けない道理はない。しかし、一度引き受けてしまえばどうしても背けようのない事実がそこにはある。相手は子を成したいからこそ、この話が出るという事実が。――そしてそれがどうしようもなく耐え難いのだ。
かつて掴み損ねた光があった。
十月十日、あと少しあと少しというところで、その希望は潰えた。
蝕ばかりは仕方がないと、こればかりは天にだって分かりはしないと、二人して互いに言い聞かせたし納得しようともしたけれども、身体は正直で二人とも三日三晩寝込んで泣き暮らした。田畑の被害も頭を抱える事案であったが、この手で卵果をもいでやれなかった事の方がはるかに苦痛であった。
男の子だったろうか、女の子だったろうか、はたまた半獣だったやもしれない。それでも、それでも。
それ以来、子を願うのが怖くなった。また同じ事が起こるかもしれないと。そしてまた同じ絶望の淵の立つのは二度とごめんであった。
無事にもいでやってすくすくと育っていれば今頃十六、七だったろうか。
「…十六、七か。もうそんなに経ったんだ」
十六、七。最近どこかでこの数字を頻繁に耳にしているような気がするがどこでだったか。
「ああ、そうだ。新しい王様」
十六、七の若い娘。いつまでも年をとることのない永遠の少女王。そして胎果。
ふと頭によぎった。
こんな事を思う事すら不敬かもしれないが、かの王を自分の子だと思って生きていきたいと思うのは、浅ましい願いだろうかと。この世のからくりはよく解らないけど、胎果というのは元々はこちらの生まれだという。自分が親かもしれないし、そうじゃないかもしれない。それでも胸の内で思うだけだから、どうか許してほしい。
女は気がつけば地面に仰向けになるように寝転がっていた。降り注ぐ陽の光を掴むかのように右腕を差し伸ばす。やわやわと右手を動かしたその時、薄紅色の花びらが一枚、ふわりと見えたような気がした。
いらっしゃいませ!
未生(管理人)
2019/05/27(Mon) 11:38 No.732


篝さん、今年もご参戦くださりありがとうございます。
もしかしてもしかして、この方が……! 作中でも多少触れられていた陽子主上のご両親。丁寧に記録を追っていけば解ると言われて首を振った陽子主上。でも、やはり両親は願った子供を失って消沈していたのだと教えてあげたくなりました。
あなたのお子がこれからの世を支えます。どうぞ楽しみにしていてください。こっそりそんなふうに声をかけたくなりました。
いつもながら沁みるお話をありがとうございました。
もしかしてもしかして、この方が……! 作中でも多少触れられていた陽子主上のご両親。丁寧に記録を追っていけば解ると言われて首を振った陽子主上。でも、やはり両親は願った子供を失って消沈していたのだと教えてあげたくなりました。
あなたのお子がこれからの世を支えます。どうぞ楽しみにしていてください。こっそりそんなふうに声をかけたくなりました。
いつもながら沁みるお話をありがとうございました。
いつか会える日を
文茶
2019/05/27(Mon) 15:28 No.738


「そうじゃなくても、そう思って生きていくーー」 昔のドラマで聞いた台詞を思い出しました。 もしかしたら王が自分の子......その思いだけでどんなに生きる力が湧いてくるでしょう。 陽子さんも里木を前にして感慨にふけるシーンがありましたよね。 たとえ認識はなくとも、何処かですれ違うことがあればいいなと思います。
温かいお話をありがとうございました。
温かいお話をありがとうございました。
王様は民の希望
お久しぶりです、篝さま。またお目にかかれて嬉しいです!
しみじみと胸に沁みる、陽だまりのようなお話ですね。
十二国の王様は国の「柱」であり民の「希望」……そうか、こういう形の希望にもなり得るんだなあと感嘆しました。
まさにうちの子だったかも、というパターンだけでなく、女人追放や戦乱の最中で娘を亡くした人々にも、治政や《さくら》を介して寄り添えたら良いなあ……
モブ女性さんの半生を追いながら深い味わいを堪能いたしました。ありがとうございました!
しみじみと胸に沁みる、陽だまりのようなお話ですね。
十二国の王様は国の「柱」であり民の「希望」……そうか、こういう形の希望にもなり得るんだなあと感嘆しました。
まさにうちの子だったかも、というパターンだけでなく、女人追放や戦乱の最中で娘を亡くした人々にも、治政や《さくら》を介して寄り添えたら良いなあ……
モブ女性さんの半生を追いながら深い味わいを堪能いたしました。ありがとうございました!
届きますように
篝さん、お久し振りです!
このお話に出てくる女性達は、字は読めなくとも、体で世界を受け止めているのですね。地の恵も、理不尽な悲しみも。
陽子が何を思って“さくら”を願ったかは分かりませんが、慶の民の幸福を祈っているというメッセージが含まれているのは確かでしょう。この女性が陽子の母親かは分からないけれど、確かに陽子の祈りを受け止めたのだと思います。
ラスト桜祭で篝さんの作品を読めてうれしかったです。ありがとうございました。
このお話に出てくる女性達は、字は読めなくとも、体で世界を受け止めているのですね。地の恵も、理不尽な悲しみも。
陽子が何を思って“さくら”を願ったかは分かりませんが、慶の民の幸福を祈っているというメッセージが含まれているのは確かでしょう。この女性が陽子の母親かは分からないけれど、確かに陽子の祈りを受け止めたのだと思います。
ラスト桜祭で篝さんの作品を読めてうれしかったです。ありがとうございました。
香りと色
葵
2019/05/28(Tue) 19:59 No.762


篝さま、こんばんは!大変ご無沙汰いたしておりますm(__)m
あなたさまの5個198円のティッシュ箱の包み紙・葵でございます。
篝様の文章には、いつも色と香りを感じます。小説というものは、書かない部分を多くするほどに優れたものになるということを聞きかじったことがありますが、まさに書いてあることの後ろにある膨大な書いていないことを想像する楽しみが読書の醍醐味ですよね。
このモブさんは陽子さんのママンかもしれず、そうでないかもしれず、ひとひらの花弁のみが何かを語ろうとする、奥深いお話を堪能させていただきましたm(__)m
あなたさまの5個198円のティッシュ箱の包み紙・葵でございます。
篝様の文章には、いつも色と香りを感じます。小説というものは、書かない部分を多くするほどに優れたものになるということを聞きかじったことがありますが、まさに書いてあることの後ろにある膨大な書いていないことを想像する楽しみが読書の醍醐味ですよね。
このモブさんは陽子さんのママンかもしれず、そうでないかもしれず、ひとひらの花弁のみが何かを語ろうとする、奥深いお話を堪能させていただきましたm(__)m
返信御礼
篝
2019/05/29(Wed) 00:11 No.780


未生さま>
はい、その「もしかしてもしかして…!」のつもりで書きました。
二人の世界が交わることはないかもしれませんが、彼女には陽子さんの生き様をずっとずっと見守っていってほしいです。
文茶さま>
そうなんです!本当は、互いに認識が無くとも街中で一瞬の邂逅が…なーんてシーンも考えていたのですが、力及ばず…。
あの時代を生き抜いた女性ですもの、思いの強さでは誰にも引けを取らないです、きっと。陽子さんが王である限り、頑張って頑張って生き抜いてくれそうです。
饒筆さま>
有難くも勿体ないお言葉の数々、恐縮です…!(そして書いた本人はそこまで深く考えていない阿呆の子です)
民の皆さんには子どもの成長を見守るのと同じように陽子さんの成長っぷりを見届けてほしいものです。
ネムさま>
この女性陣も《さくら》について「食べられるか否か」それしか言っておらず、陽子さんの意図、願いや祈りなんて何のその状態ですが、いつかきっと国中に《さくら》が根付いた時にはまた違う捉え方をするんだろうなと思っております。
葵さま>
葵さまの手にかかると、何だか拙作がとっても高尚なもののように見えてきますが、違うんです、皆さまの想像力に寄っかかっているだけなのです、はい。
あれも書きたい、これも書きたいと思うものの、言葉にしようとすると余計に何だかよく分からない代物に…今回は桜の花びらさんにお仕事してもらいました
(笑)
皆さま、温かいコメント、勿体ないお言葉の数々、ありがとうございました。
はい、その「もしかしてもしかして…!」のつもりで書きました。
二人の世界が交わることはないかもしれませんが、彼女には陽子さんの生き様をずっとずっと見守っていってほしいです。
文茶さま>
そうなんです!本当は、互いに認識が無くとも街中で一瞬の邂逅が…なーんてシーンも考えていたのですが、力及ばず…。
あの時代を生き抜いた女性ですもの、思いの強さでは誰にも引けを取らないです、きっと。陽子さんが王である限り、頑張って頑張って生き抜いてくれそうです。
饒筆さま>
有難くも勿体ないお言葉の数々、恐縮です…!(そして書いた本人はそこまで深く考えていない阿呆の子です)
民の皆さんには子どもの成長を見守るのと同じように陽子さんの成長っぷりを見届けてほしいものです。
ネムさま>
この女性陣も《さくら》について「食べられるか否か」それしか言っておらず、陽子さんの意図、願いや祈りなんて何のその状態ですが、いつかきっと国中に《さくら》が根付いた時にはまた違う捉え方をするんだろうなと思っております。
葵さま>
葵さまの手にかかると、何だか拙作がとっても高尚なもののように見えてきますが、違うんです、皆さまの想像力に寄っかかっているだけなのです、はい。
あれも書きたい、これも書きたいと思うものの、言葉にしようとすると余計に何だかよく分からない代物に…今回は桜の花びらさんにお仕事してもらいました
(笑)
皆さま、温かいコメント、勿体ないお言葉の数々、ありがとうございました。
尚、このお祭は個人の運営するもので、公的なものとは一切無関係でございます。
当サイト内の文章・画像等の無断転載はご遠慮くださいませ。
当サイト内の文章・画像等の無断転載はご遠慮くださいませ。
- JoyfulNote -