初めまして。
初めまして。
素敵な桜企画に乗せられて、初めて十二国で二次小説を書いてみました。
皆様の素敵な作品や写真の中に混ぜ込んでいいのかわからないのですが、折角書いたので投稿します。
おかしな点がございましても、あたたかい目で見守っていただければ幸いです。
オリジナルキャラクターががっつり出張ってますのでご注意ください。
登場人物:オリキャラ・尚隆
作品傾向:ほのぼの…?
文字数:3616字
桜咲き、散る日がきても。
みお
2019/04/21(Sun) 22:50 No.374


今年も、春が来る。今年は、来るのだろうか。
彼女は日一日と暖かくなる空気の中、最後の布の水をはたき落としながら、一つ息を吐き出した。
あの風変わりな御仁は、この春は来るのだろうか。彼女は今日になって咲き乱れる予感を見せ始めた庭の桜に目を細める。ざわついている。そんなことを感じた。
ああ。これは――。彼女が内心口の端をあげた時。そこに、大きな影が重なった。雲の影には色濃く、また狭い。
「おや」
彼女は顔をあげて獣の腹を遠くに見た。今年は来たか、と独りごちる。
程なく、その背に一人の男を乗せた獣は彼女の眼前に降り立った。
「久しいな」
「数年に一度も来ないで常連顔されても困るよ」
長く黒い髪をざっくりと束ねた男が毛づやの良い騎獣を降りながら笑った。
「そう言うな。来たくても来れん事情があるのだ」
「好き勝手放浪してる奴がよく言うよ。で、此度は幾日泊まるんだい」
「三日程」
騎獣から荷を下ろしながら男は言う。彼女は了承と部屋の準備をする旨を伝えると、空になった籠を抱えて屋内へと向かう。
男はその小さな後ろ姿に目と口許を弓形にし、騎獣の首に頭を預けてふっと息を漏らした。
彼女が見えなくなると、男は慣れた手つきで厩へ愛獣を連れて行く。他に数頭の騎獣が既に繋がれていた。厩番へ手を挙げると、厩番は瞠目し、口角をあげて男へ近寄った。
「お久し振りです」
「そう言ってくれるのはお前だけだよ」
男が笑い混じりにそう言うと、厩番は声をあげて笑う。
「あの人、毎年来るか来ないか気にしてるのに」
「俺に会うと憎まれ口しか叩かんがな」
くつと男が笑うと、厩へ彼女が内戸からやって来た。
「たまにしか来ない奴になんて憎まれ口で十分だよ。愛想よくしてほしけりゃ毎年来るんだね。ほら、水だよ。どうせあんたのことだ騎獣に無茶させてんだろう」
繋がれた騎獣の前に水の張った盥を置く彼女に、男は尚もくつくつと笑いを溢す。
「お前も、余計なことくっちゃべってないでこれくらいの気を回しな。こんなんでも客だからね」
何年経っても変わらないこのやり取りに、心地よさを感じながら男は水に鼻面をつける騎獣の首を一撫でし、内戸から屋内に戻る彼女の後に続いた。厩番に、頼む、と言いおいて。
「いつもの部屋でいいね。先に荷物を置いてくるかい?」
彼女が受付の引出しから木札の付いた鍵を取り出してそのまま放り投げると、男はいつものことと顔色を変えずそれを受け取る。
「そうだな。すぐに戻るから飯を頼む」
「何がご所望だい」
「今時期で旨いものを」
「私の料理はどれも絶品だよ」
「知っている。その中でも、おすすめを」
「酒は」
「もちろん」
「愚問だったね」
彼女の言葉に男が笑いながら向かった馴染みの部屋は、窓を開くと目の前に庭の薄桃色が広がっている。
この部屋は、この時期の特等室だと、男は知っていた。彼がそこを好いてここに来るのだと、彼女も知っていた。
昔に比べて桜は立派になっている。あれが咲いているということは、まだ大丈夫だ。
薄く笑んで、男は身体を反転させて窓の縁に腰掛ける。桜咲く庭から入り込んでくる風が髪の毛をさらう。
「ああ。いい空気だ」
目を伏せて暫しその匂いを楽しんでから、男は旅装を解いた。
食堂で男が卓につくと、彼女はわざと音をたてて徳利をそこに置いた。
「すぐ一品めが出るからそれ呑んで待ってな」
そう言って背中を向けてゆっくり歩く彼女を、酒を舐めながら男は見つめる。
今年は来れた。そして、今年も彼女はいた。心の中で安堵する。
会う毎に小さくなってはいくが、それでも彼女は変わらず、ここにいる。
それがこの上なく男を安心させた。
気がつけば卓の上にはいくつもの料理が並べられ、酒も大分進んでいる。そして気が付けば、
「まったくあんたも物好きだね」
彼女が男の前に座っていた。
「何がだ?」
「こんな地方の街の何もない外れへ、数年に一度とはいえ何度も来るなんてさ」
「何もなくはないだろう」
盃に唇を寄せ男は言う。彼女はくつと笑った。
「そういやあんたはいつもそろそろ満開だという頃合いにやってくるね」
毎年日にちは前後するというのに、と彼女は続ける。
酷い年は十日以上咲き始めからずれたこともあった。前回と同じ日程に来ていれば蕾すら開いていない桜と対面するはずだった年も、綺麗に日程をずらして、やはり間も無く満開になろうという日に来た。
いつの頃からか、桜が男を待っている気さえしている。男が来るのを察して、急激に咲き出す。桜も生きているのだ。そんなことがあっても面白い。彼女はそう思っていた。事実の程は定かではないが。
「ここは気に入っているからな」
「どこから咲き具合を知ってくるんだか」
彼女は肩を竦め、男の徳利から自分の盃に酒を注ぐ。男は気にせずにそれを愉しそうに眺め、盃に残った酒を呷る。
「桜だけではない」
軽い音をたてて卓に置かれた男の盃にも彼女は酒を注ぐ。
「ここが、好きなのだ。俺は」
その言葉に彼女は視線をあげた。
「……奇特なやつだね」
「その言葉そっくりそのまま返すぞ」
「どういう意味だい」
「俺を、ずっと変わらずに迎え入れ続けている」
片頬をあげる男に、彼女は、ああ、と短く返す。
男が初めてこの舎館に訪れたのは五十年よりも以前だった。それは彼女が十の頃。次に会ったのは彼女が十三の頃。その次は十七、それから二十一、二十六。不定期に、しかし数年に一度は必ず顔を見せている。
今では男と初めて邂逅した時幼子だった彼女の腰は曲がり肉は落ち、すっかり年老いた。結婚をし、里木に子を願い、産まれ、その子にもまた子が出来た。
人生の階段を昇っていく彼女に対し、男は変わらなかった。姿が、五十年の間に全く。初めはただ純粋に老けない人なのだと思っていた。
違和感に気が付いたのは彼女が、三十三の年だった。二十三年経って尚、皺の一つも出来ない人間がおろうか。二十代の溌剌とした様を持ち続けることなど可能だろうか。
その時初めて、彼女は男が仙なのだと気が付いた。
心から驚いたものだ。しかし、彼女にとっては関係の無いことだった。
「立場がなんだってんだい。うちにくりゃただの客だよ」
盃の酒をチビりと舐めながら肩を竦める彼女に、男は声をあげて笑う。
「だから好きなのだ」
見た目が変わらないからと奇異な目で見ることもなければ、仙だと気が付いた時にも態度を変えることはしなかった。そんな彼女と、彼女が営むこの舎館とここに咲く桜が、男は何よりも好きだった。
「それに俺はお前が年を重ねていくのを見たくてな」
そして何より、彼女が人としての生を営んでいく様は、男の心に温かいものを灯してくれる。彼女の蕾が花開き、艶やかになり、そして一枚一枚花弁が散って、萎んでいく様でさえも、男にとっては胸の暖かくなることだった。
「悪趣味だね。私が一方的に年老いていくのが見たいなんて」
彼女が顰め面で酒をなめると、男はくつと笑う。きっと彼女は男の真意には気が付かない。そう思い、それでいいと思い、笑った。
しかし、彼女はわざとらしい音で言葉を続ける。
「ああそうそう。知っていたかい?」
「何を」
「私は私で、変わらないあんたを見て、毎度安心してたんだよ」
「ほう」
興味深い。関心の声をあげた男は、
「ああ、この国はまだ大丈夫だ。あんたがあんたでいる限りは……てね」
伏し目がちで薄く笑う彼女に瞠目した。
その言葉の真意は、問うまでもない。
「よく気が付いたな」
「やっぱりそうなんだね」
男の言葉に彼女は伏せていた瞳を上げて弓形に笑った。
やはりこの男は、この国になくてはならない人物だった。
この国の王。
男が王となって幾星霜。桜を愛でる余裕が生まれた。
彼女ら民には文字通り雲の上の存在。その彼がどうしてこのように何度も下へ降りて、しかも彼女の舎館に泊まりにくるかは甚だ謎でしかないが、それでも彼女は彼と接するにつけ思っていた。この男は、民を見捨てはしないと。こうしてここを訪れてくれている限り、下を切り捨てはしないと。
「……カマをかけたのか」
男が半眼で鼻から息を漏らすと、彼女は大きく笑った。
「引っ掛かる方が悪いのさ」
「確かにな。それにしても、俺の身分がはっきりした今でも態度を変えないのだな」
「変えてほしいのかい?」
片眼を開けて彼女が男を見ると、彼は柔く笑んでいた。小さく、いいや、と口にする。
「ここの桜にも、お前にも、ずっと変わらないでいてほしいな」
言いながら男は窓の外に見える桜を見つめた。
人の心を明るく暖かくする。そんな花であってほしい。
「私が死んでも訪れてくれると信じてるよ」
「無論だ」
「私の子々孫々、私の分まで見守って見届けてくれ」
「……努力しよう」
「ここで安請け合いしないのがいい。だから私はあんたが好きなんだ。――ああ、知ってたかい? 娘時分の頃にはあんたに懸想してたんだよ」
彼女の数十年越しの告白に、男は口の端に笑みを乗せる。そんな彼に彼女も微笑った。
「風漢、あんたが雁の王でよかった」
庭の桜がざわざわと風に靡いていた。
彼女は日一日と暖かくなる空気の中、最後の布の水をはたき落としながら、一つ息を吐き出した。
あの風変わりな御仁は、この春は来るのだろうか。彼女は今日になって咲き乱れる予感を見せ始めた庭の桜に目を細める。ざわついている。そんなことを感じた。
ああ。これは――。彼女が内心口の端をあげた時。そこに、大きな影が重なった。雲の影には色濃く、また狭い。
「おや」
彼女は顔をあげて獣の腹を遠くに見た。今年は来たか、と独りごちる。
程なく、その背に一人の男を乗せた獣は彼女の眼前に降り立った。
「久しいな」
「数年に一度も来ないで常連顔されても困るよ」
長く黒い髪をざっくりと束ねた男が毛づやの良い騎獣を降りながら笑った。
「そう言うな。来たくても来れん事情があるのだ」
「好き勝手放浪してる奴がよく言うよ。で、此度は幾日泊まるんだい」
「三日程」
騎獣から荷を下ろしながら男は言う。彼女は了承と部屋の準備をする旨を伝えると、空になった籠を抱えて屋内へと向かう。
男はその小さな後ろ姿に目と口許を弓形にし、騎獣の首に頭を預けてふっと息を漏らした。
彼女が見えなくなると、男は慣れた手つきで厩へ愛獣を連れて行く。他に数頭の騎獣が既に繋がれていた。厩番へ手を挙げると、厩番は瞠目し、口角をあげて男へ近寄った。
「お久し振りです」
「そう言ってくれるのはお前だけだよ」
男が笑い混じりにそう言うと、厩番は声をあげて笑う。
「あの人、毎年来るか来ないか気にしてるのに」
「俺に会うと憎まれ口しか叩かんがな」
くつと男が笑うと、厩へ彼女が内戸からやって来た。
「たまにしか来ない奴になんて憎まれ口で十分だよ。愛想よくしてほしけりゃ毎年来るんだね。ほら、水だよ。どうせあんたのことだ騎獣に無茶させてんだろう」
繋がれた騎獣の前に水の張った盥を置く彼女に、男は尚もくつくつと笑いを溢す。
「お前も、余計なことくっちゃべってないでこれくらいの気を回しな。こんなんでも客だからね」
何年経っても変わらないこのやり取りに、心地よさを感じながら男は水に鼻面をつける騎獣の首を一撫でし、内戸から屋内に戻る彼女の後に続いた。厩番に、頼む、と言いおいて。
「いつもの部屋でいいね。先に荷物を置いてくるかい?」
彼女が受付の引出しから木札の付いた鍵を取り出してそのまま放り投げると、男はいつものことと顔色を変えずそれを受け取る。
「そうだな。すぐに戻るから飯を頼む」
「何がご所望だい」
「今時期で旨いものを」
「私の料理はどれも絶品だよ」
「知っている。その中でも、おすすめを」
「酒は」
「もちろん」
「愚問だったね」
彼女の言葉に男が笑いながら向かった馴染みの部屋は、窓を開くと目の前に庭の薄桃色が広がっている。
この部屋は、この時期の特等室だと、男は知っていた。彼がそこを好いてここに来るのだと、彼女も知っていた。
昔に比べて桜は立派になっている。あれが咲いているということは、まだ大丈夫だ。
薄く笑んで、男は身体を反転させて窓の縁に腰掛ける。桜咲く庭から入り込んでくる風が髪の毛をさらう。
「ああ。いい空気だ」
目を伏せて暫しその匂いを楽しんでから、男は旅装を解いた。
食堂で男が卓につくと、彼女はわざと音をたてて徳利をそこに置いた。
「すぐ一品めが出るからそれ呑んで待ってな」
そう言って背中を向けてゆっくり歩く彼女を、酒を舐めながら男は見つめる。
今年は来れた。そして、今年も彼女はいた。心の中で安堵する。
会う毎に小さくなってはいくが、それでも彼女は変わらず、ここにいる。
それがこの上なく男を安心させた。
気がつけば卓の上にはいくつもの料理が並べられ、酒も大分進んでいる。そして気が付けば、
「まったくあんたも物好きだね」
彼女が男の前に座っていた。
「何がだ?」
「こんな地方の街の何もない外れへ、数年に一度とはいえ何度も来るなんてさ」
「何もなくはないだろう」
盃に唇を寄せ男は言う。彼女はくつと笑った。
「そういやあんたはいつもそろそろ満開だという頃合いにやってくるね」
毎年日にちは前後するというのに、と彼女は続ける。
酷い年は十日以上咲き始めからずれたこともあった。前回と同じ日程に来ていれば蕾すら開いていない桜と対面するはずだった年も、綺麗に日程をずらして、やはり間も無く満開になろうという日に来た。
いつの頃からか、桜が男を待っている気さえしている。男が来るのを察して、急激に咲き出す。桜も生きているのだ。そんなことがあっても面白い。彼女はそう思っていた。事実の程は定かではないが。
「ここは気に入っているからな」
「どこから咲き具合を知ってくるんだか」
彼女は肩を竦め、男の徳利から自分の盃に酒を注ぐ。男は気にせずにそれを愉しそうに眺め、盃に残った酒を呷る。
「桜だけではない」
軽い音をたてて卓に置かれた男の盃にも彼女は酒を注ぐ。
「ここが、好きなのだ。俺は」
その言葉に彼女は視線をあげた。
「……奇特なやつだね」
「その言葉そっくりそのまま返すぞ」
「どういう意味だい」
「俺を、ずっと変わらずに迎え入れ続けている」
片頬をあげる男に、彼女は、ああ、と短く返す。
男が初めてこの舎館に訪れたのは五十年よりも以前だった。それは彼女が十の頃。次に会ったのは彼女が十三の頃。その次は十七、それから二十一、二十六。不定期に、しかし数年に一度は必ず顔を見せている。
今では男と初めて邂逅した時幼子だった彼女の腰は曲がり肉は落ち、すっかり年老いた。結婚をし、里木に子を願い、産まれ、その子にもまた子が出来た。
人生の階段を昇っていく彼女に対し、男は変わらなかった。姿が、五十年の間に全く。初めはただ純粋に老けない人なのだと思っていた。
違和感に気が付いたのは彼女が、三十三の年だった。二十三年経って尚、皺の一つも出来ない人間がおろうか。二十代の溌剌とした様を持ち続けることなど可能だろうか。
その時初めて、彼女は男が仙なのだと気が付いた。
心から驚いたものだ。しかし、彼女にとっては関係の無いことだった。
「立場がなんだってんだい。うちにくりゃただの客だよ」
盃の酒をチビりと舐めながら肩を竦める彼女に、男は声をあげて笑う。
「だから好きなのだ」
見た目が変わらないからと奇異な目で見ることもなければ、仙だと気が付いた時にも態度を変えることはしなかった。そんな彼女と、彼女が営むこの舎館とここに咲く桜が、男は何よりも好きだった。
「それに俺はお前が年を重ねていくのを見たくてな」
そして何より、彼女が人としての生を営んでいく様は、男の心に温かいものを灯してくれる。彼女の蕾が花開き、艶やかになり、そして一枚一枚花弁が散って、萎んでいく様でさえも、男にとっては胸の暖かくなることだった。
「悪趣味だね。私が一方的に年老いていくのが見たいなんて」
彼女が顰め面で酒をなめると、男はくつと笑う。きっと彼女は男の真意には気が付かない。そう思い、それでいいと思い、笑った。
しかし、彼女はわざとらしい音で言葉を続ける。
「ああそうそう。知っていたかい?」
「何を」
「私は私で、変わらないあんたを見て、毎度安心してたんだよ」
「ほう」
興味深い。関心の声をあげた男は、
「ああ、この国はまだ大丈夫だ。あんたがあんたでいる限りは……てね」
伏し目がちで薄く笑う彼女に瞠目した。
その言葉の真意は、問うまでもない。
「よく気が付いたな」
「やっぱりそうなんだね」
男の言葉に彼女は伏せていた瞳を上げて弓形に笑った。
やはりこの男は、この国になくてはならない人物だった。
この国の王。
男が王となって幾星霜。桜を愛でる余裕が生まれた。
彼女ら民には文字通り雲の上の存在。その彼がどうしてこのように何度も下へ降りて、しかも彼女の舎館に泊まりにくるかは甚だ謎でしかないが、それでも彼女は彼と接するにつけ思っていた。この男は、民を見捨てはしないと。こうしてここを訪れてくれている限り、下を切り捨てはしないと。
「……カマをかけたのか」
男が半眼で鼻から息を漏らすと、彼女は大きく笑った。
「引っ掛かる方が悪いのさ」
「確かにな。それにしても、俺の身分がはっきりした今でも態度を変えないのだな」
「変えてほしいのかい?」
片眼を開けて彼女が男を見ると、彼は柔く笑んでいた。小さく、いいや、と口にする。
「ここの桜にも、お前にも、ずっと変わらないでいてほしいな」
言いながら男は窓の外に見える桜を見つめた。
人の心を明るく暖かくする。そんな花であってほしい。
「私が死んでも訪れてくれると信じてるよ」
「無論だ」
「私の子々孫々、私の分まで見守って見届けてくれ」
「……努力しよう」
「ここで安請け合いしないのがいい。だから私はあんたが好きなんだ。――ああ、知ってたかい? 娘時分の頃にはあんたに懸想してたんだよ」
彼女の数十年越しの告白に、男は口の端に笑みを乗せる。そんな彼に彼女も微笑った。
「風漢、あんたが雁の王でよかった」
庭の桜がざわざわと風に靡いていた。
いらっしゃいませ!
未生(管理人)
2019/04/22(Mon) 21:20 No.377


みおさん、ようこそ桜祭へお越しくださいました。管理人の勧誘にお応えくださり、また初めての十二国二次作品を桜祭にご投稿くださりありがとうございました。
憎まれ口を叩きながらも待つ女性、桜とともにその身に時を刻む姿。年老いることが許されない王はそれすらも愛おしく思っていたのでしょうね。素性が曝されてもなお通う理由になりますね。
女性の願いを安受けおいしない尚隆がとても好きです。
素敵な桜をありがとうございました。
憎まれ口を叩きながらも待つ女性、桜とともにその身に時を刻む姿。年老いることが許されない王はそれすらも愛おしく思っていたのでしょうね。素性が曝されてもなお通う理由になりますね。
女性の願いを安受けおいしない尚隆がとても好きです。
素敵な桜をありがとうございました。
王の特権
初めまして、みおさん。瑠璃と申します。
尚隆を待つ、桜と舎館の人たち。桜は大きくなって人は老いていくけど、変わらない雰囲気と対応。
ふと、尚隆はここに沢山のものを求めてきているのだなと思いました。
どうやら自分の治世を反映しているらしい桜、温かい人たち、市井の空気、そして雲上とは違う時間の流れ。最後の言葉は最上の褒め言葉だったでしょうね。
穏やかな民の一生を見送ることができるのは、長い治世を誇る王の特権ですね。
感慨深いお話でした。ありがとうございます!
尚隆を待つ、桜と舎館の人たち。桜は大きくなって人は老いていくけど、変わらない雰囲気と対応。
ふと、尚隆はここに沢山のものを求めてきているのだなと思いました。
どうやら自分の治世を反映しているらしい桜、温かい人たち、市井の空気、そして雲上とは違う時間の流れ。最後の言葉は最上の褒め言葉だったでしょうね。
穏やかな民の一生を見送ることができるのは、長い治世を誇る王の特権ですね。
感慨深いお話でした。ありがとうございます!
恋する桜
みおさん、初めまして!ネムと申します。
男が来るのを待って咲く桜ーまるで桜が恋しているかのようですね。その姿は彼女に重なります。きっと凛とした美しさなのでしょう。
風漢は、憎まれ口を叩きながら受け入れてくれる彼女の姿に、雁の民の気概と包容力を見ているのかもしれませんね。褒めてもらえて、良かったね!
あたたかな情景を見せて頂きました。ありがとうございます!
男が来るのを待って咲く桜ーまるで桜が恋しているかのようですね。その姿は彼女に重なります。きっと凛とした美しさなのでしょう。
風漢は、憎まれ口を叩きながら受け入れてくれる彼女の姿に、雁の民の気概と包容力を見ているのかもしれませんね。褒めてもらえて、良かったね!
あたたかな情景を見せて頂きました。ありがとうございます!
はじめまして&ようこそ!
はじめまして、みおさま。饒筆と申します。
うっとりと薫る心地好い風が吹いていそうな、素敵な春の一日ですね!
尚隆にとっても、女将にとっても、桜の木にとっても、一緒に過ごすこの時間が日頃頑張っている自分への「ご褒美」なのかも。
いいですねえ、楽しそう♪
六太クンがそれを聞いたら「ええ〜いいなあ、おれも混ぜて〜」って言いそうだけど、六太クンは六太クンで別の「ご褒美」があるのかも(黄海の友達んちかな?笑)
温かな情景にほっこり心和むお話をありがとうございました!
うっとりと薫る心地好い風が吹いていそうな、素敵な春の一日ですね!
尚隆にとっても、女将にとっても、桜の木にとっても、一緒に過ごすこの時間が日頃頑張っている自分への「ご褒美」なのかも。
いいですねえ、楽しそう♪
六太クンがそれを聞いたら「ええ〜いいなあ、おれも混ぜて〜」って言いそうだけど、六太クンは六太クンで別の「ご褒美」があるのかも(黄海の友達んちかな?笑)
温かな情景にほっこり心和むお話をありがとうございました!
心温まる情景
文茶
2019/04/23(Tue) 01:29 No.390


みおさま、初めまして!
テンポのいい二人の掛け合いが小気味良いです! 彼女は毎年桜の季節に、来るかも分からない客のためにちゃんと特等室を空けて待っているのでしょうね。 いやもしかしたら、他の季節にもひょっこり現れるんじゃないだろうか?と思い、年中リザーブされているのかも!?
お互い変わらないことに安堵して、憎まれ口をたたいたり受け流したり。 そんな二人の関係にこちらまで嬉しくなります。 願わくば少しでも長く、桜の下で笑い合えますように。
テンポのいい二人の掛け合いが小気味良いです! 彼女は毎年桜の季節に、来るかも分からない客のためにちゃんと特等室を空けて待っているのでしょうね。 いやもしかしたら、他の季節にもひょっこり現れるんじゃないだろうか?と思い、年中リザーブされているのかも!?
お互い変わらないことに安堵して、憎まれ口をたたいたり受け流したり。 そんな二人の関係にこちらまで嬉しくなります。 願わくば少しでも長く、桜の下で笑い合えますように。
ありがとうございます。
未生様>
素敵な企画をありがとうございます。今年で最後との由、とても残念ですが、最後に参加させていただけてよかったです^^
この企画がなかったら十二国の二次はロム専だったので、とてもいい機会でした。
自分の国の民が年を重ねられることが、尚隆にとっては寂しくも幸せなのではないかな…というところから書き始めました。
そう思っていただけてよかったです。
瑠璃様>
初めまして。お目を通してくださりありがとうございます。
市井によく降りる尚隆は、きっと沢山の顔見知りの生と死を見てきたんだろうなと思って、そんな中、こんなお話があってもいいかな。と思って書き始めました。
オリキャラメインのお話ですが、楽しんでいただけてよかったです。
ネム様>
初めまして。読んでくださりありがとうございます。
そう! 桜もまた尚隆を待っていたのならいいなあと思いながら書いてました(笑)。
尚隆の民との関わりを、受け入れてもらえてよかったです。
とても嬉しい感想をありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたのでしたら幸いです。
饒筆様>
初めまして。お読みくださりありがとうございます。
長年の間に六太も一緒に行きたがりそうだけど、尚隆が拒否してそうだなと思い、六太登場とはなりませんでした。
それこそ、自分にとっての特別な「ご褒美」だからですね。きっと。
王だとバレて態度変えられるのが嫌だったんだろうなぁ。と饒筆さんのご感想を読んでいて思いました。
さらに妄想捗る感想をありがとうございます!
文茶様>
初めまして。読んでくださりありがとうございます。
会話が多すぎて十二国の二次としてどうなんだろうと思っておりましたが、好意的に受け取っていただけて安心いたしました。
私以上に色々と描かれていない箇所のことを想像してくださり、恐縮です!
私の心こそが温かくなっております。とても嬉しい感想をありがとうございます。
本当に、願わくば、少しでも長く、少しでも数多く、桜を肴に軽口を叩き合っていてほしいです(笑)
この度は、本当に素敵な場を提供してくださりありがとうございました。
皆々様お優しすぎて涙が……
迷いながらも投稿してよかったです。
素敵な企画をありがとうございます。今年で最後との由、とても残念ですが、最後に参加させていただけてよかったです^^
この企画がなかったら十二国の二次はロム専だったので、とてもいい機会でした。
自分の国の民が年を重ねられることが、尚隆にとっては寂しくも幸せなのではないかな…というところから書き始めました。
そう思っていただけてよかったです。
瑠璃様>
初めまして。お目を通してくださりありがとうございます。
市井によく降りる尚隆は、きっと沢山の顔見知りの生と死を見てきたんだろうなと思って、そんな中、こんなお話があってもいいかな。と思って書き始めました。
オリキャラメインのお話ですが、楽しんでいただけてよかったです。
ネム様>
初めまして。読んでくださりありがとうございます。
そう! 桜もまた尚隆を待っていたのならいいなあと思いながら書いてました(笑)。
尚隆の民との関わりを、受け入れてもらえてよかったです。
とても嬉しい感想をありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたのでしたら幸いです。
饒筆様>
初めまして。お読みくださりありがとうございます。
長年の間に六太も一緒に行きたがりそうだけど、尚隆が拒否してそうだなと思い、六太登場とはなりませんでした。
それこそ、自分にとっての特別な「ご褒美」だからですね。きっと。
王だとバレて態度変えられるのが嫌だったんだろうなぁ。と饒筆さんのご感想を読んでいて思いました。
さらに妄想捗る感想をありがとうございます!
文茶様>
初めまして。読んでくださりありがとうございます。
会話が多すぎて十二国の二次としてどうなんだろうと思っておりましたが、好意的に受け取っていただけて安心いたしました。
私以上に色々と描かれていない箇所のことを想像してくださり、恐縮です!
私の心こそが温かくなっております。とても嬉しい感想をありがとうございます。
本当に、願わくば、少しでも長く、少しでも数多く、桜を肴に軽口を叩き合っていてほしいです(笑)
この度は、本当に素敵な場を提供してくださりありがとうございました。
皆々様お優しすぎて涙が……
迷いながらも投稿してよかったです。
尚、このお祭は個人の運営するもので、公的なものとは一切無関係でございます。
当サイト内の文章・画像等の無断転載はご遠慮くださいませ。
当サイト内の文章・画像等の無断転載はご遠慮くださいませ。
- JoyfulNote -