さて
新刊の発売日決定と聞いて、何故か ぽかんと話が浮かびました。
分類すると末声のような気もするのですが、どうもはっきりしないので、傾向が(いつも通り)妙なものになってしまいました。ごめんなさい --;
登場人物:陽子
傾 向:末世か新世か
文字数:1131文字
さてはて
― 陽春 ―
山肌を覆う若葉の下を、一人の婦人が歩いて行く。
足元の、木漏れ日で出来た薄緑の透かし模様を見つめながら、ゆっくりと上って行く。
すると、不意に視界が白くなった。目を眇め見回すと、森が切れ、小さな広場のような所に出たのだった。
空は抜けるような青だった。出てきた森も、その先の樹々も若々しい萌黄色。丈が伸びてきた下草には、青や紫、黄色い小さな花が散りばめられている。しかし、これ程春めいた景色の前で、彼女が呟いた言葉は…。
「年取ったなぁ」
そう言いつつ息を整え、腰を叩く。山を染め上げる若葉にも負けない翡翠色の瞳が、ふと遠くを見遣る。
― 昔、お母さんやお祖母ちゃんに“あんたはまだ若いんだから”って用事を言いつけられると“私も疲れているのに”なんて心の中で文句を言っていたけど、やっぱり十代と今じゃ、全然体力が違うよね ―
そしてやはり心の中で、遥か昔の母や祖母に詫びるのだった。
再び目の前の風景に目を戻すと、広場の下草に、咲いている花以外の花びらが散らばっていることに気が付いた。すっかり干からび縮んだ薄紅色の花びら達。
― 以前ここに来た時は、ここら一面桜の花に囲まれていたんだっけ ―
そう、ここへ来る道もすべて薄紅色の天蓋に覆われていた。空はまだ靄がかかったような水色で、陽の光もすべて花に吸い込まれたよう、広場も森も、澄んだ淡い桜色に包まれていた。
あの時、枝垂れて伸びた枝の花に、怖々と触れてみた。空気で出来たかのような薄い華奢な花びらは、彼女が触れても微かに震えるだけ。それでいて、風も吹かぬのに、はらはらと散っていく花もある。
― ただ己が咲く時期に咲き誇り、時が来たので散ったのだ。あの世界のように ―
一つの秩序が崩壊した。
混乱に続く混乱。きっとこの山の桜が一斉に散った時のように、風で舞い上がった花びらが全てを覆い尽くし、周囲は何も見えず、花びらと共に消えてしまったように見えただろう。しかし気が付くと、この山のように森は残り、何事もなかったように新しい緑が芽吹いているだけ。見た目は変わっても、淡々と時が流れるのに変わりはなかった。
足元に散らばる花びらの名残を見ていると、懐かしい人々が脳裡に浮かぶ。あの時、この世界から笑って去って行った人。彼女と同じように、この世界に残った人。その内幾人かは今も便りを寄越し、幾人かは静かにこの世界の土に還った。
― でも、私もそのうち行くのだから ―
そう思うと、不思議と微笑みが浮かんでくる。
頬に何かが触れた。思わず手を伸ばすと、一枚の薄紅の花びらだった。名残の花があるのだろう。そして時に沿い、穏やかに散って、世界に溶け込んでいく。
彼女は微笑んだまま顔を上げ、翡翠の瞳に春の青空を映す。
「陽子」
下の方から、彼女を呼ぶ声が聞こえた。
― 陽春 ―
山肌を覆う若葉の下を、一人の婦人が歩いて行く。
足元の、木漏れ日で出来た薄緑の透かし模様を見つめながら、ゆっくりと上って行く。
すると、不意に視界が白くなった。目を眇め見回すと、森が切れ、小さな広場のような所に出たのだった。
空は抜けるような青だった。出てきた森も、その先の樹々も若々しい萌黄色。丈が伸びてきた下草には、青や紫、黄色い小さな花が散りばめられている。しかし、これ程春めいた景色の前で、彼女が呟いた言葉は…。
「年取ったなぁ」
そう言いつつ息を整え、腰を叩く。山を染め上げる若葉にも負けない翡翠色の瞳が、ふと遠くを見遣る。
― 昔、お母さんやお祖母ちゃんに“あんたはまだ若いんだから”って用事を言いつけられると“私も疲れているのに”なんて心の中で文句を言っていたけど、やっぱり十代と今じゃ、全然体力が違うよね ―
そしてやはり心の中で、遥か昔の母や祖母に詫びるのだった。
再び目の前の風景に目を戻すと、広場の下草に、咲いている花以外の花びらが散らばっていることに気が付いた。すっかり干からび縮んだ薄紅色の花びら達。
― 以前ここに来た時は、ここら一面桜の花に囲まれていたんだっけ ―
そう、ここへ来る道もすべて薄紅色の天蓋に覆われていた。空はまだ靄がかかったような水色で、陽の光もすべて花に吸い込まれたよう、広場も森も、澄んだ淡い桜色に包まれていた。
あの時、枝垂れて伸びた枝の花に、怖々と触れてみた。空気で出来たかのような薄い華奢な花びらは、彼女が触れても微かに震えるだけ。それでいて、風も吹かぬのに、はらはらと散っていく花もある。
― ただ己が咲く時期に咲き誇り、時が来たので散ったのだ。あの世界のように ―
一つの秩序が崩壊した。
混乱に続く混乱。きっとこの山の桜が一斉に散った時のように、風で舞い上がった花びらが全てを覆い尽くし、周囲は何も見えず、花びらと共に消えてしまったように見えただろう。しかし気が付くと、この山のように森は残り、何事もなかったように新しい緑が芽吹いているだけ。見た目は変わっても、淡々と時が流れるのに変わりはなかった。
足元に散らばる花びらの名残を見ていると、懐かしい人々が脳裡に浮かぶ。あの時、この世界から笑って去って行った人。彼女と同じように、この世界に残った人。その内幾人かは今も便りを寄越し、幾人かは静かにこの世界の土に還った。
― でも、私もそのうち行くのだから ―
そう思うと、不思議と微笑みが浮かんでくる。
頬に何かが触れた。思わず手を伸ばすと、一枚の薄紅の花びらだった。名残の花があるのだろう。そして時に沿い、穏やかに散って、世界に溶け込んでいく。
彼女は微笑んだまま顔を上げ、翡翠の瞳に春の青空を映す。
「陽子」
下の方から、彼女を呼ぶ声が聞こえた。
なるほど
「十二国記」完結後の世界……ですか?
うわ〜ん、今年の新刊四冊で本当に完結してしまうのかと思うと、泣けてきました(涙)
新刊が出ないのもつらいけれど、物語が終わるのも辛い!(しくしく)
こんな風に、いろいろあったけれど穏やかに終われるといいですね……
陽子さんにとっては、年老いることができるのは喜びかもしれない。
ごく個人的な妄想ですが、「陽子」と呼んだのは好々爺になった楽俊であって欲しいな〜と思いました(すいません、願望と言うより欲望かも・笑)
うわ〜ん、今年の新刊四冊で本当に完結してしまうのかと思うと、泣けてきました(涙)
新刊が出ないのもつらいけれど、物語が終わるのも辛い!(しくしく)
こんな風に、いろいろあったけれど穏やかに終われるといいですね……
陽子さんにとっては、年老いることができるのは喜びかもしれない。
ごく個人的な妄想ですが、「陽子」と呼んだのは好々爺になった楽俊であって欲しいな〜と思いました(すいません、願望と言うより欲望かも・笑)
どちらに傾いている!?
文茶
2019/04/23(Tue) 01:35 No.391


色彩豊かな世界、もしや黄泉の国では!?と思ったらば、陽子さんの「年取ったなぁ」の一言で一気にこちらへ引き戻されました(笑) そしてそれに続く一連の回想がまたなんとも現実的で微笑ましい^ ^
不穏な感じがするのに温かい気持ちになるのは、全体的に光が溢れてるからなんですよね。 そして全てがやわらかく滲んでいくような感覚にとらわれます。 もうネムさんの描写が素晴らしくて上手く言葉がまとまりません〜、すみません;
ちなみに最後に声を掛けたのは、私も楽俊だと思いました^ ^
不穏な感じがするのに温かい気持ちになるのは、全体的に光が溢れてるからなんですよね。 そして全てがやわらかく滲んでいくような感覚にとらわれます。 もうネムさんの描写が素晴らしくて上手く言葉がまとまりません〜、すみません;
ちなみに最後に声を掛けたのは、私も楽俊だと思いました^ ^
じんわり
未生(管理人)
2019/04/23(Tue) 21:44 No.392


拝読しながら胸がじんわりいたしました。陽子主上、歳を取っているのですね……! 王を縛る頸木から解放されたのですね……(泣)。感無量でございます……。
すべて終わった世界が優しい者でありますようにと祈って已みません。
呼び声は可愛いおばあちゃんになった祥瓊だといいな〜。
饒筆さん、文茶さん、先レスありがとうございました。
すべて終わった世界が優しい者でありますようにと祈って已みません。
呼び声は可愛いおばあちゃんになった祥瓊だといいな〜。
饒筆さん、文茶さん、先レスありがとうございました。
ありがとうございます!
饒筆さん> 分かります〜!! 結末は知りたいけど、皆と別れるのは寂しいし… どなたかが「小野先生は、長編は(!)もう書かないと言ってた」と呟いているを読んで「そうか〜」なんて思ってしまいました(未練です 笑)
最後の呼び掛けた人物は、陽子が一人でないという設定なだけで、特に決めていません。思う方を当てはめてください。(好々爺の楽俊。似合ってます〜)
文茶さん> ハハハ…思い切り実感込めて書いてしまいました。
いえいえ、文茶さんのお言葉の方が美しいです。桜祭では皆さんのコメントも作品になっていますよね。
未生さん> 本当に、ラストが皆にとって良いものでありますように。今まで陽子の年を取った姿なんて想像もしていなかったのに、いざ書いてみると似合うように思えるから不思議です。
祥瓊はきっとしっかりした老美人になってると思いますよ ^▽^
コメント、ありがとうございました!
最後の呼び掛けた人物は、陽子が一人でないという設定なだけで、特に決めていません。思う方を当てはめてください。(好々爺の楽俊。似合ってます〜)
文茶さん> ハハハ…思い切り実感込めて書いてしまいました。
いえいえ、文茶さんのお言葉の方が美しいです。桜祭では皆さんのコメントも作品になっていますよね。
未生さん> 本当に、ラストが皆にとって良いものでありますように。今まで陽子の年を取った姿なんて想像もしていなかったのに、いざ書いてみると似合うように思えるから不思議です。
祥瓊はきっとしっかりした老美人になってると思いますよ ^▽^
コメント、ありがとうございました!
じわじわくる。
「一つの秩序が崩壊した。」
この一言の重さがじわじわきます。
でもネムさんの紡ぐ言葉の温かさが悲壮感を感じさせません。年を取ることができた陽子さんに祝福を送りたくなるのは、自分も年を取ったからかな(笑)。
素敵なお話でした。ありがとうございます!
この一言の重さがじわじわきます。
でもネムさんの紡ぐ言葉の温かさが悲壮感を感じさせません。年を取ることができた陽子さんに祝福を送りたくなるのは、自分も年を取ったからかな(笑)。
素敵なお話でした。ありがとうございます!
ありがとうございます
瑠璃さん> 設定については、小野先生ならやりかねない、と思ってのことですが、新刊が出たら笑ってやって下さい。
風景については、瑠璃さんの秘密の花園のイメージがちょっと入ってます(全然違っていたらゴメンなさい)
コメントありがとうございました!
風景については、瑠璃さんの秘密の花園のイメージがちょっと入ってます(全然違っていたらゴメンなさい)
コメントありがとうございました!
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