桜に託す小さな願い
2007/03/21(Wed) 05:57 No.16
見上げると、空が淡く霞んでいた。そういえば、手を切るように冷たかった炊事に使う水も、温み始めている。春が近い。そう思い、鈴は庭院に目を向けた。
どの窓からも目に入る場所に植えられた、幾本もの小さな苗木。それは、この金波宮の主がこよなく愛する花木である。海客の鈴にとっても、懐かしい花である桜の木。
まだまだ小さいその木を眺め、鈴はにっこりと笑みを浮かべる。いつも案件に顔を蹙めている女王も、ふと目を留めて微笑する、その苗木。
隣国の王が、伴侶のために持ってきたその木は、忙しい女王を慰める。そして、鮮やかな笑みを見せる女王に、鈴たちも笑みを誘われる。
陽子のお花見について行くことはできないけれど。いつかここで、みんなで、のんびりと、ゆっくりとお花見をしよう。
慶がそんなふうに平和が似合う国でありますように。今日も鈴は小さな桜に想いを託す。
2007.03.09.
後書き
2007/03/21(Wed) 06:39 No.17
「黄昏」を書き綴りながら、早く慶が平和になればいいな、と思っておりました。
そんなときに、働いていた鈴が、少し手を休めて語ってくれました。
「故郷」の前辺りの頃だと思います。
なんだか、ほのぼのと胸が温まりました。
皆さまにも楽しんでいただけると嬉しいです。
2007.03.21. 速世未生 記