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(開催期間 03.20.〜05.28.)
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慶祝の花
ぐーーーーーこ 2019/05/15(Wed) 00:23 No.546 [拍手送信]

はじめまして。
こちらのすばらしい企画を目にし桜の季節に居ても立っても居られず、小説とは言えるほどのモノではないかもしれませんがひとつ話を書いてみました。ここで書き込むことではないかもしれませんが、十二国記で小説を書くのは初めての試みで原作との齟齬などがないか不安ですが、本年が最後の桜祭との事で思い切って…!
皆様の作品どれも素敵で、足元にも及ばないかと思いますが少しでも桜祭を盛り上げられたらうれしいです。
速世 未生様、毎年素敵な企画をありがとうございます。参加が遅くなってしまいましたが、まとめていただいてるこれまでの桜祭等楽しませてもらいたいと思います。
また、当方こういった掲示板への投稿からも久しく離れておりましたので投稿内容等に何かございましたらご指摘いただければ幸いです。

登場人物 陽子・景麒
作品傾向 しっとり
文字数  2071文字

慶祝の花
ぐーーーーーこ 2019/05/15(Wed) 00:24 No.547
陽子は天を仰ぐ。誰もいないその場所で。思いがけず見つけたこの場所だったが今では職務の合間に度々足を運んでいた。何もないこの場所が陽子にとっては心地よかった。しかし、そんな場所でも最近は木々達がひっそりと蕾をつけ、淡い花を開かせていた。
「やはりここでしたか、主上。」
金色の光が目に差し込む。彼もまた時間を見つけてはこの場所に来るようになった。特に用件があるわけでもなく、話す事柄もない。ただ、ふたりして腰をおろし風に当たるだけだった。膝を抱え、陽子は芳しい香りを届ける木を見つめ問う。
「ねぇ、景麒。こちらではあの木はどこにでもあるのだろうか?」
あちらとこちら。国政に必要な事については学んでいる陽子だったが、一般的常識においてはまだまだ疎い。
「あの木ですか。そうですね、私も蓬山と慶以外の国を見て回った事がありませんので分かりかねます。が、このように慶に生息しているのですから、近隣の国々にはあるのかもしれません。」
なるほど。確かに慶とあちらの気候は似ている気がする。であれば隣国、雁や巧には同じようにこの木があるのかもしれない。しかし、十二国といえどその地は広く、一国の中でさえ端と端では気候は大きく違ってくるものだ。ましてやここは雲海の上。肌に触れる空気ひとつとっても雲海の下とは随分違っているはずだ。実際確認してみないことには、慶の国内でも怪しい。

「品種改良ってわかる?」
唐突にそう訪ねた陽子は、早速おうむ返しに襲われた。
「いや、すまない。私も、詳しく説明できる訳ではないんだが、あちらではそういう物があったんだ。例えば…そうだな。暖かい時期にしかとれない作物を一年中、それこそ寒い時期にも収穫できるようにその植物の性質を変えるんだ。人の手によって。あちらではたくさん行われていて、味や収穫の量なんかも変えることが出来たのだけれど。」
科学というものの一端を景麒が理解できたかどうかは別として、その返答はこちらの法則で言えば至極当たり前の事だった。
「それは…どうでしょうか。植物、例えばそこにあるような名も知らぬ草花でさえ、天帝から我々が頂いたものになります。その草花の本質に対して何か我々が手を加えるということであれば、天帝がお許しになるかどうか。」
なるほど、と頬杖をつき陽子は雲海の遥か先を見据えた。この世界のすべては天帝から与えられた物なのだそうだ。景麒がいうよう足元の草や花でさえも。それに手を加えようという事は天帝のあり方に異を唱える事と同じ。天の理に反する。
「この木でどんな土地にも花を咲かせるようにする事はこちらでは難しそうだな。」
「ヒンシュカイリョウ…なるものはいたしかねると思いますが、主上が路木、天帝にお願い申し上げることはできます。どのような土地でもこの木のように花がつくような植物をいただきたいと。」
そういえば以前、李斎…わけあって慶国にやってきた泰国将軍の彼女が言っていた気がする。泰王が民のため天帝から植物をいただいたと。
「慶にも、天帝はくださるだろうか。」
「主上の思いを天帝がお聞きくだされば。しかし、主上がそこまで仰られるこの木には何かあるのですか。」
一見なんの変哲もないこの木。陽子からしても特出して何か意味があるわけではなかった。ただ、この木はなんとなく似ていたのだ。あちらでこの季節咲き誇っていた桜の木に。
「単なる思いつきだ。慶はまだまだ貧しいからこんな花なんかをと思うかもしれないけれど、街に降りたときにどこを見渡しても慶は寂しい気がして。それは何でだろうと思っていたのだけれど、こういうことなのかなって。」
そう言った陽子は立ち上がり庭園を見渡す。何もない庭園を。
「ここは何もないし誰かに整えられているわけではないけれど、決して寂しい場所だとは思わないだろう。それは、きっとこの草や花のおかげだと思うんだ。別にこの草や花が食料になるわけでも何か生活の役に立つわけではないから、こういうのは最低限の生活が出来るようになってから考えることなんだろうけど。緑は土地だけじゃなくて人の心が潤っている証拠なのかなって。だから、慶もそんな緑や花がたくさんある国にして、みんなが少しでもこの国を好きになってくれたらいいなって。」
景麒もまた立ち上がり足元を見た。何もないと思っていたこの場所も、主のその言葉ひとつでかけがえのない場所となった気がする。慶の国も民にとってこうなったらよいと。
「それで、この木の花によく似たものをあちらでは桜といって、よくお祝い事なんかで使っていた花なんだ。だからこの花が国中どこにでも咲くようになって、みんなも何の心配事もなく明日を迎えることが出来るようになったらいいなって。そして、この木が枯れることなく大きく育ってくれるようになれば、きっと慶も豊かになったって言えるんじゃないかな。」
そして慶よりも北の地へ行ってしまった彼にも、もしかしたら同じ場所で見ていたかも知れない彼にも、この花をいつか届ける事が出来たら。
「主上のお気持ち、皆に伝わる日が来るとよいですね。」
そう呟いた彼の言葉は、潮の香りと供にその花びらを雲へとなびかせた。
はじめまして!
饒筆 2019/05/16(Thu) 00:57 Home No.551
はじめまして、ぐーーーーーこさま。饒筆と申します。
とりたてて何もない二人だけの憩いの場で、穏やかな風に吹かれて四方山話をしている景主従……素敵ですね!
時間をかけて、お互いそこまで歩み寄ったのでしょうか。
それぞれ飾り気のない率直な会話と、辺りに漂う優しい温かさに心が解れました。

そして、品種改良という概念が無い、というくだりで「そうか!」と膝を打ちました。卵果システムの限界を見た気がしますね……
まあ、せっかくの機会ですから、綺麗な花が咲くだけでなく、花が散ったら大きくて甘いサクランボが生るとか、いっそサクラモチが生るとか、実も楽しめそうな木をお願いすればいいんじゃないかな、陽子さん!
心温まる御作をありがとうございました!
なるほど!
ぐーーーーーこ 2019/05/16(Thu) 21:20 No.552
饒筆様はじめまして。読んでいただいたうえ感想までいただき嬉しいです。

ふと陽子が見つけたあの手付かずの場所で、景麒も少しは気の効く返事が出来るようになっただろうかと思いながら書いてみました。そして陽子もまた景麒にはこう言った思い付き程度の事でもポツリ、と呟いて主従としての距離をまた一歩と縮めていってほしいです。

全ては卵果から生まれる世界ですのでやはり品種改良なんてもってのほかなのかなと。しかし、饒筆様の仰るとおり裏を返せばある意味で何でもありのシステムですね!遺伝子に捕らわれない訳ですから。そこに気づかれるとは…!
桜餅、ぜひ陽子さんには天帝にお願いするだけしてみてもらいたいです!案外こちらの法則でいうと突拍子もない物ですけど、いただけちゃったりして。
いらっしゃいませ!
未生(管理人) 2019/05/16(Thu) 23:10 No.553
 ぐーーーーーこさん、初めまして。ようこそ桜祭にお越しくださいました。初十二小説を当祭にご投稿いただけて嬉しく思います。管理人体調不良のため反応が遅くなりましたことをお詫び申し上げます。

 しっとり慶国主従の会話、楽しく拝見いたしました。もうすっかり慣れた頃でございますね。景麒の受け答えが誠実で好感が持てます。
 そうですね、路木に願えば叶う世界、品種改良は存在しないでしょうね。生真面目な陽子主上の考えににっこりいたしました。優しい主上の願いが現実になりますように。
 素敵なお話をありがとうございました。

 饒筆さん、先レスありがとうございました。
初めまして。
瑠璃 2019/05/18(Sat) 00:31 Home No.559
ぐーーーーーこさん、初めまして。瑠璃と申します。
なるほど!確かに品種改良はできなさそうです。でもこれから慶に桜が咲くんですね。
陽子さんと景麒とのやりとりの中で桜が誕生へ向かうなんて、とても素敵です。
十二国記のお話は初めてとのこと。こちらで拝読できて嬉しいです。ありがとうございます!
はじめまして!
文茶 2019/05/18(Sat) 20:16 No.564
ぐーーーーーこさま、はじめまして! 文茶と申します。
沈黙も心地よく感じるほど二人は打ち解けてきたのですね。 穏やかに流れる時間に月日を感じます。
陽子主上のこと、その樹を探すという名目で国中を散策してまわり、景麒に溜息つかれるという、いつもの!?二人を想像して心和みました^ ^
そして「緑は土地だけじゃなくて人の心が潤っている証拠」の台詞に深く頷きました。 一歩ずつ、一歩ずつ慶を豊かな国へ導いていく陽子主上にエールを送らずにいられません。
素敵なお話をありがとうございました!
祈り
ネム 2019/05/18(Sat) 23:39 No.572
 ぐーーーーーこさま、初めまして!ネムと申します。
 十二国記では初書きとのことですが、何ともほのぼのとした気持ちになりました。自然に手を加えることは天の理に逆らうけれど「真実の声」ならば祈りは届く世界なのですよね、ここは。(むしろあまり祈らなくても変えられる世界の方が怖いかも)陽子の祈りが景麒に伝わり、慶の皆に伝わる未来が見えるようです。
 すてきなお話を読ませて頂き、ありがとうございました!
皆様ありがとうございます。
ぐーーーーーこ 2019/05/19(Sun) 19:19 No.584
皆さんありがとうございます。
こんな急な参加者にもこんなによくしていただき、本当に嬉しいです。
初投稿にドキドキしておりましたが、思いきってあげて良かったです。最後までお祭り皆さんと共に参加させてもらいたいと思います!
まとめてのお返事すみません。また、感想等いただいているのに遅くなってしまい失礼しました。


>管理人未生様
はじめまして。Twitterのリツイでこちらの企画を知り、どなたでもと言う言葉に甘え参加させていただきました。
反応遅れなんてとんでもないです。こちらこそ、真夜中に投稿していますし、体調不良であればお体第一です!
今では天のありように疑問を持ち始めた陽子主上。それに加えあの性格ですから、路木に願う…というのはしないかもしれないなとも思いつつ、あちらにあった物を願って十二国に渡らせる事があっても良いのかもと思ったり。
桜祭、最後までたのしませてもらいますね!素敵な企画ありがとうございます。

>瑠璃様
瑠璃様はじめまして!反応いただけて嬉しいです!!
桜、是非慶国に咲いて欲しいなという思いで書いてみました。あちらに存在するのであれば他国に、無いのであればまずは慶から。そんな風にして桜=陽子といつまでも(考えたくはないですがその時が来てしまっても)慶の花になってくれたらなと思いました。

>文茶様
文茶様、はじめまして!
国中を散策する主上…。国が落ち着いたらやりかねないですね…。景麒がやれやれと使令を向かわせている風景が…(笑)
緑のくだり、お褒めいただき光栄です。やはり、自分が考えた一文でここがっ!と言われると恥ずかしさも多少ありますが、とても嬉しいです。
優しい主上の治世がどうか長く続きますように。

>ネム様
ネム様、はじめまして!
初書きで、十二国記そもそもが小説ということもあり幼稚さが目立つ文章となってしまいましたが、ほのぼのしてもらえたのであれば嬉しいです。
ネム様の仰るとおり私もこの話を書いていて品種改良について考えさせられました…。素晴らしい技術で我々も恩恵を受けているのですがふと立ち止まると恐怖を覚えますよね。何でもやろうと思えば変えられてしまうのですから…。倫理的に手を出していないだけであって。そういう面からしても十二国はやはりよく出来た世界だなぁと思います。
主上や景麒、慶国の皆にとってよい時代が続くことを私も祈っています!
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